19 再会?
あれから、私が目を覚ましたのは翌日の朝だった。
目が覚めると、すぐにオリビアさんが私を診てくれて、朝食も一緒に食べてくれた。
「色々と混乱していると思うけど、今はゆっくり休む事。無理はしないようにね」
「はい………」
何がどうなっているのか──考えようとすると、頭が痛くなって思考が鈍くなる。
「後でルチア様が来ると言っていたわ」
「分かりました」
今日は、王子様はエリック様とピサンテではない所に視察に行く予定で、大公様はエルトン様とあの家の結界を調べに行く予定だった。
そして、今、この邸には“お母さん”も居る。その“お母さん”は、私のお母さんなのか?
それから、ルチア様がやって来たのは1時間程経ってからで、大公様とオリビアさんも一緒だった。
どうやら、今日の結界の調査はエルトン様に任せたそうだ。大公様も、公爵家が関わる事を無視する事ができなかったのかもしれない。
「今の段階で今回の話を知っているのは、グリンデルバルド大公様とオリビアと私とティニーだけで、エリックにも言ってないし、アラール殿下と公女様本人にもまだ言っていないわ」
「特に、アラールには注意した方が良い」
そう言ったのは大公様。何故王子様に注意が必要なのか?と訊けば、王子様は公女様の“娘”と仲が良いそうで、私が『娘は私です!』と言えば『王族や公爵に嘘をつくな!』と私が罰せられる可能性があるからなんだそうだ。
「私が……嘘をついてると……思われているんですね」
ー嘘なんてついてないのにー
「私は、ティニーが嘘をついているとは思っていないが、本当だと言う証拠も無いから、今の段階で事が大きくなってしまったら、ティニーを護る事ができないからね。ティニーにとっては辛いかもしれないが、もう少しだけ待っていてもらえるか?」
「大公様は……私の事を信じてくれるんですか?」
「正直に言うと『信じている』と言うより、『嘘はついていない』と思っている」
子供相手に誤魔化す事なく、話してくれる大公様は誠実な人なんだろう。
「私もティニーが嘘をついてるなんて思ってないわ」
ルチア様の言葉にオリビアさんが頷く。今の私には、私の言葉に耳を傾けてくれる人達が居る。それがとても嬉しい。
「ありがとう……ございます………」
それから、大公様が密かに、神殿に親子鑑定の結果の確認の手紙を飛ばしてくれた。ルチア様は、“お母さん”から“娘”の話を訊くと同時に、その“娘”が通っていた学校にも何らかの手紙を飛ばすと言っていた。
今できる事はそれだけ。なら、私は──
『貴方に、魔力があれば……』
私には魔力があった。それなら、魔力を上手く扱えるようになれば、私を迎えに来てくれるかもしれない。
「頑張ろう」
視察期間は5日間。“お母さん”も視察団と一緒に王都に帰る事になったそうで、私は“お母さん”に遭遇しないように、その間は部屋に引き篭もる事になった。その間は、オリビアさんのお手伝いはできないけど、薬草の勉強と魔法陣の勉強は続けている。エルトン様は大公様と、毎日あの家に行って結界を調査している。
そんな中、時々ルチア様と大公様が私の様子を見に来てくれている。
そんな日を過ごして、いよいよ明日、視察団が帰ると言う日の夜中だった。喉が渇いて目が覚めてしまい、時間も時間だからと、自分で食堂で水を飲む為に部屋を出た。
食堂で水を飲んで部屋に戻る途中、客室の扉が開く音がした。
ー誰か分からないけど、会わないようにした方が良いかな?ー
廊下の隅に寄って暗闇に紛れようと一歩後ずさろうとして──
「おかあ……さん?」
暗い廊下の中、窓からの月の明かりに照らされた人は、私の記憶の中に居る“お母さん”だった。
「あら?こんばんは。デミトリアに、女の子が居るなんて知らなかったわ」
その声もまた、私の記憶にあるお母さんの声だ。
「おかあさん………」
「ふふっ……ごめんなさい。貴方のお母さんじゃないわ。貴方の名前は───」
「お母さん!私よ!私は──」
「落ち着いて?私をよく見てくれる?貴方のお母さんではないわ」
「違う!お母さんこそ、私をよく見て!」
手を伸ばしてお母さんに抱きつこうとすると、パンッとその手を払われた。
「貴方も、私の─公女の娘になれと言われたの?それならもう止めなさい。私の娘は見付かったの。それに、私の娘はピンク色の髪と瞳なの。でも、貴方は水色の髪に薄紫色の瞳で、全く違うわ」
「ちがっ──この色はまりょ───」
「それに……貴方は魔力無しでしょう?私の娘は、魔力持ちなの。魔力を発現したお陰で、娘はようやく貴族として認められたのよ。魔力の無い貴方は、私の娘ではないわ」
「…………でも……」
「それ以上嘘をつくなら、貴方だけの問題じゃなくなるわ。デミトリア辺境伯に責任を問う事になるわ。その意味が分かる?」
「っ!!」
ー私のせいでルチア様が?ー
言いたい事はたくさんあるのに言葉が出て来ない。
「キツイ言い方をしてごめんなさい。でも、私も嘘をつかれ過ぎて嫌な思いをたくさんしたから……この事は、私だけに留めておくから、貴方は何も無かったようにして部屋に戻りなさい」
そう言うと、お母さんは客室に戻って行ってしまった。
「大丈夫か?」




