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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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12/22

閑話 初めてのお友達

 フォルスタ家は、アミール家・テテンサ家と並んで代々王族に仕える家の一つである。

 現在の当主はボイド・フォルスタ。

 その四女――ランラ・フォルスタは王城で割り当てられた自室で紙を眺めていた。


(……何度見てもすごい顔ぶれですね)


 これは先ほど父から渡されたもの。

 一週間後に開催される三次試験にて、自分が試験官を担当する三人の詳細が書かれていた。


 自分は参加者に扮して彼女らに混じることで、三人が無人島で最低限生活できるよう導きつつ、人間性や能力を評価して合否を下さなければならない。

 それはもう責任重大で、大きなプレッシャーを感じる。


 さらに自分が担当するのは難民の猫人族、貧民街の住民、田舎貴族の令嬢と、曲者ばかりだ。

 何事もなくスムーズにとはいかなさそうで、ランラは胃が痛くなった。



 ☆



 王族のお世話をしつつ、姉妹や姪と一緒に講師からサバイバル技術を学んだり、兵士から自分が行く島の情報を教えてもらったりすること一週間。

 ランラは参加者に伝えられている集合時間の一時間ほど前に港へやってきた。


「ランラ様。おはようございます」

「ええ、おはようございます。これから一週間よろしくお願いしますね」


 女性兵士に軽く頭を下げると、島に着いてからの優先順位や水場の場所などについて順に確認する。

 それは事前に何度も説明されており、もう完璧に頭に入っていたが、念には念をの最終確認だ。


 それが済むと世間話で暇を潰し、集合時間まで後三十分ほどとなったところで。


「あっ、獣人が来ましたよ」


 兵士に言われて振り返ると、こちらに歩いてきている猫の耳と尾を生やした桃色髪の少女が目に入った。

 特徴からして、タズハ・キャッティで間違いないだろう。


「おはようございます! 三次試験に参加しに来ました!」


 震えた声と貼り付けたような笑みからは、緊張と怯えが見て取れた。


 種としての性質なのか、人間族は排他的で他種族に抵抗感を抱く人が多い。

 その上で、このニードヘレン王国は隣国の獣人国家と戦争していた歴史があることもあって、差別意識を持つ人は他国よりも多い。


 どんな視線を向けられてきたか、言葉をぶつけられてきたかは容易く想像でき、身構えるのも無理はないと思った。


「おはようございます! 一週間、よろしくお願いしますね」


 ランラは特に獣人に対して悪感情を持っていなかった。

 なので普通に挨拶を返すと、彼女はぱぁっと顔を明るくさせる。

 それだけでこんなにも嬉しそうにするタズハを不憫に思いながら、ランラは自分の名前としてランラ・テイレーンを名乗った。






 それから十分ほど経ったところで、一人の少女が自分たちに声をかけてきた。

 髪色や服装からして、この娘がロロネ・ビジュイだろう。

 遅れて彼女を見たタズハは驚きの表情を浮かべる。


「あの時の!」

「はい、あの時は本当にありがとうございました! おかげで――」


 どうやらタズハとロロネは互いに面識があったらしい。

 再会を喜び合い、三次試験で同じグループであることが判明するとキャッキャとはしゃぐ。


 そんな二人の姿にランラは疑問を抱いた。

 城壁の外に住む獣人と貧民街に住む人間族。

 互いに接点はないはずだが、一体どういう関係なのだろう、と。


 その情報はなかったので、挨拶を済ませた後にそのまま聞いてみることにした。


「お二人は昔からのお知り合いですか?」

「あ、いえ。ロロネちゃんとはこの間の二次試験で知り合って。ね?」

「うん。タズハちゃんは倒れたわたしを心配してくれて、それでお花も――」

「そうそう! その後、一緒にゴールしたんです」


 タズハは慌てた様子でロロネの言葉を遮ると、「ねー?」と同意を迫る。


(お花……ハカナイのことでしょうか)


 二次試験の内容は、時間内にハカナイという花を摘んで提出するというものだった。

 そのハカナイを一緒に取りに行ったのだろうか。

 であれば全く問題ないが、もしかしたら彼女は参加者同士が一緒に行動してはならないと思っているのかもしれない。


 そう結論づけたところで、またしてもこちらに向かってくる一人の少女が目に映った。

 身なりからして貴族だ。

 ということは彼女が最後の一人、バーテンドール子爵の一人娘――ミスティ・バーテンドールに違いない。


 タズハに続いてランラも挨拶すると、見事なまでに無視された。

 環境や教育がそうさせるのだろう。

 貴族にはやはり傲慢な者が多く、彼女もまたその一人だったらしい。


 この三次試験では、過酷な環境でも音を上げずに耐えられるだけの精神力があるかを確かめると同時に、人間性や能力の評価も行う。

 その点、ミスティの人間性はマイナス要素になりそうだと、ランラは思った。



 ☆



 数時間かけて、ランラたちを乗せた船は無人島に到着した。

 支給品を受け取り、ガイドブックの見方などの説明が兵士からなされた後、三次試験の開始が宣言された。


 すると、ミスティ・バーテンドールは一人で森に向かっていく。

 やはり協力するという考えはないようで、ランラは小さく溜め息を吐いた。


 自分はこれから一週間、三人が安全に暮らせるようフォローしなければならない。

 なので単独行動をされると、様子を確認するのに行ったり来たりしなければならないので正直嫌なのだが、それはこっちの都合。

 チームではない以上、一緒に行動しろと言うわけにもいかず、走り続けなければならないことが決まってしまった。


 まあ、これも仕事だし仕方ない。

 いずれかの水場にいるはずなので、明日にでも探しに行こう。

 今日はこの二人だ、とランラはタズハとロロネに向き直った。


「わたしたちも行きましょうか」

「まずは水ですね!」

「ええ。ここから北に少し行けば水場があるようですし、行ってみましょう」






 森に入り、水場に向かっている道中、ランラは眉間に皺を寄せた。


「ロロネちゃん、大丈夫?」


 歩き出してからまだ二十分ほどしか経っていないのに、ロロネは既にバテている。


(おかしいですね……)


 今ここにいるということは、二次試験で時間内に花を提出できたということ。

 だが、それにしては体力がなさすぎる。


 まさか不正でもしたのだろうか。

 実際、二次試験では貴族を中心に、花を取ってきた者から奪うことで、それを提出して合格しようとした者が相次いでいた。

 それを参加者の中に試験官を紛れ込ませることで防いだと聞いたが、当然監視の目も限られているので、不正がバレなかった者もいるはず。


(ロロネさんはもしやその一人?)


 しかし、ロロネは貧民街の住民。

 こう言ってはなんだが立場は底辺、そんな彼女に強請られたところで大人しく花を差し出す者なんていないだろう。


 単に体調不良か何かで今だけ体力がないだけか、それとも他の手段で不正に突破したのか。

 それを明らかにするため、ランラはロロネを注意深く見ることにした。







「――きゃあああああ!」


 水場で喉を潤していたランラは、急な叫び声に身体を跳ねさせた。

 方角からしてミスティのもの。

 それを二人に伝えると、タズハは「わたし見てくる!」と飛び出した。


 それは試験官である自分の仕事。

 ランラは慌ててタズハの後を追い、それにロロネも続いた。




 途中でへたり込んでいたミスティを拾うと、ランラたちはそのまま音がするほうへ。

 ミスティ曰くイノシシが現れたとのことで、半信半疑に思いつつ警戒しながら先を見る――ちょうどタズハが枝を利用してイノシシを撃退したところだった。


 あまりにも高い身体能力と、16歳の少女が一人でイノシシを倒してしまったという事実にランラは驚きで目を見開いた。


「みなさーん! もう大丈夫ですよー!」


 自分たちに気付いていたのだろう。

 タズハはこちらに向かって両手を振った。


 見たところケガもなさそうで、ランラは心からほっとする。

 これでもしものことがあったら、試験どころではなくなっていた。


 それからはミスティがお礼をすると言い、タズハが協力を求めて。

 ランラはその様子をニコニコと眺めながら、頭の中でタズハの人間性に二重丸をつけた。






 予期せぬ事態になってしまったが、三人はこのままこの島で試験を続行したいようだった。

 ランラとしても、そうしてもらえたほうがスムーズなので、兵士に聞いて他に危険な動物がいないようであれば三人の意思を尊重することにした。


 それからはタズハが言った「食料になる」という理由により、わざわざイノシシを船のところまで運ぶと、兵士を呼ぶ。

 聞こえてきた「はーい」と何ともお気楽な返事にランラはプッツン。

 三人の手前、我慢するつもりだったが、耐えられなかった。


「これはどういうことですか?」


 三次試験で使われる無人島は、生息していた獰猛な獣の駆除だったり、水や食料が潤沢にあることの確認だったりが軍によってなされている。

 だから安全、安心して参加してほしい――と、試験の案内書にもそうはっきり書かれており、しかし蓋を開けてみればこの有様だ。


 今回はタズハのおかげで何事もなかったが、下手すれば死人が出ていたわけで、そうなれば試験は中止。

 敬愛する王族の名が、彼女ら兵士の粗末な仕事によって汚されるところだったと考えると、苛立ちが止まらなかった。

 

 結果、ミスティに宥められるまで兵士を詰めてしまい、そこは少し反省。

 本来の目的である生息している動物の種類について聞くと、イノシシ以外には特に危険な生物はいないとのことだったので、このまま試験を続行することに決まった。


 ちなみに兵士は責任問題を恐れてか、この島での試験続行を嫌がったが、それはランラの「何か?」の三文字と圧によってねじ伏せられていた。






 その後はミスティと一緒に洞穴を探しに行き。

 事前に兵士から大体の場所は聞いていたのですぐに見つけられ、そこに皆で移動すると、夕食としてイノシシ肉を食した。


 獣臭かったり、内臓ということもあって生臭かったりするのではないかと思っていたが、全然そんなことはなく。

 想像よりも遥かに美味しくて、ランラは目を丸くした。


 でも、それ以上に驚いたのは、誰かとわいわい話しながらする食事はこんなにも楽しいものなのかということ。


 王族一人一人に、従者が最低一人は常に付き添っていなければならないため、フォルスタ家では交代で休息をとっている。

 だから食事は基本的に一人。

 偶然家族の誰かと食事の時間が被ったとしても、その時に話す内容はほとんどが業務連絡だ。

 それ故、美味しい食事にテンションが上がることはあっても、食事という行為そのものが楽しいと思ったことは一度もなかった。


 そうしてお腹がだいぶ膨れてきた頃。

 タズハ、ロロネ、ミスティの順番で、お互いにこの王妃選抜試験に参加した理由について話した。


 タズハとロロネの話は既に船の上で聞いていたが、二度目でもやはり胸が痛んだ。

 そして語られたミスティの話については、ただただ驚いた。

 ミスティ曰く、彼女の父は周囲の領主から僻まれており、根も葉もない噂を流されている。それが王族の耳にも入っているのか、功績を全く評価してもらえていないとのこと。


 フォルスタ家はあくまで従者の家系なので、政治については一切関与していない。

 貴族社会への関わりもないため情勢もわからず、ランラにはミスティの話の真偽はつかない。

 なので話半分で聞くしかないが、本当だったら大変なことだ。


(陛下の耳に入れておくべきでしょうか。でもわたしごときがそんな出過ぎた真似をするのは……ミスティさんが嘘をついている可能性もありますし。いや、でも今のミスティさんを見てるとそんなことをするようには――)


 気の毒そうに眉を下げるランラは、頭の中でひたすらに悩んでいた。



 ☆



 日常の中でランラが接するのは、王族と家族、そして共に王家に仕えるアミール家とテテンサ家の人間のみ。

 それらの家にはもちろんランラと同年代の女子もおり、時折お茶をしたりもするが、そこでの会話の内容はやはり仕事に関連すること。

 お互いに仕事仲間という認識が強く、雑談に花を咲かせたり、一緒に遊んだりするような相手は一人もいなかった。


 そんなだったから、タズハたちと過ごしたこの数日はとても楽しかった。

 もっともっとこんな日々が続いたらいいのに、と思った。


 でも、それももうおしまい。

 今日で無人島生活は終了。

 この後、自分は正体を明かし、三人に結果を伝えなければならない。


 ――タズハとミスティは合格、ロロネには不合格という結果を。


 ロロネは結局、初日以降も体力不足は変わらなかった。

 なので、二次試験は何らかの不正を働いて突破したのだと判断し、その方法について推理を続けていた結果、答えがわかった。


 港での会話からして、恐らくタズハがロロネに花を譲ってあげたのだろう。

 そしてタズハは再び自分の分を取りに走ったのだ。

 そのようなお人好しがいるとはまるで思わず、その発想に至った時はまさかと苦笑したが、タズハを見ていたら彼女ならそうしてもおかしくないと思った。


 そんなタズハに感化されてしまったのかもしれない。

 本来、二次試験を不正で突破したとわかった時点でロロネを失格処分とすべきだったが、猶予を与えることにした。

 その分、評価は厳しめにはなるが、何か人よりも秀でた点があったならば、不正の件は気付かなかったことにし、四次試験に挑むチャンスをあげようと思ったのだ。


 しかし、ロロネは最後まで平々凡々としており、特に光るところは見つけられなかった。

 家の名前を背負っている以上、さすがに凡庸なロロネを合格とするわけにもいかず、ランラは不合格という判断を下すしかなかった。


 そんなこととは露知らず、皆で合格できるものだと思っているのだろう。

 前を歩く三人は上機嫌で歩いており、そんな彼女らの姿にランラは胸が締め付けられるような思いだった。






 そして船に着き、素性と結果を伝えると。

 案の定、ロロネはひどく落ち込み、ミスティは強い怒りを向けてきた。


 当然の反応だ。

 自分は三人を騙し、その上で笑いあったロロネを落としたのだから。

 昨日、タズハが『試験が終わっても仲良くしようね』なんて言ってくれたが、そんな考えもなくなってしまっただろう。


 ランラは罪悪感やら寂しさやらで心がぐちゃぐちゃになっていたが、それでも試験官としての役目を果たすため、何でもないように淡々と続けた。


 最終的にロロネは不合格を受け入れ、タズハとミスティがそんな彼女の願いを受け継いだ。

 少しロロネのことが心配だったが、二人のおかげで元気を取り戻せたようでランラはほっとする。


 そしてそんな三人の姿を見て、これが友達というものなのだなと理解すると同時、その輪に加われないことが寂しかった。






 王都に帰るため船に乗り込むと、気まずさからランラは三人から逃げるように船室に向かう。


「待って!」


 そこをタズハに呼び止められられた。

 騙していたことへの怒りや失望をぶつけられるのだろう。

 仕事とは言え自業自得、ランラは甘んじて受け入れることにし、真っ直ぐにタズハを見る。


 すると告げられたのは暴言や落胆の言葉ではなく、「よかったら、みんなでお話ししませんか?」というお誘い。

 ランラは驚きに目を見開く。

 だって当然嫌われたものだと思っていたから。


 もしも許してもらえるなら。

 また仲良くしてくれるのなら。

 図々しいことは理解しているが、ぜひそうしてほしい。


「……よろしいのですか?」


 不安に思いながら尋ねると、三人は笑顔で受け入れてくれた。

 光るところがないと、自分が落としたロロネまでもだ。


 ランラは込み上げてきた涙を拭うと、三人に笑みを向ける。

 その笑顔は十八年の人生の中で、最も輝いていた。



 ☆



 王城に戻ったランラは、割り当てられている自室で決心した。

 ミスティの家の件はずっとどうしようか迷っていたが、やはり陛下に伝えよう、と。

 そして難民キャンプや貧民街のことも気にかけてもらえるよう、それとなく言ってみよう、と。


 ゼイナスの担当を任せられ、お世話をするようになってもう八年。

 従者という立場、何か聞かれたら答えるだけで、自分から進言したりなんてことは当然だが一度もない。


 ゼイナスには信頼してもらえているし、そもそもそんなことで怒るような器が小さい人でもないので、話は普通に聞いてもらえるだろう。

 まあ、受け入れてもらえるかは別として。


 それでも言おうか迷っていたのは、やはり自分のような立場の者が陛下に進言してもいいものかという、常識的な観点からの躊躇いによるもので。

 ランラは首を振ってそんな気持ちを振り払うと、「よし」と気合いを入れ、ゼイナスの私室に向かう。


 その時、頭に浮かんでいたのはタズハ、ロロネ、ミスティ――初めてできた大切なお友達の顔だった。

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王に判断材料を渡すことじたいは仕える者にとって大事なこと。 自分の判断を勝手に伝えるのはともかく、見知った情報は知ることに意味がある。 たとえ嘘だとしても、嘘が広まることが問題ではある。 だから無闇矢…
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