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奪われたものは要りません  作者: みん


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1/91

1 帰って来なかった母

『必ず助けるから。必ず戻って来るから、それまで我慢して…待っててね』

『うん……わかった………』


お母さんは、泣きながら私の手を握ったままそう言ってから、私の頭を撫でた後、何度も私の方に振り返りながら部屋から出て行った。



私が発熱してから5日。普通の風邪ですぐに治るだろうと思っていたけど、2日目の夜から更に熱が上がり、体中が熱くて痛くなってきた。手元にあった薬は全く効かず、その薬さえもなくなった。それでも、薬どころか医者を呼ぶお金も無いから、耐えるしかなかった。



お父さんは私が3歳の時に、流行り病にかかって亡くなってしまって、それからはお母さんと2人きりの生活だった。もともと、お父さんの親族は居なかったようで、お母さんの親族に関しては、あまり話を聞いた事がなかった。ただ、お父さんとの結婚を『両親に認められなかった』と一度だけ耳にした事があるような気もするけど、幼かった私には意味が分からなかった。

正直、お父さんの記憶は殆んど無い。お母さんと2人きりの生活は貧しくとも幸せだったと思う。


兎に角、高熱を出して苦しんでいる私を助ける為に、あの日、お母さんは私を置いて何処かへ行ってしまい、私はその母の言葉を信じて、苦痛を耐えて待っていた。お母さんがサイドテーブルに置いて行ってくれた水と、少し柔らかいパンを、何とか少しずつ食べて母の帰りを待った。

意識を失ったのか、ただ眠りに落ちたのか分からない状況を幾度か繰り返し、少し熱が治まった頃、ようやく部屋の扉が開いて誰かがやって来た。


「おかあ……さん?」

「やだ!アンタ、病気だったの!?」


そこに居たのは、カイリーさんだった。


「アリシアは何処に行ったの?病気の子供を放ったらかしにして……碌でもない女ね」


ふんっ──と鼻を鳴らして私を見下ろしていた。


「病気が伝染ると困るから帰るわ。アリシアが帰って来たら、借りた物はちゃんと返せって言っといてね」


カイリーさんはそれだけ言うと、急いで部屋から出て行った。


カイリーさんは、いつも何かとお母さんと私に嫌がらせをする人だった。お父さんが亡くなったのも、お母さんがマトモに看病をしなかったからだとか、両親から捨てられた女だとか、娘の私も、お父さんとは全く似ていなかったから本当はお父さんの子では無いのでは?とまで言われていた。その度に、お母さんも言い返していたし『貴方は、私とブライアンの大切な子よ』と、母は私を抱きしめてくれた。『貴方に、魔力があれば……』と、呟いていたけど、それもまた、その時の私には意味が分からなかったけど、お母さんからの愛情は確かにあったし、私もちゃんと感じていた────




筈だった。





お母さんは、私の熱が下がって落ち着いても




私の元には帰って来なかった








********



「ご飯が食べられるのも私のお陰よ。感謝しなさい」

「………」

「ママ、そんな我儘な子は放っておいて、買い物に行きましょうよ」

「それもそうね。食べ終わったら庭の掃除をしなさい。私達が買い物から帰って来る前に綺麗にしてなければ、夕食は無しよ」


そう言って家から出て行ったのはカイリーさん。


高熱を出した時、お母さんが帰ってこず食べる物も無くなって倒れていた私を助けてくれたのが、カイリーさんだった。それから暫くの間は、村長の家で療養を兼ねて過ごしていたけど、1週間もすれば『これ以上は面倒を見る事はできない。修道院か孤児院に─』と言われた時『なら、ウチで面倒をみるわ』と、カイリーさんが私を引き受けてくれたのだ。正直『どうして?』と言う疑問しかなかった。子供ながらにも、カイリーさんからは嫌われている事は分かっていたから。それでも、修道院や孤児院に行くよりは──と、私は差し出されたカイリーさんの手を取った。


そして、カイリーさんの家で過ごすようになってすぐ、何故、カイリーさんが私の身を引き受けたのかが分かった。


『ウチだと狭いから、アンタの家に住む事にするわ』


カイリーさんは旦那さんとは離婚していて、私の家より小さくて庭も無い家に住んでいた。私の家は小さいけど2階建てで、小さいながらも家庭菜園ができる庭があった。


『部屋割りは、私と娘で一つずつ。アンタは、この部屋で十分よ』


と言われて私に充てがわれたのは、物置きとして使っていた屋根裏部屋だった。勿論反論したけど、その場で頬を叩かれた。


『アンタを受け入れてあげた私の言う事が聞けないの!?聞けないのなら、どうなるか分かる?』

『………はい』

『ふん。今回は許してあげるわ。分かったなら、ささっと部屋の荷物を移動しなさい』

『はい……』


私が使っていた部屋は、カイリーさんの娘が使う事になった。

それでも、私はまだ5歳で幼くて何もできなかったから、カイリーさんは最低限ではあるけど、私の面倒をみてくれていた。


『料理ができないと、嫁にも行けない』と言われて料理を教えてもらい、『自分の部屋は自分で掃除をしなさい』と言われて掃除をして、『計算できないと買い物すらできない』と言われて、計算を教えてもらったりした。それらは『ありがたい』と、私も素直に必死になって勉強した。そんな日々は1日1日が大変で、時間はあっと言う間に過ぎて行くのに、どれだけ待っていても、お母さんはやっぱり帰っては来なかった。




そして、気が付けば私は10歳の誕生日を迎えていた。






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― 新着の感想 ―
主人公視点だから若干差し引かないとにしても、カイリーさんそう悪くも無い気も(まあ家取られは有るかもしれませんが、彼女に助けられなければ、そもそも・・・だし、回復後も生計含めて無理でしたろうし)。
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