20 奪われたモノ
「大公様!?あの……これは……わたし……」
「落ち着いて、大丈夫。私はティニーを咎めるつもりはないから」
「わたし……本当に………」
ーあの人は、私のお母さんだった……でもー
「大公様、お願いがあります」
「なんだい?」
「もう“お母さん”の事は……調べなくてもいいです」
「どうして?」
私は、髪の色や瞳の色が変わっていても、お母さんが私だと分かってくれると思っていた。分からなかったとしても、話をすれば分かってくれると思っていた。でも──
「魔力も持ってない私が、公女様の娘だなんて事は有り得ないからです。あの人は……私の“お母さん”じゃなかったんです……」
本当は魔力持ちだったけど、属性が属性だから、国にも神殿にも報告をしていないとルチア様が言っていた。無属性だから、他人からは魔力持ちと感じられる事は殆ど無いとも言われたから、きっと大公様も私は魔力無しだと思っているだろう。
「ティニーがそう言うならそうなんだろね。ただ、君はまだ幼い。もっと我儘を言っても良いんだよ?それこそ、泣きわめいたって、誰も怒ったりはしない」
「ありがとう……ございます………」
貴族のトップに立つような大公様が、わざわざ私と視線を合わせて話をしてくれる。その温かい優しさが嬉しいのに、素直に笑う事も泣く事もできない。どうしたら感情を表せるのかが分からない。
それから、大公様は私には何も訊く事も話をする事もなく私の部屋まで送ってくれた。
大公様と別れた後も眠れる事はなく、そのまま部屋が明るくなるのを待ち続けた。
夜中の出来事は、ルチア様には伝わっていないのか、朝になってもルチア様が私の部屋に来る事はなく、使節団と最後の昼食会が終わり、使節団が帰路の準備を始めても私の部屋に誰かが来る事はなかった。
私は朝食も部屋で1人で食べた。昼食後は、邸の前庭が見える窓から、ズラリと並んだ豪華な馬車や馬の隊列を眺めている。
ー本当に、貴族の世界は凄いなぁー
ピサンテには、馬でも数頭しかいなかった。馬車なんて物はないから、何処に行くにも歩くしかなかった。それが、今は目の前に茶色や白色や黒色の馬が沢山並んでいる。特に目立つのは全身真っ黒な馬。他にも黒色の馬は居るけど、たてがみが赤っぽかったりする。後数時間後には、この馬車や馬達は王都へと帰って行く。
「ん?」
と、そこへ、新たに豪華な馬車が門の方から入って来た。誰か、客が来たのかもしれない。
その馬車が少し離れた位置に停車すると、その馬車へと向かって行くのは王子様だ。と言う事は、王子様が乗る馬車なのか?
「────え?」
その馬車の御者が扉を開けて、その中から女の子が顔を出した。すると、王子様はその女の子に手を差し出し、その女の子は王子様の手を取って馬車から降りて来た。
「な……んで………」
王子様は背中しか見えないけど、女の子は王子様に笑顔を向けていて、とても嬉しそうに何かを話している。ふわふわとしたピンク色の髪の可愛らしい女の子。
「──────ジェイミー?……っ!」
ズキズキと頭が痛みだす。
『同じピンク色の髪と瞳で、まるで姉妹みたい』
『娘の名前はナディーヌ』
更に、王子様とジェイミーの元へやって来たのはお母さん。そのお母さんにジェイミーが抱き付けば、お母さんはジェイミーを抱きしめ返した。
『アンタが生きていると、色々と困るのよ』
「そう言う……事か……………」
1番最初に奪われたのは私の部屋だった。
気付かないうちにお金や宝石を奪われていた。
最後に奪われたのは、お父さんの指輪とあのピンク色のおばあさんの指輪だと思っていた。
でも、それは違っていた。
私からナディーヌとお母さんを奪っていたのだ。
*“お母さん”視点*
「お母さん!」
「ナディーヌ!」
愛しい娘のナディーヌが、私に笑顔で抱きつく。わざわざ、王都からここ迄私を迎えに来てくれたのだ。
「道中、大丈夫だった?」
「大丈夫よ」
まだ記憶が全て戻った訳じゃないけど、ピサンテは私とブライアンとナディーヌの3人が、数年だけだけど幸せな時間を過ごした場所だった。もう一度、あの家を目にしたくて、お父様には内緒で使節団の後を追って来た。ただ、ブライアンが亡くなった後は辛い事が多くて、ナディーヌにとっては辛い思い出しかないと思ったから連れては来なかった。それに、あの惨状は見せなくて正解だったと思う。
最後にあの家を見られて良かったけど、結局、私の結婚指輪を見付ける事ができなかったのは残念だ。
「ナディーヌ、迎えに来てくれてありがとう」
「ナディーヌは、本当に母君の事が好きなんだな」
「勿論ですよ、アラール殿下」
8年ぶりに会ったナディーヌは、魔力を発現させていて驚いた。お父様と私と同じ火属性だったお陰で、お父様もすんなりとナディーヌを受け入れてくれた。貴族となって、もう二度と私もナディーヌも苦しむ事も辛くなる事もないだろう。この8年間、ナディーヌに辛い思いをさせてしまった分、これからは私がナディーヌを護って幸せにする。
その幸せを壊そうとする者が居るのなら、私は容赦するつもりはない。相手が誰であろうとも。




