15 父と母のノート
デミトリア辺境地での日々は、穏やかだった。
週に3日エルトン様からの魔法の指導を受け、空いている時間は魔法陣を描く練習を繰り返す。
ルチア様とエリック様からは、体力を付ける為のトレーニングを受けている。体力は無いものの『筋が良い』と言われ、体力が付いて来たら剣術を学ぶのも良いかもと言われた事は、少し嬉しかった。魔法が使えて剣も扱えるとなると、独り立ちする時に役に立つだろうし、これからは自分の事は自分で護らないといけないから、できる事はなんでもしたい。
ー待ってるだけじゃ、駄目なんだー
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そんな日々を過ごし、あっという間に3ヶ月が経ったある日、ルチア様に執務室に呼び出された。
「ピサンテに視察?」
「今更?な感じもあるけど、悲惨な出来事で村1つが壊滅したから、王家としても“気に掛けている”と言う意思表示をしたいんでしょうね」
ルチア様達から直接は聞いていないけど、ピサンテには、外と繋がりを持った様な人は居なかった。だから、壊滅しても、王都では特に大きなニュースにすらならなかったと耳にしていた。
「それでね、ティニーは唯一の生存者だから、その視察に同行して欲しいって依頼があったのよ。勿論、断る事もできるわ」
「子供に同行を頼むとは……配慮が無いな」
「………」
少し怒ったような感じのエリック様。私の事を心配してくれているんだろう。
「同行する前に、一度行ってみても良いですか?」
あの日以降、私は一度もピサンテの家に帰っていない。でも、そろそろ現実と向き合わないと──とは思っていた。
「それは良いけど、大丈夫?無理はしなくていいのよ?」
「大丈夫かどうかは分からないけど、区切りを付けて前に進む為には……必要なのかな?と思っていたから……」
「ティニーはエラいわね。それなら、私が一緒に行くわ」
「あ、俺も一緒に行くよ」
「ルチア様、エリック様、ありがとうございます」
そうして、私はルチア様とエリック様とピサンテの家に行く事になった。
「気分が悪くなったりしたら、ちゃんと言うように」
「はい」
3ヶ月ぶりのピサンテは、私の記憶の風景とはガラリと変わっていた。良くも悪くも自然豊かな土地で、どこに行っても緑が広がっていて、幼かった頃は虫が苦手で泣いたりもしていた。それが今は──立ち並んでいた木は黒くボロボロになって崩れている。そこにあった筈の家も、跡形無く崩れている。
「片付けがまだ終わってないのよ」
あれから3ヶ月。今でも崩れた家の処理などが進められている。もうここに人が住む事はないけど、時間をかけて自然を元に戻す計画なんだそうだ。
そんな荒れた村の中を歩き、奥へ奥へと進んで行くと、ようやく私の家が見えて来た。本当に不思議な事で、私の家だけは綺麗に残っている。
「お父さんの魔法は…凄かったんですね」
「エルトンが、ティニーの許可が得られたら調べたいと言っていたわ」
「ふふっ…エルトン様らしいですね」
ーお父さんはどんな人だったのか、もっと聞いておけば良かったー
家の中は、少し物が散乱していたけど、あの日と同じままだった。
「持って帰りたい物があったら、持って帰って良いから、家をゆっくり見て来なさい」
「はい」
と返事をしてまっ先に向かったのは、私の部屋だった屋根裏部屋。「屋根裏部屋が自室!?」と、ショックを受けているのはエリック様。エリック様は感情に素直な人だ。そして、私は棚から数冊のノートを取り出す。
ー無事で良かったー
「それは?」
「これは、お母さんが書いていた料理のレシピと、お父さんの手書きの薬草に関するノートです」
お母さんは料理は苦手だったけど、少ないながらもいかに満足できるご飯を作れるか!?と考えてノートに書いていた。お父さんの薬草のノートは、読んでも意味が分からなかったから、今迄ちゃんと読んだ事はなかった。でも、今回の事で、お父さんを知る為に読んでみたいと思った。
他の部屋も覗いてみるけど、特に持ち帰りたい物はなかった。そこにあるのは“私の物”じゃなくて、“カイリーさんの物”だったから。
「他に持って帰りたい物はないの?」
「はい。このノートだけで大丈夫です」
「それじゃあ、デミトリアに帰りましょうか」
*エリック視点*
「何で屋根裏部屋が子供部屋なんだ!?」
「報告書に上がっていて知ってはいたけど、実際見てみると憤りを感じるわね」
虐げられていた事は知っていた。幼い子を屋根裏部屋に追いやるクズ。救いとなったのは父親の魔法だ。あの家に掛けられている魔法は、簡単に言えば“愛する家族を護る”魔法だ。だから、屋根裏部屋とは言え、空気がかなり澄んでいて驚いた。普通の屋根裏部屋なら、気管系の病気に掛かっていてもおかしくない環境だ。
「ティニーの母親は、生きているのかしら?取り敢えずは、このまま母親とカイリーの捜索は続けるけど」
ティニー本人には言ってはいないが、2人の捜索をしている。ただ、病気になった幼い子を見捨てた母親。生きていたとしたら、ティニーは会いたいと思うんだろうか?ティニーが、これ以上傷付く事が無い事を祈るばかりだ。




