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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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5/22

出航

 昼食を済ませたタズハは難民集落の周りを走っていた。

 今後の試験に備えてのトレーニング兼暇つぶしである。


「――ふう。今日はここまで、と」


 昼の二時を告げる鐘を合図に、タズハはテントという名のマイホームに向かった。

 戻ってもやることなどないのだが、これ以上走ると夜にお腹が空きすぎて、眠れなくなってしまうので。


「おっ!」


 自分のテントまでもう少しというところで、こちらに近づいてくる馴染みの兵士が目に入った。


 今日は配給の日ではない。

 それなのにわざわざ難民集落に来る理由といえばやはり――


「タズハ・キャッティという者を知っているか?」

「あっ、わ、わたしがタズハです!」

「ちょうどいい。あんた宛だ」


 兵士が丸められた紙を差し出してきた。

 タズハが何より待ち望んでいたものだ。


「ありがとうございます!」

「……ったく」


 兵士は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、そそくさと去っていった。

 それを見届けたタズハもすぐにテントへ戻り、さっそく開封。


「んーっと――」


 驚きにタズハは目を瞬く。

 二次試験の時とは異なり、今回は試験の内容が詳細に書かれていた。


「無人島……」


 三次試験の内容は、無人島生活。

 王都から南に点在する無人島で、一週間過ごすとのこと。

 曰く、過酷な環境でも耐えられるだけの精神力があるかを確かめる、と。


 とはいっても、事前に兵士たちが足を運んで獣などは排除しているため、当たり前だが、命に関わるような危険はないようだ。

 また、一つの島あたり四人割り振られるとのことだが、チーム戦というわけではないらしい。


「むぅ……」

 

 タズハは唇を尖らせた。

 サバイバルということなら、自分の身体能力を大いに活かせる。


 だが、そこに王であるゼイナスや彼に進言できるような高位の貴族の目はない。

 つまり、無人島で大活躍できたとしても、自分たち猫人族の評価は変わらないのだ。


(まあ、それは四次試験から意識すればいっか)


 普通の少女なら抱くであろう、無人島で暮らすことへの不安だったり、過酷な環境に耐えられないかもしれないという考えだったりは、タズハには欠片もなかった。

 ヌココ村にいた時はよく森に出入りしたから自然には慣れているし、今の環境と無人島にそこまで違いがあるとは思えなかったから。



 ☆



 三次試験開始日。

 タズハは朝から王都の港にきていた。

 港には大小さまざまな船が何十と停まっており、今タズハが歩いているのは、十数人用の中型船が停泊している区画だ。


 タズハは船の側面に書かれた名前を確認しては、これも違うと次の船へ。

 港では同じようなことをしている女子が大量発生していた。


 皆、王妃選抜試験の参加者である。

 試験の進捗を知らない船乗りたちは、普段とは違う港の様子に目を丸くしていた。


「あっ!」


 三十二隻目にして、ようやくお目当ての船を見つけた。

 その前には、試験官であろう女性兵士と茶髪の少女が立っている。

 タズハはドキドキしながら二人のもとへ。


「おはようございます! 三次試験に参加しに来ました!」

「おはようございます」

「おはようございます! 一週間、よろしくお願いしますね」


 兵士は事務的だったが、少女は笑顔で対応してくれた。


 茶色の髪は肩下まで伸びており、毛先がくるんと丸まっている。

 少し垂れた大きな目と下がった眉からは、柔和な印象を受けた。

 背は自分より頭一つ分高い。

 立派なお胸も手伝って、タズハの評価は優しそうなお姉さんというものだった。


 服装はベージュのチュニックに白のパンツ。

 平民のようだが、身に纏う雰囲気はとても上品だった。


 暴言をぶつけられる可能性も考えていたので、優しい対応にタズハはほっとした。


「わっ、こ、こちらこそですっ!」

「ふふ。わたしはランラ、ランラ・テイレーンと申します」

「ランラさん! わたしはタズハ・キャッティっていいます!」

「タズハさんですね。素敵なお名前ですね」

「えっ、そ、そんな、ありがとうございます! ランラさんのほうこそ、とってもかわいいお名前です!」


 普通に話してくれるだけでもありがたいのに、両親から授かった大切な名前まで褒めてもらえるなんて。

 喜びのあまり、タズハの頬は緩みに緩んで、尻尾はゆらゆら揺れ動く。


 同時に脳の管理人である小さなタズハは、「好き」「普通」「嫌い」の三つの箱のうち、ランラを模した人形を「好き」の箱にしまった。



 ☆



「へえ、そうなんですね」

「はい、狩りなら任せてください! まあ、狩れるような動物がいたらの話――」

「あ、あの!」


 ランラとの会話中、突然後ろから声が聞こえてきた。

 タズハは「ん?」と振り返ると、驚きで目を真ん丸に。


「あの時の!」


 そこにいたのは二次試験で花を譲ってあげた、貧民街に住んでいるというあの少女だった。

 わぁ! と、タズハは満面の笑みを浮かべると、少女も微笑みを返した。


「はい、あの時は本当にありがとうございました! おかげでこうして三次試験に挑戦できます」

「どういたしまして! そうそう、名前聞いてなかったよね。あっ、聞いてなかったですよね!」

「わたしはロロネ・ビジュイです。その、よかったらタメ口で」

「うん、じゃあ、そっちも! わたしはタズハだよ。よろしくね、ロロネちゃん!」

「はい。あ、うん! こちらこそ、タズハちゃん」


 タズハはえへへと笑うと、周囲をキョロキョロする。


「ねねっ、ここにいるってことは、もしかして?」

「うん、わたしもこの船なの」

「きゃー!」


 タズハはロロネの手を取ると、その場でぴょんぴょんジャンプした。

 ロロネもそれを真似て、二人は小さな子供のように全身で喜びを表現する。


 ほどなく、視界の端にランラが映り、タズハははっとした。


「ごめんなさい! 二人だけで盛り上がっちゃって」

「いえ、全然。それでロロネさん、でしたよね?」

「あ、は、はい。ロロネです。よろしくお願いします」


 ランラに対して、ロロネはどこか緊張した様子。

 少し人見知りなのかもしれない。


「こちらこそ」とランラも名を名乗ると、不思議そうにタズハとロロネの顔を見比べた。


「お二人は昔からのお知り合いですか?」

「あ、いえ。ロロネちゃんとはこの間の二次試験で知り合って。ね?」

「うん。タズハちゃんは倒れたわたしを心配してくれて、それでお花も――」

「そうそう! その後、一緒にゴールしたんです」


 ねー? と、ロロネに圧をかける。

 すぐ隣に兵士がいるからだ。

 ロロネが提出したのが自分で取ってきた花でないことが知られたら、失格になってしまうかもしれないので、それを避けるためである。


「う、うん」

「へえ、そうなんですね」


 猫人族の自分と人間族のロロネに、どんな繋がりがあるのかが気になっただけなのだろう。

 その答えでランラは納得してくれた様子。


 突っ込まれなくてよかったとほっとしていると、耳がこちらに近づいてきている足音を捉えた。


「おはようございます!」


 タズハは身体を向けながら、最後の一人にもご挨拶。


 目に映ったのは、サラリとした長い金の髪を頭の後ろで束ねた少女。

 キリッとした眉と少し吊り上がった目から、気の強さが窺える。

 服装はランラと同じチュニックにパンツスタイルだが、ランラが着ているものより明らかに仕立てがよかった。


 誰がどう見ても貴族のご令嬢だ。

 少女はこちらを一瞥すると、何も言わずに横を通り過ぎた。

 完全な無視である。


 さらにランラとロロネの挨拶にも答えなかった。


 獣人や平民とは挨拶すらもしたくないということか。

 これまでの差別的な視線の数々を思い出し、タズハはシュンとする。

 同時に脳内のタズハは、彼女を模した人形を「嫌い」の箱に放り入れたのだった。






「――では皆様揃われましたので、出航の前に、私から改めて三次試験について説明させていただきます」


 試験の概要や期間に加えて、


・試験中はいつでもリタイア可能。ただし、すぐに家に帰れるわけではなく、他参加者が試験を終えるまでは船内で暮らさなければならないこと。

・荷物は持っていってもいいが、無人島には持ち込めないこと。

・最低限の道具として、ナイフや寝袋などは人数分支給してもらえること。


 などの説明が試験官の兵士からなされた。

 どれも先日届いた三次試験の案内に書かれていた通りで、もちろんタズハは把握済み。

 なので、ここへは手ぶらでやってきている。


「以上です。説明を聞いてやはり辞退したいということであれば、どうぞ今のうちに」


 タズハを含め、少女たちは何も言わず、その場から動かない。

 少しして兵士は大きく頷くと、タラップを指し示した。


「ではお乗りください」


 そうしてタズハは船のデッキに。

 船に乗ったことは何度かあるが、こんなに大きなものは初めてで、思わずワクワク。


 既に乗り込んでいた船員たちに四人で「よろしくお願いします」と挨拶すると、ほどなく船が動き出した。


「さて、今のうちに無人島についてからの予定を考えましょうか」

「あ、はい、そうですね!」


 タズハが答えると、同意を示すようにロロネもコクコクと頷く。

 だが、金髪の貴族少女は自分たちと協力する気などさらさらないようで、何も言わずに船室の一つに籠ってしまった。


 その行動にタズハは呆気にとられるも、『まあ、別にチーム戦ではないし』と呑み込んで。


「えっと、じゃあ――」


 気を取り直して、今後の予定を二人と話し合うのだった。

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― 新着の感想 ―
主人公が単純そうで純真そうなので、初対面の評価が役に立つか心配。逆転しそうな予感。
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