23 ジェラール=グリンデルバルド大公
*ジェラール=グリンデルバルド大公視点*
『生死を彷徨っていた公女が目を覚ましたようです』
その報せを受けたのは8年前。
『ところどころの記憶が戻ったようですが、夫君は亡くなっていて子供が居たそうで、今は公爵が必死になって捜しているそうです』
それが2年前で、その時点で6年も経っていたのだから、その幼い子供がどうなっているのか──住んでいた場所さえ思い出していないのなら、見付ける事は難しいだろう。
「可哀想に……」
その2年の間、パルティアーズ公爵家は騒がしかった。“公女の娘を捜している”と言う噂が一瞬のうちに広まると同時に『私が娘です』『娘を見付けました』と、嘘の公女の娘が現れたからだ。ピンク色の髪と瞳の女の子。記憶も曖昧な公女だから騙せると思ったのか、直ぐにバレるような偽物も居れば手の込んだ偽物も居て、一喜一憂する公女のメンタルはボロボロに近かったそうだ。
そして2年。ようやく見付かった本物の娘─ナディーヌ。ピサンテ村出身のピンク色の髪と瞳で、可愛らしい女の子で公女すら失っていた事を知っていた。そして、何よりも彼女が本物だと決定付けるモノが2つあった。
1つ目は、親子鑑定で90%の確率が出た事。
2つ目は、彼女が公爵家の女性に代々引き継がれると言う指輪を所持していた事。
その指輪は、本来縁を切られた公女に引き継がれる予定はなかったようだが、今は亡き公爵夫人─公女の母が公爵には内緒で渡していたそうだ。その指輪を、その娘はそうだとは知らずに身に着けていたそうだ。
その娘が通う学校に、たまたま視察にやって来たのがパルティアーズの傍系の夫婦で、平民の子でありながらそれなりの魔力持ちだった彼女を養子に─と考え声を掛けたが、その指輪に気付いて公爵に報せた事で、ようやく本物の娘と再会する事ができた。
となれば、誰がどう見てもあのナディーヌは本物だ。疑う余地がない。
私にも挨拶に来た時の公女と娘は笑顔で、仲の良い母娘だった。
そんな中でのデミトリア辺境伯からの報せは“ピサンテ村が壊滅した”だった。生存者はただ1人。それも幼い女の子だ。
『その少女が疑わしいと言う事はないんですか?』
と言ったのは、第一王子アラールだった。
疑いたくなるのも分からなくもないが、その生存者は平民で魔力も持っていないようだから、その女の子が何かをしたと言う事は無いだろう。
ただ、公女母娘はピサンテ村で過ごしていた時、村人達からは良い対応をされていなかったようで、ピサンテが壊滅したと聞いても、特に何の感情を表す事もなかった。だから、まさか、公女が公爵に黙ってピサンテ迄やって来るとは思わなかった。しかも、唯一の生存者が『公女の娘だ』と名乗るとは思わなかった。もう、公女の娘は見付かっているのに。
ーなんと愚かなー
と思っていたが、辺境伯や魔導師エルトンがその少女を見る目がなんとも優しいもので驚いた。
『大公様は……私の事を信じてくれるんですか?』
『正直に言うと『信じている』と言うより、『嘘はついていない』と思っている』
実際ティニーと話をすると、スルッとあの言葉が口から出た。ティニーが嘘をついているとは思えなかったからだ。表情が殆ど変わる事はないし、俯き加減でいる事が多いのに、あの話をした時の目はしっかりと俺を見ていた。ならば、色々と調べてみるか?と思った矢先、ティニーが公女と遭遇してしまった。
あの公女は、ティニーの話を聞く事もなく、ティニーが伸ばした手も払い除けた。拒絶したのだ。公女の気持ちも分からなくもない。公女の記憶している我が子の容姿とは全く違う上に、既に娘が居るのだから。
『それに……貴方は魔力無しでしょう?私の娘は、魔力持ちなの。魔力を発現したお陰で、娘はようやく貴族として認められたのよ。魔力の無い貴方は、私の娘ではないわ』
アレが、公女の本音だろう。公爵は血を重んじる人間だ。あの公爵が娘(孫)を受け入れたのも魔力持ちだったからだろう。
「それが……まさか、ティニーが無属性だったとは」
「魔力暴走を起こしても無事だったのは、本当に幸運もあるけど、父親のお陰だろうね」
うんうん─と楽しそうに頷いているのは魔導師エルトン。俺の魔法の師匠でもある。俺は剣と武力に長けていて第一騎士団の副団長になったが、実は武よりも魔法の方が優れている──のは、ごく少数の者しか知らない事実だ。それを知っているから、魔法陣を調べさせる為に兄が俺をピサンテの視察団に放り込んだのだ。
「ティニーにはまだ真実は話していないんだ。正直、王族であるジェラールにも言わないつもりだったんだけどね」
「それなら安心して下さい。私は、誰にも言うつもりはありませんから」
ティニーもが“お母さん”にも言わなかったのだから、態々俺が伝える必要も無い。
「ありがとう。ティニーには、これからは幸せな時間を過ごして欲しいからね」
と、エルトンは微笑んだ。




