22 今あるモノ
「そんな事があったの!?」
あのやり取りを話し終えると、ルチア様達は驚いた様子だった。本当に、大公様も公女様もルチア様達には言ってなかったようだ。
「今迄言わなくてすみませんでした。もし私の事で迷惑をかけてしまったら……」
「それは大丈夫だろう。公女が辺境伯に言っていないから、問題になる事はないだろう。私からも何かを言う事はないからね」
ーそうだと良いけどー
「だから、もう“お母さん”について調べなくてもいいって事?」
「はい」
「ティニーが望むなら、私が調べて“ナディーヌ”に戻る事もできるわよ?本当のナディーヌは貴方なんでしょう?」
私の話を聞いて私の事を信じてくれるのは、どうしても会いたかった“お母さん”じゃなくて、私を助けてくれたルチア様とオリビアさんだった。大公様も私の話を聞いてくれる。
「お母さんは、私の話を聞いてくれませんでした。『魔力が無くても愛してる』と何度も言ってくれたのに、私よりも魔力持ちのナディーヌを選んだんです。たとえ、色が変わっていても分かってくれると思っていたけど、分かってくれなくて、説明しようとしても聞くことさえしてくれなかったんです。そんな人に、証拠を出して『魔力も発現した』と言って受け入れられたとしても無理なんです。私が……もう無理なんです」
「ティニー………分かったわ。貴方がそこまで言うなら、私も何もしないわ。それで?この話と大公様へのお願いは何か関係があるの?」
「はい。私、今すぐにここを出て1人で生きていく事は、正直難しいと思うんです。でも、このままここでお世話になるのも駄目だと分かっているんですが、私が成人する迄で良いので、オリビアさんについて薬師について学ばせてもらえませんか?それと、できれば、大公様のお手伝いもさせてもらえませんか?」
本当は『オリビアさんについて薬師の勉強がしたい』だけだったけど、大公様が家の結界を調べると聞いて、新たな願いを抱いた。
「私について学ぶ事は問題無いわ。ティニーは今でも優秀な私の助手だから、それが弟子になるなら喜んで受け入れるわ」
「オリビアさん、ありがとうございます!」
オリビアさんは笑顔で受け入れてくれて、ルチア様とエリック様も頷いてくれた。大公様は──
「どうして手伝いをしたいと?」
「お父さんの事が知りたいからです」
今迄の私の世界はお母さんだけだった。お父さんの事を知ろうともしなかった。でも、私をずっと護ってくれていたのはお父さんだった。
「ただそれだけの理由です。だから、駄目だと言われたら無理にはお願いしないので、もし、何かお父さんについて分かった事があったら教えてもらうだけでも良いんです」
「家主のお願いなら、聞かないわけにもいかないし、寧ろ、ティニーが手伝ってくれるなら助かるよ」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
正直、国王様直々の調査だから、平民の子供が手伝えるとは思っていなかった。
北部の寒期は3ヶ月程続き、そのうちの1ヶ月は雪で覆われる為他領への交通路も遮断されてしまう。今はその寒期がそろそろ訪れる季節で、家の調査はその寒期が終わった3ヶ月後から始めるとの事だった。
「それ迄に、少しでも滞在や調査がしやすいようにしておきます。何か希望があれば準備もしておきます」
「分かった。何かあれば連絡を飛ばそう」
「あ、ルチア様、一つお願いしても良いですか?」
「何?」
私は、1冊のノートを差し出す。
「このノートを、ルチア様の名前で公女様に送って欲しいんです」
「これ、ティニーが大切にしていたノートでしょう?良いの?」
“お母さん”が色々考えて作ったレシピが書かれたノート。お母さんとの思い出がいっぱい詰まっている。もう、このノートを見なくても作れるようにもなっている。
「これは“お母さん”と“ナディーヌ”の思い出のレシピノートだから、あの2人に返します。家の調査の時にでも見付かったからとでも言って下さい」
「奪われた上に、態々渡す事はないのよ?ティニーが持っていても──」
「奪われたモノを取り返したい──とは思ってません」
勿論、奪われたと分かった時は取り返したいと思ったけど、奪われたモノを取り返すより、今あるモノを大切にしたいと言う気持ちの方が大きくなった。
「私は、今あるモノを大切にしたいんです」
そうすると、これ以上奪われるのは嫌だと言う事に気が付いた。これ以上奪われない為には私も強くならないといけない。
ただ、お母さんの結婚指輪だけは返すつもりはない。お母さんの指輪でも、その指輪に付いているのはお父さんの色だから。お父さんの家も捨てたお母さんには、返したくない。
「それなら、私から渡しておこう」
と、そのノートを手にしたのは大公様。転移魔法で今日のうちに王都に帰るから直ぐに渡せるとの事だった。
「宜しくお願いします」
私は遠慮せず大公様にお願いした。




