10 ティニー
・3歳の時に父親が病死
・5歳で母親が失踪
・母親の失踪後、村長の家で静養した後、“カイリーさん”に引き取られ、今の家に一緒に住むようになった
・“カイリーさん”は、あの日の夕方前には家から出て行った
ー何故、家を出て行ったんだっけ?ー
今迄の事はちゃんと覚えているのに、あの日の記憶は曖昧で、自分の名前が思い出せない。
「色々あったから、一時的に忘れてしまってるのかもしれないわね」
「ショックで記憶を失くす事はあるから、心配だろうけど、今は気にせずに元気になる事だけを考えましょう」
「はい………」
「とは言え、名前が無いと困るから“ティニー”と呼んでも良い?」
「はい」
“ティニー”は、一般的に、小さい女の子を表す時に使う呼び名だ。
「色々と質問したから疲れたでしょう?今日はこれからは、ゆっくりしてちょうだい。何かあったら、そこのベルを鳴らすと良いわ」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと、ルチア様とオリビアさんは部屋から出て行った。
*ルチア視点*
「名前が分からないのと、当日の記憶が曖昧なのは、やっぱり精神的なものだと思う?」
「当日の記憶が曖昧なのは、その可能性がありますけど、名前となると……」
「そうよね……」
あの日の出来事がショックだったとは言え、他の記憶はきっちりあるのに、名前だけを忘れると言う事には違和感がある。あの子が嘘をついている様には見えないし、嘘をつく理由もない。
「住民票も消失してしまって照会する事もできないから、本人が思い出す迄はどうしようもないわね。オリビア、暫くの間、あの子の事よろしくね」
「分かりました」
集落の一つが壊滅したのだから、このまま簡単に済ませる事はできない。調査はこれからだけど、取り敢えずは現時点で分かっている事は全て書き、その日のうちに王都に報告書を送った。
小さい子を意味する名前“ティニー”
年齢の割には小さくて細いし、食がまた驚く程に細い。自分には図体のデカイ息子しか居ないから、比べる相手が異常なのかもしれないけど、細過ぎて心配になる程で、エリックは心配し過ぎて顔色が悪くなっていた。
『あの子が娘なら、俺、泣いてたと思う』
既に半泣きだったのは置いといて、ティニーの様子からして、今迄マトモな食事をしていなかったのだろう。体に残る傷痕からして、日常から虐待されていたと言う事が分かる。
“カイリー”は、当日の夕方前には家から居なくなっていた。生きているのか?生きていたとして、何処に居るのか?調べる事がたくさんある。
『大人でさえ嫌がる苦い薬も、嫌な顔せずに飲んでます。食事の量は少ないけど、好き嫌いなく食べてます』
辛い経験をしたにも関わらず、泣くことも怒る事も無い。笑う事も無い。
『良く言えばおとなしい子ですが、悪く言えば13歳らしさが、全くありません』
今迄の家庭環境から言えば、当然なのかもしれない。心の傷が直ぐに癒える事は難しいだろうけど、少しでも気持ちが楽になれるようにしてあげたい。
ー心を強くするにも、先ずは体力作りねー
「そう言えば、ティニーの魔力測定はした?」
「まだよ。オリビアが、栄養失調気味だから、それを回復させてからの方が良いと言っていたから」
魔力は体力によって左右されやすい。体力があれば必ずしも魔力が増えると言う事ではないが、体力が無いと魔力は増えないし減ってしまう。
「特に魔力は感じないと言っていたから、魔力無しか、あっても微々たるものだと思うって。まぁ、平民なら魔力が無くても普通なんだろうけどね」
「魔力無しか……魔力に適応はしそうな雰囲気なんだけどね」
うーん……と、エリックが首を傾げる。武術に関しては私の方が上だけど、魔法に関して言えば、私よりもエリックの方が勝っているし、他人の魔力に敏感だったりもする。
「魔力測定する時はエリックにも同席してもらうわ」
「うん。俺からも、それでお願いするよ」
「よし、それじゃあ、今から買い物に行って来るわ」
「買い物?何処に?何を?」
「ティニーの服よ」
「なるほど」
ティニーが住んで居た家に、もう一度行って部屋を見てみたけど、ティニーの服らしき物は2着しかなく、それもボロボロでサイズも合っていなかった。靴は、あの時ティニーが履いていた靴以外は無かった。
好みが分からないから、取り敢えずは無難にシンプルな服と靴を見繕う為に、私は街へ買い物に出掛けた。
*****
「あれ?服と靴だけじゃなかったのか?」
「服と靴だけのつもりだったけど、皆がアレもコレもとオマケしてくれたのよ」
「なるほどね……はははっ」
息子しか居ない私が女の子の服を買っていると、店員から『どうしたんですか?』と訊かれ、『保護した女の子の為に』と言うと、『ルチア様にはいつもお世話になってますから!!』と、服以外にも色んなオマケを付けてくれた。正直、女の子の服選びには自信が無かったから助かった。それに、どれもティニーに似合いそうだ。
「私は、良い領民を持ったものね」
「領主が良い領主だからだよ」
エリックも、優しくて良い旦那様だ。




