18 お母さん
「確認すべき事があって、それは後で説明するけど……ティニー、貴方から聞いていた“お母さん”が見付かったわ」
「え?“お母さん”が見付かったんですか!?あの、何処に───」
「待って!ティニー、落ち着いて!まだ、話さないといけないことがあるの」
「は……はい………」
今すぐにでも会いたい!と言う気持ちをグッと抑えて、ルチア様の話に耳を傾ける。
「それが……その“お母さん”と思われる人は、もう既に娘と一緒に暮らしているのよ」
「え?娘と一緒に?それじゃあ、私のお母さんじゃないって事じゃ……」
私に姉妹なんて居ない。娘と暮らしていると言うのなら、その人は私のお母さんじゃない。
「それがね、ティニーの家があるでしょう?その“お母さん”が、『あの家は自分の亡くなった旦那が建てた家で、娘と暮していた』と言ったのよ」
「え?それじゃあ……やっぱり……」
ーそんな事を知っているなら、やっぱりお母さん?ー
「その“お母さん”なんだけど、8年前に事故に遭ったらしくて、そこから数ヶ月寝たきりになって、目覚めた時には記憶を失っていたそうよ」
「事故……記憶が………」
それからルチア様から聞いた話は驚きの内容だった。
8年前事故に遭い瀕死の状態に陥ったものの、運良く貴族の馬車が通り病院に運ばれて助かった上に、その貴族が縁を切った親族だった。その親族からの報せを受け、寝たきりになっていたお母さんを引き取ったのが、父親─私からすれば祖父だった。それから数ヶ月寝たきりで、ようやく目が覚めたと思えば、ここ数年の記憶を失っていたそうで、自分が結婚して縁を切られた後、誰と何処で暮らしていたのか、一切覚えていなかったそうだ。
「だから……帰って来なかったんだ……」
ー私は捨てられたわけじゃなかったー
ただ、旦那は亡くなっている上に子供が居る──とは誰も想像すらしていなかった。祖父も、もともと結婚には反対していたから、敢えて旦那と住んでいた所は探さず、亡くなった祖母の願いもあった為、お母さんとの縁を戻し、そのまま一緒に暮らして行くことになった。
「それが、2年程前に、部分的に記憶を思い出したそうよ」
“旦那は死んでいて娘が居た”
たったそれだけの記憶。何処に住んで居たかは思い出せず、幼い娘がどうなったのかと半狂乱になったそうで、祖父がその娘を探す為に広告を出しだ。
“ピンク色の髪と瞳の10歳位の女の子”
それ以降、何人ものピンク色の髪と瞳の10歳位の女の子が『私の事かも』と言って、祖父の元にやって来るようになった。それらの子達を、そのまま『はいそうですか』と受け入れる事はなく、神殿で親子鑑定をする。
娘だと現れると喜び、親子関係が無いと言う結果が出ると泣き崩れ──を幾度か繰り返し、“お母さん”が精神的にボロボロになり掛けた時、とある領にある学校で見付けた女の子。偶然、“お母さん”の家門の親族が見付けた女の子だったけど、“お母さん”の事をよく知っていて“お父さん”についても朧気に覚えていたそうで、すぐに“お母さん”に報せがいき、親子鑑定をすると親子関係が有ると言う結果が出た。
「親子関係が……有る?」
「そうなのよ。それは、王都や貴族の間では誰でも知ってる話でね。その話が、まさかティニーの言う“お母さん”の話だとは思わなかったのよ」
「え?でも……私は………」
ーその人とその娘が親子関係に有るのなら、私のお母さんじゃない……よね?ー
「ちなみに、その“お母さん”の名前はアリシア。娘の名前はナディーヌよ」
「───っ!?」
「ティニー!?」
“アリシア” “ナディーヌ”
『お前が❋❋❋❋❋と────ない。❋❋❋❋❋と───れば、─────だろう』
ズキズキと頭が痛くなる。キーンとした耳鳴りのような音が頭に響いて何も考えられなくなる。
「なま…え………」
ーどうして、自分の名前を忘れてしまったの?お母さんの名前は、アリシアだった?ー
「ティニー!大丈夫!?誰か、オリビアを直ぐに呼んで来て!」
ーあの時、カイリーさんは何て言っていた?ー
分からない事だらけだ。
*ルチア視点*
「特に問題は無さそうですが、色々と混乱して精神的にダメージを受けたのかもしれませんね」
「でしょうね………」
話の途中で頭を抑えながら蹲り、そのまま気を失ってしまったティニー。混乱状態に陥っていた。私でさえ混乱しているのだから、13歳のティニーが受け切れなくなっても仕方無い。
「一体、どうなってるの?」
「公女様が、ティニーの“お母さん”なんですか?」
「公女様本人が『あの家で娘と2人で住んでいた』と言ったのよ」
この話は私とグリンデルバルド大公しか知らない事だけど、オリビアにはティニーが倒れた事もあり伝える事にした。
「なら、どちらかが嘘を?」
「いや……どちらも嘘をついているようには見えない」
公女様は、ピサンテのあの家で過ごしていた事を思い出して、更にピサンテの悲劇を知って、公爵には内緒でここ迄来たのだから、公女様があの家に住んでいたのは本当なんだと思う。それに、庭にあったセイヨウイラクサを見て泣いていた。
でも、ティニーが嘘をついているとも思えない。あの2冊のノートを大事にしている姿が、偽物だとは思えない。
「一体、どうなっているの?」




