試験に参加した理由
「――っていう感じで……」
「そう、ロロネも……。二人とも、大変だったのね」
思っていたよりも遥かに理由が重かったからだろう。
タズハに続き、ロロネも試験に参加した理由を話すと、ミスティは申し訳なさそうに俯いた。
そうして訪れるは沈黙。先ほどまでの楽しい雰囲気から一転、気まずい空気に。
(えーっと……)
それを払拭しようと、タズハは必死に頭を働かせ、ピコンと閃いた。
――そうだ、まだミスティちゃんの理由を聞いてなかった。
「あの」
「ねえ」
タズハとミスティの声が重なった。
「あ、先にミスティちゃんからどうぞ」
「そう?」
ミスティは「じゃあ」と前置きして続けた。
「二人が言ってた『みんな』って具体的には何人くらい?」
タズハは身体能力の高さをアピールすることで、ロロネは王に直談判することで、仕事を振ってもらえることを願っている。
それは自分だけでなく、身の回りの人も含めて。
なぜミスティはそんなことを聞くのか。
タズハは不思議に思いながら、同胞の顔を次々に思い浮かべる。
「えっと……四十人ちょっとかな」
「わたしのところは三十人くらいだけど……」
二人が答えると、ミスティは「八十……」と小さく呟き、眉を下げる。
「……二十人くらいだったら、うちの街で何とかしてあげられるかもって思ったんだけど。……ごめんなさい、さすがに八十ってなると」
続けられた言葉はよくわからなかったが、とにかくミスティは自分たちのために何かしようとしてくれていて、でも、その実現が難しいから謝ってきていることは理解できた。
当然ミスティが謝る必要なんてまったくなく、タズハは慌てて言葉を並べる。
「あ、ううん、そんな、全然っ! ねっ?」
「うん。むしろ気遣ってくれてありがとう!」
ロロネも続くと、ミスティは静かに首を振った。
「受け入れは難しいけど、他のことならできる限り力になるから。何か困ったことがあったら遠慮なく言いなさいね?」
「うん、ありがとっ! ……ところで」
「ん?」
「うちの街って、ミスティちゃん、王都の人じゃないの?」
気になっていたことを尋ねると、ミスティはぱちぱちと目を瞬く。
ほどなく、その口から「あっ」と漏れた。
「そうよね。うちみたいな田舎貴族、家名を聞いてもピンとこないわよね」
はあ。と息を吐いて、ミスティは続ける。
「そうよ。わたしのお父様、キミーア・バーテンドールは子爵位でね。王国の西部……えっと」
ミスティは串を手に取ると、地面に丸や三角を描いていく。
「これが王都で――」
一番大きな丸を突くと、串をスーッと西側に。
王都から西に三つ目の丸を指し、近くに描かれていた二つの三角ごと囲った。
「領主としてこの辺りを治めているの。で、この三角が農村で、この丸いのが街でプランムって名前。わたしの家もここよ」
「へえ、そうなんだ。ミスティちゃん、髪とか服とかすっごく綺麗だから、王都のすごい貴族なんだと思ってた!」
「わたしも。貴族社会は詳しくないけどなんとなく」
「ふふ、しがない田舎貴族よ。でも、ありがとう」
微笑むミスティに、タズハたちも頬を緩めた。
「あ、そうだ、もう一つ聞きたいことあるんだけど」
「何?」
「ミスティちゃんがこの試験に参加した理由はどんなかなって!」
「……あー」
ミスティは視線を逸らした。
言いたくなさそうなその様子に、タズハはあわわと両手をバタバタさせる。
「あ、や、言うのやだったら全然っ!」
「いいえ、嫌とかじゃないんだけど……。二人の理由を聞いた後だと、恥ずかしいというか情けないというかね」
ミスティは嘆息すると、再び串を手に取って地面に刺した。
先端を人差し指で押さえて円を描くようにぐるぐると、手遊びしながら口を開く。
「わたしのお父様って領民のことを一番に考えていてね。領内で問題が起きたら自分が直接足を運ぶし、領民の悩みや不満はどんなに些細なものでも真剣に聞く。そんな人なの」
「へえ! 立派なお父さんなんだね」
「ええ。だから領民からも愛されてて、みんなが仕事を頑張ってくれるから、領地は豊か。面積から考えれば税収も高い。……そんな父が妬ましかったのでしょうね。周囲の領主は根も葉もないことを他の貴族たちに吹き込んでる」
『あそこは麻薬を作ってる』とか『領民から税を搾り取ってる』とかね、とミスティは続けた。
「おかげさまでうちの評判は散々。きっと王族の耳にも入っているのでしょうね。前例からして、お父様ほどの功績を挙げていれば、褒賞の二つや三つもらえるはずなのに全くないんだもの」
「お父さん、かわいそう……」
「でしょ? でもね、当の本人は地位や名誉なんて全く興味がなくて、他の貴族たちからの陰口や悪口も全然気にしてないの。お父様、本当に領地と領民、それとわたしたち家族のことしか考えてないから」
ミスティは困ったように笑うと、目を伏せた。
「……でも、わたしはそんなふうにはなれなくてね。お父様が悪く言われたり、評価されないことにずっとムカツいてたし、悔しくて仕方なかった」
それはそうだろうとタズハは思った。
もしも父が今も生きていたとして、周りの大人たちから馬鹿にされたり、あることないこと言われたりしたら、タズハだってブチ切れるし、認めてもらえなかったら悔しい。
「そこに王妃選抜試験の案内が届いて、ピンてきたの。この試験でわたしが王族や中央の貴族たちに良いところを見せることができれば、お父様の評価も上がる。それでクズ貴族を見返してやれるし、然るべき褒賞も与えてもらえるってね。……これがわたしが試験に参加した理由。一言で言えば自己満足よ」
くだらないでしょ? と、ミスティは自嘲した。
そんな彼女にタズハは真剣な表情で首を横に振る。
「そんなことないよ。ミスティちゃんは自己満足って言うけど、お父さんのことを思ってだもん。わたしは立派な理由だと思うな」
同意するように、隣でロロネが頷く。
するとミスティは目を瞬いた後に一瞬頬を緩め、立ち上がったかと思うと深く頭を下げた。
「……ありがと。それと改めてあんな態度を取ってごめんなさい。見返してやりたいって気持ちが強くなりすぎて、余裕がなくなっちゃって」
「ううん、気にしないで。そうなっちゃうのも仕方ないと思うから」
「……そうですね。ただでさえ不安になる無人島生活ですし、無理もありません」
タズハとランラの言葉に、ミスティはもう一度お礼の言葉を言うと、タズハにお皿代わりの葉っぱを差し出す。
「喋ってたらまたお腹が空いてきちゃった。タズハ、お肉もらえる?」
「あ、わ、わたしもいい?」
「もちろん! むしろ、内臓は日持ちしないからどんどん食べちゃって! ランラさんもどうですか?」
「そういうことなら、わたしももう少しだけ――」
こうして無人島生活一日目は終了した。




