三次試験開始
「おお、同い年だ!」
「ほんと? なんだか嬉しいな」
「ねっ! ランラさんは?」
「わたしは18なので、お二人よりも2つ上ですね」
その雰囲気からお姉さんっぽいとは思っていたが、本当に年上のお姉さんだったようだ。
それからもお互いのことについて色々と話したり、船室で仮眠を取ったりすること数時間。
お日様が帰宅の用意を始めた頃、タズハたちを乗せた船は無人島に到着した。
「――はい、大丈夫です」
女性兵士による持ち物検査を終えて、タズハはいざ上陸。
砂浜の先に広がっているのは、鬱蒼とした森。
いかにも狂暴な獣やら毒をもった虫やらが居そうな雰囲気だが、それらは事前に排除しているため安全とのこと。
「では、こちらを」
「ありがとうございます!」
タズハは兵士から、ナイフ・火打ち石セット・懐中時計が入った紐つきの大きな皮袋と寝袋、そしてさらに一枚の紙を受け取った。
他の三人も同じように受け取ったところで、四人の前に兵士が立つ。
「お渡しした紙をご覧ください」
紙に視線を落とすと、地図が描かれていた。
いくつかの地点が○で囲まれている。
「この無人島の地図です。バツ印がこの場所。丸で囲われているところは水場を示しています。そのまま飲用可能ですが、できるだけ沸騰させてから飲んだほうがいいでしょう。次は裏をご覧ください」
めくってみると、裏にも何か書かれていた。
『キノコ』の文字の下にはいろんな形や色のキノコらしき絵が、『木の実』の下にはたくさんの丸が描かれている。
ほかにも魚や鳥、シカのような生き物など、さまざまな絵が説明文と共に並んでいた。
「この島で手に入る安全な食料です。ここにある物以外は食べられるかどうか、都度聞きに来てください」
「わかりました!」
「また、少しでも具合が悪くなったり、怪我をしたりしたら、すぐに私のところまで来てください。説明は以上です。何か質問がなければ、試験を開始させていただきます」
四人から質問がないことを確認し、兵士が続ける。
「一週間後の正午にまたここへいらしてください。……では、王妃選抜試験三次試験――始めっ!」
開始が告げられるや否や、貴族少女はつかつかと森のほうへ歩いていった。
やはり皆で協力するという考えはないらしい。
「わたしたちも行きましょうか」
「まずは水ですね!」
「ええ。ここから北に少し行けば水場があるようですし、行ってみましょう」
「わ、わかりました」
そして三人も行動を始めた。
「それにしても、こんなものまでもらえるなんて親切だね」
タズハは見ていた紙をロロネに向かってひらひらさせた。
三次試験の案内用紙に、支給品として寝袋や火起こし道具などの記載はあったが、ガイドブックについては書かれていなかった。
なので、水場も自分たちの足で探さなければならないと思っており、船ではそのつもりでランラやロロネと予定を考えていたが、おかげで随分と楽ができる。
「うん。まあ、でもこれくらいのサポートはあるとは思ってたけど」
「えっ、どうして?」
「参加者の中には貴族の子もいるでしょ? もしも、その子たちが脱水とか空腹で倒れちゃったりしたら大問題だから、そうならないようにするかなって」
「なるほどー! それは確かに!」
そんな話をしながら、海岸を離れたタズハたちは森へ入った。
☆
タズハは振り返ると、眉を下げる。
「ロロネちゃん、大丈夫?」
歩き出して二十分ほど。
この無人島は山のような形をしており、地面には傾斜がある。
なので、普通の道よりはキツいものの、タズハとランラは顔色一つ変えず、余裕綽々だった。
そんな二人とは対照的に、ロロネの足取りは重い。
呼吸が乱れ始めており、額にはうっすら汗がにじんでいる。
この体力のなさは、慢性的な栄養不足のせいだろう。
栄養が足りていないのはタズハも同じだが、そこは基礎的な能力の違いか。
「だ、大丈夫。ありがとう」
「そっか。しんどくなったら、すぐに言ってね?」
タズハは心配に思いつつ、前に向き直る。
その時、タズハは木に生えているキノコを見つけた。
「キノコだ!」
青色で傘は広く、平べったい。
「おっ。えーっと、これは……」
ランラはキノコに顔を近づけると、ガイドブックとキノコとで視線を行き来させる。
「これによると食べられるそうです」
「やった! じゃあ、採っていこ!」
タズハたちは手分けしてキノコを採り、合計二十本ほど手に入れた。
幸先がいいスタートに俄然やる気が出て、一行は上機嫌で先に進んでいく。
それから三十分ほど歩いたところで。
タズハはちょろちょろと水が流れるような音を捉えた。
「二人とも、こっち!」
木々の間を突っ切ると、そこには跨ぐことができる程度の小川が流れていた。
「やったー!」
「タズハちゃん、すごい!」
「さすが獣人、耳がいいですね。わたしにはまったく聞こえませんでした」
水は透明。
絶えず流れ続けているので、新鮮そうだ。
タズハは躊躇せず水面にお口をくっつけた。
渇いた喉に水が染み渡って、とても美味しく感じる。
その隣では、同じ姿勢でロロネもゴクゴク。
「あれ、ランラさんは飲まないんですか?」
「う、うーん、できたら沸かしてからがいいのですが……」
「綺麗だからそのままでも大丈夫ですよ。それより喉渇きっぱなしのほうが危ないです!」
「そ、それは確かに。では……」
ランラは両手で水を掬うと、そっと口元を寄せる。
たったそれだけの仕草にも気品があって、タズハは思わず「おー……」と声を漏らした。
「ふぅ、生き返りました」
「わたしもです」
「よかった! じゃあお水を確保できたことだし、ここからは予定通り――」
「きゃあああああ!」
突然の声に三人の身体がビクっと跳ねた。
「い、今のは?」
「お、恐らく、あの貴族の方ではないかと」
「何かあったんだ! わたし、見てくる!」
言うや否や、タズハは地面を蹴った。
「えっ、ちょっと!」
「ま、待って!」
その後をランラとロロネが慌てて追っていった。




