17 予定外の来客
ピサンテの視察は特に問題無く進み、午前中にはデミトリア邸に戻って来る事ができた。視察途中、あまりの惨状に気持ち悪くなる事もあったけど、そんな時はロイド様が支えてくれて、何とか乗り越える事ができた。ロイド様は、本当に優しいお兄さんだ。
それから、昼食は部屋で1人で食べて、今はお父さんのノートで薬草の勉強をしている。このノートを見ていると、お父さんは本当に護衛の仕事をしていたのか、本当は薬師だったのかと思えてくる。
コンコン
「ティニー、入って良いかしら?」
「ルチア様!?どうぞ入って下さい!」
何かあったのかと思ってドアの方へと駆け寄ると、開かれたドアの向こうから、ルチア様とグリンデルバルド大公様が入って来た。
「っ!?」
「急にでごめんなさい。グリンデルバルド様が、ティニーに話があるらしいの。私も同席するから、大丈夫かしら?」
「は…はい、大丈夫です」
「ありがとう」
そう言って微笑む大公様は綺麗な顔をしていると思う。ただ、私にはその微笑みを素直に受け取る事ができない。
ー目が笑ってないよねー
嫌われてはないと思うけど、良い印象を持たれてはいないと言う事は分かる。そう言う感情を向けられるのは慣れているから気にしない。
私達が椅子に座ってお茶が用意された後、部屋には私達3人だけになった。そして、聞かされた話は──
「ティニーの家に張られている結界について、調べさせて欲しい」
だった。あの結界を張ったのがお父さんなら、最低でも10年は魔法が維持されている事になる。しかも、魔獣の襲撃や炎に包まれた後も、未だにその結界が残っているのは、どうやら凄い事なんだそうだ。結界にも、結界を張る人によって魔法の組み方が違うそうで、その魔法の組み方を調べるようにと国王様からの命を受けて、急遽大公様がここに来る事になったと言う事だった。
「あの結界の魔法の組み方が分かれば、我が国の護りを強化する事ができると考えている。それと、その父親の話も訊きたいのだが……」
「すみません。あの……調べる事は良いのですが、おと…父に関しては記憶に無いので、お話できる事は無いと思います」
寧ろ、私がお父さんについて誰かに訊きたいぐらいだ。
「そうだったな。すまない。ところで……母親については、何か進展は?」
大公様の質問に答えたのはルチア様だった。
「母親もそうですが、ティニーの本当の名前も分かりませんし、母親が金髪にピンク色の瞳だと言う事だけでは、なかなか………」
金髪はよく居るし、ピンク色の瞳も珍しくはない。家からは縁を切られたと言っていたから、親族に会った事も無い。お母さんを探してくれているのは感謝しているけど、再会できたとして、お母さんは喜んでくれるのかな?
私を捨てたから帰って来ないなら───
「ルチア様、お話の途中で申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか?」
大公様が頷いたのを確認してから、ルチア様が「良いよ」と答えると、ゴダールさんが入って来た。
「火急の知らせがありました」
「何かあったのか?」
「それが、パルティアーズの公女様が、ピサンテ村に向かっているそうで、迎え入れて欲しいとの事です」
「公女様が?」
公女──公爵家の令嬢がピサンテに?ピサンテは公爵家の人間が来るような所じゃない。
「いつ?」
「それが……もうそろそろ着く頃かと……」
「はあ!?」
ゴダールさんの言葉に、ルチア様が驚きとも呆れともとれるような声をあげた。
「父親には黙って出て来たんだろう。あの公爵が許す訳がない」
「それはどう言う……と理由は後で訊くとして、話の途中ですが、急いでピサンテに向かいます」
「私も行こう」
「分かりました。ゴダール、馬を用意して」
「承知しました」
そうして、話はまた後で─と言う事で、大公様とルチア様は急いでピサンテへと向かった。
ーピサンテに、知り合いでも居たのかな?ー
そんな事を思いながら、私はまたお父さんのノートを手に取った。
それから、大公様とルチア様が邸に帰って来たのは2時間程してからだった。何となく邸内が騒がしくなり、私は自分の部屋で夕食を食べる事になった。それからも、私の部屋に誰かが来る事もなく、1人でゆっくりしていると、ルチア様がやって来た。夜にルチア様が来るのは珍しい。
「ルチア様、どうしたんですか?」
「あれからバタバタして、こんな時間になってしまったのだけど……ちょっと複雑な話になるから、座って話しましょう」
「はい……」
ルチア様の顔が、いつもより硬い表情になっている。
ー私、何かしてしまった?ー
ソファーに横並びに座るとすぐに、ルチア様が私の手を握ってから口を開いた。
「確認すべき事があって、それは後で説明するけど……ティニー、貴方から聞いていたお母さんが………見付かったわ」




