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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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15/22

わたしに任せて

 タズハはナイフを手に、スキンヘッドの男と対峙していた。

 男の背丈は自分よりも顔二つ分も高く、隆起した筋肉がその巨体をさらに大きく見せている。


 側から見ても迫力のある大男だったが、こうして真正面に立つと、その威圧感は桁違いだ。

 まるで熊に睨まれているかのような錯覚を覚え、タズハはゴクリと唾を飲み込む。


 緊張はしている。だけど、ほど良い緊張感だ。

 タズハはわずかに腰を落とすと、神経を研ぎ澄ませ、その時が来るのを待つ。


「――では、開始!」


 開始の合図が聞こえるや否や、タズハは床を蹴った。

 勢いを殺さぬよう足を素早く入れ替え、男との間合いを詰めていく。

 途中、男がナイフを逆手に持ち替えたのが見えた。


 そうしてお互いが手を伸ばせば触れられる距離まで近づいたところで、男は一歩踏み込んだ。


(きたっ!)


 狙い通り。

 タズハは足を止め、「よっ!」と大きく後ろに飛び退く。

 瞬間、目の前をナイフが横切った。


 着地すると同時にタズハは膝を曲げ、しゃがみの姿勢に。

 足にグググッと力を込め、一気に解き放つ。


 男の顔の高さまで跳び上がると、振るわれていた太く逞しい腕に降り立つ。

 それを足場とすることで、すかさずもう一度前方に跳躍した。


 空中で身体を捻り、シュタッと両足で着地。

 目の前に大きな背中があった。

 タズハはすぐさま地面に膝を突くと、男の踵の上にナイフを当て、切先をするりと滑らせた。


 これが本物のナイフだったなら、男のアキレス腱は切れ、ろくに歩けなくなる。

 行動不能だ。

 なので合格の判定をもらえるはず――だったが、


(あれれ?)


 四人の判定員は何も言わないし、手も挙げなかった。

 わかりづらかったのか、それともアキレス腱を切ったくらいじゃダメなのか。

 いずれにせよ、合格をもらえていないのだから続けるしかない。


 タズハはクルクルと後ろに転がって、男と距離を取る。

 六回転目に両手でぐっと床を押し、跳ねるように飛び起きた。


 こちらに向き直っていた男と目が合う。

 その目は大きく見開かれており、額には汗が滲んでいた。


 タズハはすかさず床を蹴る。

 今度は本気で。

 二次試験の時のように、一気にトップスピードまで上げて、一息で男との距離を詰める。


 残り二メートル。

 真っ直ぐ男に向かっていたタズハは、左足に力を込め、斜め右に飛び出す。

 それを追うように男も右足を前に出し、身体の向きを変えてタズハを正面に捉えた――その時。


 タズハは右足で床を蹴り、左に跳んだ。

 グンと身体を沈めて進み、振るわれていた右腕をくぐり抜ける。

 つま先に力を入れてクルッと半回転すると、目の前に男の背中があった。


 手の中でナイフを回し、順手から逆手に持ち替える。

 ひと呼吸置いて、男がこちらに振り返ったところで――


「うっ!」


 タズハはその太い首にナイフを当てた。

 すかさずタズハは周りをキョロキョロし、四人の男の判定を待つ。


 試合を見ていた少女たちからざわざわとした声が上がる。

 それから少しの間を置いて、判定員は四人とも左手を挙げた。


「しょ、勝負あり! 勝者、タ、タズハ・キャッティ様!」

 

 タズハはぱっと顔を明るくさせ、最初の立ち位置へ。

 木製のナイフを置き、相手をしてくれた男にぺこりと頭を下げると、試合前に立っていた場所に戻る。


(あれ?)


 そこにミスティはいなかった。

 もしかしたら、もう他の場所で試合しているのかも。

 周りを見回すと、思った通り、二つ隣のブロックにミスティの姿があった。


 お友達の奮闘を一番近くで見届けたくて、タズハはそこに急ぐ。


「はあはあ……」

(あれ?)


 間近で見て、タズハはまたしても首を傾げた。

 試合が始まったのはタズハの後。

 ということはまだ五分も経っていないというのに、ミスティはもう息を切らしていた。

 彼女はこれくらいでバテたりしないはずなのに。


 それに動きも何だか鈍く見える。

 無人島でお魚を獲っていた時とは、まるで別人のようだ。


(もしかして体調よくないのかな……)


 タズハが不安に思った矢先、攻撃を仕掛けようとしていたミスティが途端にふらついて。


 すれ違いざまに兵士がミスティの首をナイフで切る動作を行うと、彼女はバタンと倒れた。

 受け身も取らず、前のめりに。

 まるで、糸が切れた操り人形のように。


 これが演劇で、彼女が役者であったなら見事な演技力だが、当然そんなはずなく。


「……えっ?」

 

 タズハはぱちぱちと目を瞬き。

 見間違えたのかなと目をゴシゴシと擦ってもう一度見る。

 でも、やっぱりミスティは倒れたままで。


 タズハは目を見開いて、


「ミスティちゃん!!」


 彼女のもとに駆け寄った。



 ☆



 ミスティを抱えたタズハは兵士の案内のもと、彼女を病院に運んだ。

 そこでお医者さんに容体を見てもらった結果、ミスティは単なる過労であり、少し休めば大丈夫ということだった。

 ミスティの侍女によると、過労は特訓を頑張りすぎたのが原因だろうとのこと。


 命に関わる病気とかではないとわかって、タズハはへたり込んでしまうほど安堵し、すぐに快復するとわかって大いに喜んだ。

 しかし、それも束の間。


「ミスティちゃん……」


 今、タズハは眠るミスティの前でへにょんと眉を下げていた。


 お友達なのに、疲れていることに全然気付いてあげられなかった。

 まあ、気付けていても、試験に参加した理由を知っている手前、『棄権したほうがいいよ』とは言えなかっただろう。

 それでも何かしてあげられたかもしれない。


 でも自分は。

 何かしてあげるどころか、たくさん話に付き合わせて無駄に体力を消耗させてしまった。

 それがなければ試験を合格できていたかもしれない。

 そうだ、ミスティちゃんはわたしのせいで――

 

 タズハは後悔と罪悪感に飲み込まれていた。


「ん、んん……」

「あ、ミスティちゃん!」

 

 ミスティは身体を起こすと、周囲を見回す。

 そして目を伏せた。


「わたし、試験中に倒れたのね」

「……うん。あのね、ミスティちゃん、わたし――」

「そっか。あーあ、これでおしまいか。呆気ない終わりだったわね」


 辛いはずなのに、あははとミスティは笑ってみせた。

 きっと、自分に気を遣わせないためだろう。


 そんな姿を見て、タズハは口にしかけていた謝罪の言葉を飲み込んだ。

 優しいミスティのことだ、謝ったら『何言ってるの。むしろ話しかけてくれたおかげで――』と逆に気を遣わせてしまうだろうから。


 今、言わなければならないのは別の言葉だ。


「ミスティちゃん」


 タズハはミスティの頭を優しく抱くと、頭を撫でる。


「後はわたしに任せて。ミスティちゃんの分まで頑張って、ミスティちゃんのお父さんのこと、絶対みんなに認めさせるから」


 力強く堂々とそう伝えた。

 すると、ミスティはタズハの胸に顔を埋め、肩を震わせる。

 

「……あり、がとう」

「うん」


 タズハはミスティの頭を優しく撫で続け。

 既に限界を超えていた気合いゲージをさらに高めた。

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― 新着の感想 ―
最初の一撃は、予想外で反応が遅れたから判定が出なかったのかな? ほぼプロの戦闘員みたいな動きっぽいですしね。 想定では、正面から体を狙うだけの素人の動きじゃだめで、多少の戦闘力が必要だったのかな。手先…
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