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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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7/22

ミスティ

 タズハはピンと立てた耳を左右に動かしながら、森の中を全速力で走っていた。


「――っ!」


 草木が揺れる音。鳥の鳴き声。自分と、追ってきているランラたちの足音。

 そこへ新たに足音が二つ混じった。


 一度立ち止まって、しっかり場所を特定すると、一目散に向かう。

 枝や葉で、身体のあちこちに傷が作られていくが、タズハは全く気にしていなかった。


「はぁはぁ……」


 ようやく見つけた少女は何かから逃げるように、ふらふらになりながらも木々の間を必死の形相で走っていた。

 それはまるで、二次試験の時のロロネのよう。


 一体何に追われているのか、少女の後方に視線をずらしたタズハは目を見開いた。


 黒い毛に覆われた丸みを帯びた身体。

 鋭く小さな目に、長く突き出た鼻。

 この無人島にはいないはずの正真正銘危険な獣――イノシシだった。


 タズハは肩にかけていた革袋からナイフを取り出すと、イノシシのもとへ。


「きゃっ」


 草に足を取られてしまったのか、少女が転ぶ。

 黒い獣はじりじりと少女に迫り――その獣にタズハは音も立てずに一気に迫る。

 そしてお尻目掛けて、思い切りナイフを突き刺した。


「ブギィッ!!」


 高い声を上げたが、致命傷には到底至らず。

 イノシシは素早く急旋回すると、狙いをタズハに変えた。


「こっち来いっ!」


 叫ぶように言うと、応じるようにイノシシはついてきた。

 これであの子は無事。

 助けられたことにほっとするタズハだったが、今度は自分の身が危なくなってしまった。


 木々が味方して、今のところ追いつかれることはないが、開けた場所に出てしまったら一転してピンチだ。

 タズハであっても、直線では全力疾走のイノシシからは到底逃げられない。


 さらに体力面でもタズハが劣るので、早く対処しなければマズい。


(早く、早く見つけないと!)


 タズハは左右に顔を振って、周囲の木を一本ずつ確認する。

 あれは少し細い。あれは短い。あれは理想的、でも地形が悪い。あれは――






 そうしてかれこれ五分ほど。


「――あった!」


 右のほうに、タズハの膝の位置あたりに太く尖った枝を生やした木を見つけた。

 その鋭さはまるで槍のよう。

 木々同士もだいぶ離れており、イノシシが全力疾走とまではいかないまでも、速度を出せる地形でバッチリ。


 タズハは方向転換すると、目当ての木に真っ直ぐ向かう。

 その後ろをイノシシもついてきて、障害物が少なくなったことでぐんぐん距離を詰めてきている。


 5メートル……4メートル……3メートル。

 もう二秒後には衝突してしまうとなったところで――


「ほっ!」


 目の前に迫った木をタタッと駆け上がる。

 重力に負ける前に幹を思い切り蹴ると、空中でクルリと宙返り。

 ドガァン! と大きな音が鳴ると同時に、シュタッと両足で綺麗に着地した。


 目の前では、イノシシがピクピクと痙攣している。

 狙い通り、天然の槍が頭部に突き刺ったのだろう。


 低い位置にある太く尖った枝にイノシシを誘導し、その速度を生かして自滅させる。

 ヌココ村では、この方法でイノシシを狩っており、それをタズハは見て育った。

 危険が故に、イノシシ狩りは男衆の仕事だったので今回が初めての挑戦だったが、百点満点の結果だった。


 タズハはふぅと息を吐いて、突き刺ったままだったナイフを抜き取る。

 その時にはもう、イノシシはピクリとも動かなくなっていた。

 

 それを確認したタズハは振り返ると両手を大きく振る。


「みなさーん! もう大丈夫ですよー!」


 ランラとロロネ、そして貴族の少女が木の影から出てきた。

 二人は驚きの表情を浮かべながら、恐る恐るといった様子で近づいてくる。

 その後ろを歩く少女は俯いていた。


「獣人って、イノシシ、簡単に倒せてしまうのですね……」

「えっ、あ、はい。みんな普通に狩ってましたよ。わたしは狩ったのこれが初めてですけど」

「わぁ……」


 ぽかんとする二人にタズハが首を傾げていると、少女が近づいてきた。

 俯いているその様から、怖かっただろうなとタズハは眉を下げる。


「大丈夫、ですか?」

「……うして」

「ん?」

「どうしてわたしを助けたの? わたし、あなたたちにはひどい態度を取っていたのに」


 少女の表情にあったのは困惑だった。

 タズハも思っていたのとは違う答えに目をぱちくり。


 どうして助けたのか。

 少ししてようやく言葉を飲み込めたところで、タズハは腕を組む。

 脳をフル回転させ、目を閉じてうーんうーんと唸ること数秒、たどり着いた答えは――


「わかんない! あ、わかんないです!」

「わからないって……」

「だって気付いたら身体が動いてたから!」


 笑顔のタズハとは対照的に、少女は悲しげに目を伏せた。


「……そう。とにかく助けてくれてありがとう。このお礼は試験が終わったら必ず」

「え? あ、いえ、お礼なんて。その言葉だけで全然――」

「そういうわけにはいかないわ。何かをしてもらって、そのお返しをしないというのは貴族として恥だもの」

「ええっ、でも……」


 相手は貴族。

 それなりに高価なものをもらえるはずで、それを売れば当面食料には困らなくなるだろう。


 しかし、その発想には至らなかった。

 タズハにしてみれば、落とし物を拾ってあげたのと同じ感覚、『ありがとう』の言葉だけで十分であった。

 それ以上は過分に過ぎるというもの。

 だからタズハは遠慮しているのだが、何かもらわない限り、彼女は納得してくれそうにない。

 

 どうしようかと、タズハは再び「うーん」と唸り――ほどなく耳をピンと立てた。


「じゃあお礼として、これからは単独行動はなし! わたしたちと一緒に行動して、みんな合格できるように協力してください!」


 食料を集めたり、寝床を探したりと、これからやらねばならないことはごまんとあるのだ、人手は多いほうがいい。

 だが、別に断られても、それはそれでよかった。

『冗談じゃない!』と怒って去っていくのであれば、お礼の件は有耶無耶になるから。


 すると、少女は大きく目を見開いた。

 ひと呼吸おいて不思議そうに首を傾げる。


「みんな合格って……。普通は今後のことを考えて、少しでも他の参加者に落ちてほしいと考えるものだと思うけれど」

「えっと……はい、他の島で試験を受けている子たちは落ちてほしいと思ってます」


 タズハの目的はこの試験を通じ、自分の身体能力をアピールして猫人族の有用性を伝えること。

 王妃の座を欲しているわけではないので、最後の一人となるまで残る必要はなかった。


 しかし人数が少なければ、より一人一人に目を向けられ、自分が注目されやすくなるので、やはり通過者は少ないに越したことはないのだ。


「でも、ロロネちゃんとランラさんには落ちてほしくなくて。あと、もしあなたがわたしたちに協力してくれるなら、あなたにも落ちてほしくないです」

「……どうして?」

「お仲間になるからですっ!」


 少女はぽかんと口を開け。

 はぁと大きな溜め息を吐くと、項垂れた。

 そうして聞こえてきたのは、「ダメね、わたしは」というぼやき。


 少しして少女は顔を上げた。

 これまでずっと吊り上がっていた眉と目は少し垂れていて、引き結ばれていた口も今では端が上がっている。

 最初に感じた『キツそう』という印象は、もうその欠片もなかった。


「ミスティ・バーテンドールよ。先に言っておくけれど、敬語はいらないわ」


 タズハはぱぁっと顔を明るくすると、伸ばされた手を取る。


「わたしはタズハ! よろしくね、ミスティちゃん!」


 そんな主人の感情を受け取った脳内のミニタズハは、「嫌い」と書かれた箱の中からミスティを模した人形を手に取る。

 そのまま「好き」と書かれた箱へ、優しく入れ直すのだった。

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― 新着の感想 ―
やっぱり思考がシンプル可愛い。 スラムの娘は体力的に評価が渋そう。食べて体力を回復出来ても、他に長所がなければスタートラインに立っただけだし。 貴族の娘は、責任感とか家の期待とかでヤマアラシ状態だっ…
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