24 魔導師エルトン
*エルトン視点*
無属性についてはあまり記録に残されてはいない。特に、ここ300年程の記録は無い。滅多に存在しないと言う理由もあるが、本当の理由は───
「騎士団を辞めたと聞いたけど、早すぎないか?ジェラールはまだ25にもなってないだろう?」
ジェラール=グリンデルバルド大公
王弟ではあるが、国王とは母親が違う。国王は皇后陛下の子で、ジェラールの母親は側妃だった。その側妃が早くに亡くなると、それと同時にジェラールは自ら王位継承権を放棄して大公を叙爵された。
「私は大勢を指揮するような人間じゃないし、放棄したとは言え私が軍を指揮する立場に居ない方が、より平和でしょう?」
母親は違うが兄弟仲は良い。でも、王位継承権を放棄してもジェラールの存在が気に食わない者や、利用しようとする者もそれなりに居るのは事実だ。
「とは建前で、面倒臭い事が嫌なのと、魔法の研究がしたいだけだよね?」
「そうとも言うかもしれませんね」
このジェラールもまた、私と同じ魔法馬鹿で、よく私の研究の手伝いをしてくれている。それが故に、無属性についても私と同じぐらいの知識を持っている。
「本当に、生きている間に無属性に会えるとは……エルトンは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。寧ろ、恩返しができるかと思えば嬉しいかな。長生きはするもんだね」
「ひよっとしたら……父親は知っていたのかもしれませんね」
「その可能性はあるね」
あのノートには、いくつか不思議な調合のモノがあるとオリビアが言っていた。それも、オリビアに調べてもらうようにお願いしている。
「兎に角、謎だらけで本当に楽し──大変だけど、これからはジェラールも一緒にできるとなると心強いよ」
「素直に『楽しい』と言ってもらって良いですよ。ただ……ティニーは本当に泣きませんね」
「そうだね………」
“お母さん”との再会の話を聞いた時は腹が立った。容姿が違うから否定してしまうのも分かるが、まだまだ幼さの残る女の子が必死になって伸ばした手を払い、話を聞きもせず身分を翳して諌めた。子を持つ親なら、話を聞くだけでもできただろう。
「ティニーは、諦める事に慣れ過ぎてるんだね」
8年も焦がれ続けた“お母さん”よりも、お父さんを選んだティニー。自分を護ってくれたお父さんだ。
「取り敢えず、私は私のルートで色々調べようと思っている。属性に関して国に報告するつもりはない。公爵には絶対に知らせない」
「それで良いと思います」
ジェラールも思うところがあるんだろう。私とジェラールだけではなく、ルチア様もエリック様もオリビアでさえも、ティニーを信じている。
「“カイリーさん”が気になるところだけど、ジェラールは会った事はある?」
「ありません。公女と一緒に挨拶に来たのは娘だけだったし、それ以降は交流も無いので……」
ティニーの話では、カイリーも平民で魔法を使ったところは見た事が無いらしいが、それもまた怪しい。もしカイリーが魔力持ちなら、ピサンテを壊滅に追いやった張本人かもしれない。
「その“カイリーさん”についても調べてみよう」
「私も、このノートを渡す時にでも確認しておきます。それじゃあ、3ヶ月後にまた来ます」
「ああ、また3ヶ月後に……」
ジェラールは軽く頭を下げてから、再び王都へと帰って行った。
コンコン
「エルトン様入っても良いですか?」
「どうぞ」
「失礼します」
やって来たのはティニーだ。
「家の結界の調査のお手伝いをさせてもらうことになりました。迷惑にはならないようにします。宜しくお願いします。それで、家を片付けたり必要な物を準備しようと思うんですけど、指示してもらえたらと思って……」
「そんな事、ティニーがしなくても…と言ってもティニーの家だからティニーにお願いした方が良いね。それじゃあ、私と一緒に買い物に行ってもらえるかな?」
「買い物?あ、ルチア様に外出して良いかどうか訊いてきます!」
ルチア様から許可が出て、私とティニーは街に出て買い物をした。食器や家具はある物で大丈夫だろうと言う事で、主に日用品の買い物をした。その店を巡る中で、ティニーの視線が止まった物を密かに確認して、ティニーにはバレないようにそれらも購入した。それは、可愛らしい髪留めやハンカチで、ティニーと同じ年齢の子であれば誰でも持っているような物ばかりだった。動物の形をしたクッキーを見る目は、1番キラキラしていたのには笑ってしまいそうになった。
ー少しは、心が緩やかになったかな?ー
まだまだ表情を表す事は殆ど無いし、甘える事も我儘を言う事もないけど、あの“お母さん”の事は忘れて自分の幸せを願って前に進んで欲しい。そんなティニーを側で見守っていきたいと思っている。




