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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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14/22

四次試験開始

 時刻は昼。

 太陽が燦々と輝く青空の下、タズハは王都の石畳を真っ直ぐに歩いていた。

 そう、今日は四次試験当日であり、会場に向かっているところだ。


「――ねえ、ちょっと見て」

「うわ、なんでこんなところに」


 すれ違う人からの視線は依然としてキツい。


 しかし、前ほど辛くはなかった。

 ミスティとロロネ、ランラ。そして一部の試験官。

 試験を通じて、みんながみんな自分たちを嫌っているわけじゃないことを知れたからだ。

 受け入れてくれる人がいるというのは、とても嬉しく、心の支えになっていた。


(よし、頑張るぞ!)


 タズハは心の中で自分に言い聞かすと、堂々とした顔で歩いていく。



 ☆



 この王都には、二重の巨大な岩壁がある。

 王都全体をぐるりと囲む外壁と、王城を守る内壁だ。

 内壁沿い、それも城の入り口すぐの土地は当然価値が高く、高位の貴族たちの壮麗な館が建ち並んでいる。


 その光景をタズハはほえーっと眺めながら歩いており。


「あっ!」


 ようやく目当ての建物を見つけた。

 建てる場所を間違えたのではないかと思うほど、周囲から浮いている無骨なデザインのそれは、軍の訓練場。

 四次試験の会場だった。


 さっそく中に入ると、開始までまだだいぶ時間があるのに、既に数十の人影があった。

 タズハは周囲をキョロキョロして――


「あっ!」


 ぱぁっと顔を明るくさせると、彼女のもとに急ぐ。


「こんにちは、ミスティちゃん!」

「タズハっ!」


 タズハはミスティに抱きつき、ミスティはそんな彼女の頭を優しく撫でる。

 その様子はまるで仲良し姉妹のよう。

 もちろんタズハが妹である。

 ちなみにミスティはタズハより一つ上なので、性格だけでなく、年齢的にもお姉ちゃんだ。


「今日、こっちに?」

「ええ、ついさっき着いたばかりなの」

「そっか。疲れてなぁい?」


 難民キャンプに食料を寄付してくれた後、ミスティは一度実家に戻るということだった。

 その実家があるのは、王都からずっと西にあるプランムという街だ。

 詳しい地理は知らないものの、無人島でミスティが書いてくれた地図や話から、とにかく遠いということはタズハにもわかる。


 ここ数日は、馬車での移動漬けの日々だったことは容易に想像できた。


「大丈夫よ。心配してくれてありがと」

「ならよかった! あ、ねね、ミスティちゃんは戦いの練習とかした?」

「ええ、もちろん。タズハは?」

「わたしはね――」






 ミスティとお喋りを楽しんでいると、訓練場にたくさんの男が入ってきた。

 彼らは二次試験の開始時と同じように、自分たち参加者と向かい合うように横一列に並ぶ。

 その中央には、立派な鎧と剣を身につけた壮年の男性が立っていた。いかにも、お偉いさんといった風格だ。


 筋骨隆々かつ強面の男たちを前に、参加者らは思わず身をすくませる。

 それからは誰一人として口を開こうとせず、ただただ沈黙が流れることしばし。


 ゴーンと鐘の音が三つ鳴り響いた。

 昼の三時を告げる鐘――四次試験の開始時刻となった。


「ではこれより、王妃選抜試験の四次試験を開始いたします。四次試験の内容は兵との模擬試合です。その詳細について説明します」


 どんな内容なんだろうとタズハはドキドキ。

 案内用紙には兵士との模擬試合としか書かれていなかったので、武器の有無やどう戦うかなどは不明だったのだ。


「制限時間は五分。時間内に相手を仕留めた、あるいは行動不能に追い込んだと判定員が判断した方は合格です。反対に一本取られた方、もしくは時間を過ぎてしまった方は脱落となります。武器はお互いにこちらを使用いたします」


 お偉いさんの隣に立っていた男が一歩前に出る。

 彼は両手を天に掲げた。

 その手にあったのは木で作られたナイフのようなもの。


 その瞬間、どよめきが起きた。

 聞こえてくるぼやきからすると、皆、剣を使っての勝負だと思い込み、そのための特訓を積んできていたらしい。


 それはタズハも同じだったが、感想はそっかー。と、その程度。

 これまでの頑張りが無駄になってしまうのは勿体なく感じたが、ナイフは慣れており剣よりも上手く扱える自信があったので、特に問題はなかった。


「これで説明は以上です。なお、事前にお伝えしています通り、細心の注意を払いますが、それでも怪我をさせてしまう可能性はございます。その旨、ご了承ください。最後に、何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


 すぐさま一人の少女が手を挙げた。


「そちらの方、どうぞ」

「あの、どうしてナイフなんですか? できたら、剣のほうがいいんですけど……」


 たとえ付け焼き刃でも、何の練習もしていないナイフよりは、少しでも慣れた剣のほうが勝算があると考えての発言だろう。

 その少女に乗っかるように、あちこちから同意の声が上がる。


「王妃が武器を手にしなければならない事態に直面したとして、その際に手に取るのは常に携帯しているナイフであるためです。剣を振る機会はまずなく、それ故、王妃に剣術の腕は必要ありませんので、剣への変更はお受けできません。ご了承ください」

「……わかりました」


 明確な理由に納得せざるを得なかったのだろう。

 少女は不服そうにしながらも、引き下がった。


「他に質問がある方はいらっしゃいますか?」


 お偉いさんは周囲を見回す。

 手を挙げる者はもういなかった。


「いらっしゃらないようなので始めたいと思います。これより兵が名前を呼びますので、呼ばれた方は前にお越しください」


 お偉いさんが言うと、男たちが手際よく配置につく。

 木製ナイフを持った男を四人の兵士が囲んだ。外側の四人は判定員か。

 その形を一つのブロックとして、訓練場に八つのブロックが作られた。


「リモル・フォドン様!」

「キャス・トロイデス様!」


 各ブロックの兵士がそれぞれ紙を読み上げ、名前を呼ばれた少女は前に出る。

 タズハは呼ばれなかったことにほっと息を吐くと、隣にいるミスティに耳打ち。


「最初じゃなくてよかったね」

「ええ、ほんとに」


 後のほうが兵士たちの動きを観察できるし、心の準備もできるからである。


「――では、開始!」


 ほどなく、最初の模擬試合が始まった。

 タズハたちが見ているのは、一番近くで行われている赤髪の少女とスキンヘッドの男性の試合だ。


 少女はその場を動かず、右手を左手で包むようにして握ったナイフを脇腹のあたりで構えている。

 対する兵士は腰を落とし、ナイフを突き出しながらジリジリと少女に近づいていっていた。


 そうしてお互いの距離が三メートルを切ったあたりで――


「やあああ!」


 少女は両手を前に突き出すように駆け出す。


「おっ」


 さすがはここまで残っているだけあって、身体能力は高め。

 かなりの瞬発力で一気に男との距離を詰め、ナイフは腹に向かっていく。

 相手が戦闘経験のない一般人だったなら、そのまま腹に風穴を空けていたことだろう。


「失礼っ!」


 しかし、相手は戦いのプロ。

 兵士は身を翻して刺突を躱すと、少女の行く先を阻むように左足を前に出した。


「きゃっ――」


 足に引っ掛かり、転倒した少女の腕を兵士が掴む。

 直後、兵士は反対側の手に握った木製ナイフを少女の首に押し当てた。

 すると、周囲を囲んでいた判定員四人が右手を挙げ、


「勝負あり! 勝者、兵!」


 うち一人がそう告げた。


「嘘……本気じゃん……」

「あんなの絶対勝てないって!」


 ひと呼吸おいて上がるのは困惑の声。

 参加者はそのほとんどが戦闘経験のないど素人。

 だから皆、さすがに手心を加えてくれるだろうと思っていたが、そんなことはなかった。


 どうやらこの四次試験で相当数を絞るらしい。

 少女たちは不安の色をより濃くする。


(真っ直ぐいっちゃダメ。ならわたしは――)


 そんな中で、タズハだけはネガティブにならず、それどころかその瞳は自信に満ちていた。


「――では、次、タズハ・キャッティ様!」

「あっ、はい!」


 見ていた班の兵士から名前を呼ばれ、タズハは元気に手を挙げる。


「じゃあ行ってくるね」

「ええ、頑張って」


 タズハはミスティに大きく頷くと、前に出ていく。

 その表情には、不安も恐怖も一切ない。

 あるのはただ一つ――勝つという強い意志だけだ。

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