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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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22/22

明るい未来

 ニードヘレン王国西部。

 バーテンドール領の領都プランムから、南東に馬車で二日ほどの地点に小さな集落があった。


 そこには木造の建物が二軒建っており、やや離れたところに数十のテントが張られている。

 周囲には何もなく、ただただ草原が続くばかりだ。


「よいしょ、っと」


 そんな片田舎で、タズハは肩にクワを担いだ。

 ふぃー、と声を漏らすと、腕で額の汗を拭う。


「だいぶ耕せたね!」

「うん!」


 隣にいるロロネが笑顔で答えた。

 二人の目の前には、人の手で丁寧に耕された耕地が広がっている。


 それを囲むように、多くの人がクワを手に作業していた。

 うち六割が猫人族、残りの四割は人間族。人間族は全員貧民街の住人だった者たちだ。

 その奥では、丸太を用いて建物を建てている者たちの姿があり、そっちも比率は同じくらい。


「――おお、だいぶ進んだわね!」


 聞こえてきた声にタズハたちは振り返る。

 そこにいたのは、ミスティだ。


「うん! あと二、三日でこの区画は終わりそう!」

「順調ね。それに比べてこっちは……」

「まだまだかかりそう?」


 ロロネが聞くと、ミスティは大きな溜め息を吐いた。


「ええ。まだまだぜーんぜん。二人がかりかつ、空き時間にティティルが手伝ってくれてこれだもの。もし一人だったらって思うとゾッとするわ」

「書類仕事、やっぱり大変なんだね。大丈夫?」


 ミスティはぱっと笑みを浮かべると、腰に両手を当て胸を張った。


「もちろん! みんなの生活のためだもの、これくらい余裕よ!」



 ◆



 王妃選抜試験が終わってから、一週間後。

 バーテンドール一家は、王都にやってきていた。


 理由は二つ。

 一つは王ゼイナスと王妃セシリアの婚礼の儀に参加するため。

 そしてもう一つは、当主――キミーアが勲章を受けるためである。


 その叙勲式がつい先ほど終わったところ。

 与えられた部屋に入ると同時、キミーアは緊張を吐き出すように大きく息を吐く。


「おめでとうございます、あなた」

「お父様、おめでとうございます!」

「おめでとうございます、父上」


 王国に多大な利益をもたらしたとして、キミーア・バーテンドールは伯爵位と新たな領地を賜った。

 そこは元々、キミーアについて根も葉もない噂を流していた隣の領主の管轄にあった土地。

 その悪行が明らかになったことで領地の一部が没収され、そのままキミーアに譲られた形である。


「ああ。ありがとう、お前たち」


 妻や子たちからの祝福の言葉に、キミーアは笑みを浮かべた。

 愛する家族が喜んでくれている。

 そして地位や肩書といったものは特に欲していなかったが、いざもらえたとなるとやはり嬉しいものだった。


「ところでお父様。いただいた領地ですが、やはり農村に?」

「ん? ああ、そうだな。そうするのがいいだろうが……」


 バーテンドール領には、現在二つの大きな農村がある。

 どちらもキミーアが一から立ち上げたもので、王国の食糧事情に大きく寄与している。


 そして今回与えられた土地は、だだっ広い平原地帯。

 活用法はいくらでも思いつくが、やはり新たに農村を立ち上げるのが一番良さそうだった。

 しかし、すぐには難しい。


「人手、ですか?」


 キミーアは大きく頷く。

 新たに農村を立ち上げたところで、そこで働く者がいなければ意味がない。

 最低でも五十人はほしいところ――だが、そんな人手はどこにもなかった。


 バーテンドール領は人手不足ではないが、余裕があるわけでもない。


「それなら問題ありません! 人手なら用意できます!」


 一人娘のミスティが前のめりになって言った。

 キミーアは目を瞬くと、首を傾げる。


「それはどうやって?」

「この王都の城壁の外で暮らす猫人族たちと、貧民街で暮らす者たちを呼び込むのです。彼らは職を欲しています。声をかければ喜んで来てくれるはずです!」


 なるほど、とキミーアは顎に手を当てる。

 ミスティ、そして彼女につけているティティルから、王妃選抜試験中にできた友人――タズハとロロネのことは聞いている。

 きっとその二人のために職を用意してあげたいと思っているのだな、とキミーアは察した。


 そして、それはいい案だと思った。

 そうすれば労働力は十分。


 後は誰がその農村を管理するか。

 言わずもがなキミーアは領都、そして二人の息子はそれぞれ農村を管理している。

 となると、必然的に新たな農村は――


「管理はわたしにお任せください! 必ずや、お父様の期待に応えてみせますので!」


 彼女に任せることになるのだが、そこに不安はない。

 キミーアは一人の貴族として、ミスティのことを高く評価していた。


「うーむ……」


 それでもキミーアは素直に首を縦に振らない。

 振りたくなかった。


 理由は単純。

 ミスティは唯一の娘。父としては、農村の管理に励むよりも、愛する相手を見つけて幸せになってほしいという気持ちがあった。


「お父様っ!」

「あなた」


 いつになく真剣な顔を向けてくる娘と、諭すように微笑みかけてくる妻。

 キミーアは諦めたように溜め息を吐いた。

 

「……わかった。では、後のパーティーで彼らを呼び込んでいいか、陛下に聞いてみよう」

「はいっ! ありがとうございます!」






 そして数時間後。

 ゼイナスとセシリアの婚姻の儀が終わった後の祝宴にて。


 与えられた領地にこれから新たに農村を立ち上げようと考えている。その労働力として、猫人族や貧民街の住民を使わせてほしい。――と、キミーアはゼイナスに言った。

 奮闘虚しく、未だタズハたちの受け入れ先を見つけられておらず、頭を悩ませていたゼイナスにとって、それはまさに渡りに船。

 ゼイナスは当然快諾、むしろ感謝の言葉を言われるほどだった。


 それをミスティは大いに喜び。

 祝宴が終わると、その足でタズハとロロネにそのことを伝えにいったのだった。



 ◆



「――そう? でも無理しないでね?」

「わたしに手伝えることあったら何でも言ってね」

「ええ、ありがと。さ、二人ともご飯にしましょ」

「うん!」


 タズハたちは二軒ある建物の一つ――自分たちの住居に向かう。

 さすがにミスティにテント生活をさせるのは心苦しいと、村民の皆が最優先で建ててくれたのだ。

 ちなみに、もう一軒は役所。ミスティの仕事場である。


 玄関を抜けてすぐのところにリビングがあり、そこには大きなテーブルと椅子が五つ置かれている。

 テーブルの上には美味しそうなシチューとパンが並んでおり、椅子の一つに優しそうなお姉さんが腰がけていた。


「皆さん、お疲れ様です」

「はい、ランラさんも!」



 ◆



 婚姻の儀が執り行われた翌日。


「休んでいたところすまない。急ぎで伝えたいことがあってな」


 先ほどまでランラは昼からの侍女仕事に備え、自室で休息をとっていた。

 そこに姉のノノイがやってきて、叩き起こされたのち、こうしてゼイナスの私室に連れてこられた。


「はい」


 自覚はないが、もしかして何かやらかしてしまったのだろうか。

 澄ました顔でいるランラだったが、内心はドッキドキだった。


「バーテンドール伯爵はこれから農村を立ち上げるらしくてな。その労働力としてタズハたちを連れていくことになった」

「はい」


 昨晩の祝宴中、ランラは常にゼイナス、セシリアと行動を共にしていたので、もちろんそのことは知っている。

 一から村を起こすということで、これからしばらくはさぞ大変だろう。

 それでも、これまで彼女らが送ってきた生活よりはずっとマシなはずだ。


 いい結末を迎えられてよかった、とランラは頬を緩めた。


「バーテンドール伯爵にはこれまで悪いことをしたからな。せめてもの詫びとして、村起こしの助けとなるよう、人を送ることにした」

「はい」

「でだ。私はお前がいいと思っている」

「はい……えっ?」


 ランラは目を瞬いた。


「わ、わたしですか?」

「ああ。その村はミスティ・バーテンドールが仕切るそうでな。親交がある者のほうが彼女もやりやすいと思ったのだ。それにお前が行けば、タズハも喜ぶだろう」

「……なるほどでございます」

「ただ、これは命令ではない。もし気が進まないのなら遠慮なく言ってほしい。その場合はノノイを送るのでな」

「いえ」


 ランラはフォルスタ家の人間として、王族に仕える自分の仕事を心から誇りに思っている。

 だから、それを手放すことに抵抗はある。

 でも、大切なお友達――タズハ、ロロネ、ミスティと一緒にいられることの喜びがそれを上回った。

 

「わたしに行かせてください」

「そうか。なら、もうすぐタズハたちが出発する。そこにお前も同行してくれ」

「承知いたしました」

「いってらっしゃい、ランラ。こっちの仕事はわたしたちに任せて」

「はい、いってまいります」



 ◆



 将来的にウィーシュ村と名付けられる、この村建設予定地では猫人族と人間族、合わせて八十名ほどが暮らしている。

 人間族は貧民街に住んでいた住人たちで、ここにいる者たちは皆仕事がなく、常に飢えているような状態だった。


 しかし、今は。

 仕事があって、毎日お腹いっぱい食べられている。


 そして猫人族が気にしていた差別的扱いも一切なかった。

 元からそういう意識がなかったのか、それとも今の生活がタズハによるものだとわかって考えを改めたのか。

 いずれにせよ、ここにいる人間族たちは猫人族たちに対等に接しており、皆仲良く、楽しく暮らしていた。


 とはいえ、それはここだけ。

 王都や他の街では、未だ獣人への差別意識は根強い。


 でも、それをなくそうと、今、ゼイナスとセシリアが頑張っている。

 だから、いずれは受け入れてもらえるようになるはずだ。


 そんな明るい未来を夢見ながら、タズハはスプーンでシチューをすくった。

 その瞬間、目を真ん丸に。


「わっ、見て、ロロネちゃん! こんなにおっきいお肉入ってる!」

「えっ、ほんとだ! すごーい!」


 タズハとロロネがきゃっきゃとはしゃぐ。

 そんな二人を見て、ミスティとランラが微笑む。


 リビングには幸せが溢れていた。

これにて完結となります。

ラストまでお読みいただきありがとうございました!


最後に、よろしければ下部の☆から評価をしていただけると幸いです……!

どうぞよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
8888! 素敵で魅力的で温かなお話でした。 世界は優しいだけじゃない、でも優しい世界を作ることは出来る。 一人の少女が現状を変えるために踏み出した一歩は、温かな家族を作る未来に辿り着けたのですね。…
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