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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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11/22

ランラ・フォルスタ

 タズハたち四人はお日様に照らされながら、海岸を歩いていた。


「あー、ほんとにあっという間だったわね」

「ふふ、ミスティちゃん、また言ってる」

「だって本当にそう思ったんだもの。……これもあなたたちのおかげね」


 ミスティはタタッと数歩前に出ると、クルッと回って微笑んだ。


「ありがと、タズハ、ロロネ、ランラ! あなたたちと一緒のグループになれて本当によかったわ!」


 タズハはぱぁっと顔を明るくさせると、ミスティの左腕を胸に抱く。

 ひと呼吸おいてロロネが右腕を掴み、ミスティはまさに両手に花。


「そんなのこっちのセリフだよ!」

「そうだよ! ミスティちゃん、こちらこそありがとう!」

「ふふ、これからもよろしくね!」

「「うん!」」


 三人はその体勢のまま、ニコニコ笑顔で進んでいく。

 こんなにも上機嫌なのは、無人島で無事に一週間過ごすことができたから。

 後は船で待つ兵士のもとに行くだけで三次試験を通過できるとなれば、それはもうテンションも上がるというもの。


 ほどなく、タズハは顔だけ後ろに向けた。

 ランラと目が合い、彼女は顔の横で小さく手を振る。


 本当はランラにも自分たちに混ざってほしいところだが、一週間ともに過ごしたことで、そういうタイプではないことはわかっていた。

 だからタズハは微笑むだけに留め、再びミスティたちとキャッキャとする。


 そんな彼女らを見て、ランラは大きく溜め息を吐いた。

 その表情は、まるでこれから仕事に行かなければならない大人たちのような、そんな憂鬱さを感じさせるものだった。



 ☆



 前方に自分たちが乗ってきた船が見え、タズハたちは早歩きに。

 それから船のもとに着くにはそう時間はかからず、三人は立っていた兵士にペコリと頭を下げる。


 すると少し遅れて到着したランラは自分たちを通り過ぎ、数歩歩いたところでこちらに振り返った。

 自分たちと向かい合う形になっており、ランラの前に兵士が立つ。


「タズハ・キャッティさん、ミスティ・バーテンドールさん、ロロネ・ビジュイさん。一週間お疲れ様でした」


 ランラは順に顔を見て、深く頭を下げた。


「ではさっそく、このランラ・フォルスタより、三次試験の合否について発表させていただきます」


 続けられた言葉に、タズハは目を瞬く。

 なぜランラが合否を発表しようとしているのか、理解が追いつかなかった。


「まず、タズハ・キャッティさん。身体能力の――」

「待って! ……いや、待って、ほんとに」


 驚きのあまり硬直してしまった自分たちに構わず、ランラは平然と続けようとし、それをミスティが止めた。

 ミスティは眉間を抑え、少しの間を置いて真っ直ぐにランラを見る。


「さっきあなた、自分のことランラ・フォルスタって言った?」


 タズハは「あっ」と目を見開いた。


「そうだよ! ランラさんはランラ・テイレーンさん……だったよね?」

「うん、そう言ってた」

「わたしも今の今までテイレーンさんだと思ってたんだけど……どうなの?」


 それを受け、ランラは片膝を後ろに引き、軽く膝を曲げる。

 お手本のような綺麗なカーテシーだった。


「わたしはボイド・フォルスタの四女、ランラ・フォルスタにございます」

「フォルスタ……聞き間違いじゃなかったのね」


 ミスティは手を額に当て、天を仰いだ。

 その反応からして有名な家系なのだろうが、難民のタズハが知るはずもなく。


「知ってる?」


 隣のロロネに尋ねてみると首を横に振った。

 そんな二人に気付いたミスティは小さく溜め息を吐いて、タズハたちに向き直る。


「王族には代々従者として仕えている家系が三つあるんだけど、フォルスタ家がその一つなの」

「従者って?」


 聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、ロロネが「お手伝いさんのことだよ」と教えてくれた。

 ミスティはおほんと咳払いをして続ける。


「で、その三つの家は貴族ではあるけれど、爵位がないから表面的には階級は高くない。でも、実際は公爵家に匹敵するほど地位が高いの。なんたって王族から絶対的な信頼を得ている特別な家系だからね」

「……そっか。ランラさんってすごいお家のお嬢様なんだ」

「ええ、わたしなんかとは比べ物にならないほどにね」


 呆れるように両手を広げたミスティは、ランラに向き直った。


「まさか、そんなお嬢様と一緒に無人島で生活してただなんてね。……それで? 身分まで偽って、わたしたちと一緒にいたのは監視するため?」

「はい、試験官として。それと普通に生活が送れるようにフォローするために。まあ、その必要はなかったですが」


 それを聞いてタズハは悲しくなった。

 普段の過ごし方から試験に参加した理由まで、彼女が語っていたのは全てデタラメだったことがわかってしまったからだ。

 そうとは知らず、タズハはお友達になれたと喜んでいた。

 情けなくて涙が出そうになる。


「なるほど、色々合点がいったわ。あなたについていったらすぐに洞穴が見つかったり、獲れた魚の名前を知っていたりしたのは、前もってこの島について聞いていたからなのね」

「ええ、その通りです」

「すっかり騙されちゃったわ。……仲良くなれたと思ってたのに」

「……申し訳ありません」


 ランラは深々と頭を下げ、それからは沈黙。

 四人とも顔を俯かせ、重い空気に包まれることしばらく、両者の間でじっとしていた兵士が「あの、ランラ様」と促した。


「……そうですね。では改めて、このランラ・フォルスタより、三次試験の合否について発表させていただきます」

「ええ。まあ、聞かなくてもわかってるんだけど」


 ミスティの言葉にランラは少しだけ眉を下げると、タズハを真っ直ぐに見た。


「まず、タズハ・キャッティさん。イノシシをも一人でいなしてしまう身体能力の高さ、さすがあっぱれでした。そして危険を顧みずに他者を助けようとするその姿勢も素晴らしかったです。文句なしの合格です」

「あ、ありがとうございます」


 タズハは微妙な返事を。

 結果はわかっていたとは言え、やはり合格と言ってもらえるのは嬉しいものだが、先ほどのショックをまだ引きずっていた。


「続いて、ミスティ・バーテンドールさん。自分の過ちを認め、素直に謝罪できる。多くの貴族が持っていない謙虚さをあなたは持っています。率先して動き、我々を率いてくれたリーダーシップ能力の高さもよかったですね。おめでとうございます、合格です」

「あ、うん……ありがとう、よかったわ」


 ミスティもやはり、タズハと同じ反応だった。


「最後にロロネ・ビジュイさん。申し上げにくいのですが、あなたは不合格です」


 淡々と告げられた死の宣告に、三人は時が止まったように固まった。

 再びこの場に静寂が訪れ、時間が流れ始めたのは三十秒ほど経ってから。

 脳が言葉の意味を理解した者から動き出す。


「不合、格……」


 ロロネは糸が切れた人形のように、ガクンと首を落とした。

 直後、ミスティは大きく見開いていた目を鋭く尖らせる。


「何言ってるの? そんなわけないじゃない」

「そ、そうだよ。リタイアせずに、こうして一週間無人島で過ごしたんだから!」


 タズハが続くと、ランラは「残念ですが」と前置きする。


「無人島で一週間過ごすというのは最低条件であり、合否の判断は共に無人島で過ごしたわたしたち試験官が下すことになっているのです」

「はぁ? 何それ? 話が違うじゃない。試験の案内書には、無人島で一週間過ごすことができたら合格って書いてあったけれど?」

「お言葉ですが、そのような記載はありません。そう誤解させるような書き方であったことは確かですが」

「えっ、そんなはず……」


 タズハは記憶を探る。

 暇が故に、案内書には何度も目を通した。

 だから完璧にとまではいかないまでも、文面はほぼ記憶している。


「ほんとだ……」


 記憶の中の案内書に記されていたのは、無人島で一週間過ごすという内容とその詳細のみ。

 確かに合格の条件は何も書かれていなかった。


「信じられないようでしたら案内用紙をお持ちしますが」

「……わかった、そこはわたしの思い違いだったわ」


 タズハの反応とランラの強気な態度からか、ミスティは潔く認めた。

 しかし、目は変わらず鋭く尖ったまま。


「で、ロロネはあなたの判断で不合格ですって?」

「ええ」

「『ええ』って、あなたねっ!」


 ミスティが怒りを露わに、ランラへ一歩踏み込む。

 それに反応した兵士がランラを守るように手を伸ばした。

 タズハも「わわっ」と慌てながら、今にも飛びかかりそうなミスティの両肩を掴む。


「……さすがに手は出さないわよ」


 緊迫した空気の中、ミスティはそう言って俯いたままのロロネの隣へ。

 それを確認したタズハはランラに向き直る。


「それで、どうしてロロネちゃんが不合格なんですか?」


 タズハもロロネが不合格なんて到底受け入れられない。

 だから、理由を聞いたら「でも」とフォローすることで、ランラに撤回させようという腹づもりだ。


「光るところがなかったからです」

「光るところ?」

「はい。ここでのわたしの任務は参加者の人間性や能力を見極めることで、秀でた方のみを次に進ませること。先ほどお伝えした通り、タズハさんとミスティさんは際立った魅力がありましたが、ロロネさんにはそれが見当たりませんでした」

「えっ……で、でも、ロロネちゃんは周りの人のために一生懸命頑張ってる、すっごく優しくていい子です!」


 それを言うなら自分もすっごく優しくていい子になるのだが、タズハにその自覚はなかった。


「ええ、そうですね。わたしも心からそう思います」


 素直に同意してもらえたことにタズハは目をぱちくり。

 それならなぜ、と問う前にランラは「しかし」と続けた。


「優しくていい子なだけでは不十分なのです。これは王妃を選ぶための試験ですから。それに――」


 ランラはロロネに視線を向ける。


「そもそもあなたは本来ここにいるべきではないはずです。言っている意味、おわかりになりますよね?」


 言い終えると、ランラはちらりとこちらを見た。

 それを受け、タズハははっとする。

 ロロネがこうして三次試験に挑めたのは、二次試験で失格になりそうな彼女にタズハが花を渡したから。

 それがなければ、今頃ここにロロネの姿はなく――そのことを言っているのだと察した。


 恐らく、とても二次試験を突破できるような体力ではないことと、自分とロロネの関係性からそういう結論に至ったのだろう。


「はぁ? 何を意味わからないことを。大体あなた――」


 ミスティが再び声に怒気を宿したところで、ロロネがミスティの腕を掴む。

 そしてふるふると首を振った。


「二人とも、わたしのためにありがとう。でも、もういいの」

「ちょっと! そんな簡単に認めちゃダメよ! だってあなたが頑張ってるのは貧民街のみんなのためなんでしょ?」

「……うん。でもわたし、ランラさんが言う通りで本来は二次試験で落ちてたから。そんな中、三次試験に挑戦できて……でも、そこでもダメダメだった」

「ロロネちゃん……」

「だから、もういいの!」


 ロロネはそう言って口元だけを持ち上げた。

 そんな彼女にタズハはミスティと同じことを言おうとして――やめた。

 二次試験でのことがバレている以上、不合格が覆ることはなく、気休めにもならないからだ。


「……そっか」

「ちょ、『そっか』って、タズハまで何認めてるのよ! ロロネのこと、見捨てるの!?」


 もちろんそんなつもりはない。

 タズハはロロネの肩に手を置いて優しく微笑む。


「お疲れ様。後はわたしたちに任せて」


 ミスティは顔をはっとさせた。


「そう、そうよ! ロロネたちのこと何とかしてあげてって、わたしたちが陛下に言ってあげる! だから安心しなさい!」


 ロロネがこの試験に参加したのは、最後のほうまで残ることができれば、王であるゼイナスと直接話せる機会があると考え、そこで仕事をくれと頼み込むため。

 たったそれだけだ。

 そのくらいなら、自分が代行してあげられる。


「……いいの?」

「もちろん! お友達のためだもん!」

「ええ! ロロネのためなら頭を下げるくらい、どうってことないわ!」

「……二人とも」


 ロロネはタズハとミスティの顔を交互に見る。


「……ありがとう。本当にありがとう、タズハちゃん、ミスティちゃん」


 そして目元に涙を滲ませた。

 先ほどのように口だけじゃなく、今度はちゃんと目も笑っていた。

 釣られるようにタズハたちも頬を緩めると、三人で笑い合う。


 そんなタズハたちの姿に、ランラはどこかほっとしたような、それでいて少し寂しそうな表情を浮かべた。

 ほどなくパンッと手を叩き、タズハたちの視線を集める。


「これにて三次試験は終了です。では、帰りましょう」






 それから全員が乗船したところで。


「それでは失礼いたします」


 ランラは背中を向けて、船室のほうへ歩き出す。

 それはまるで、ここに来る時のミスティのよう。


「待って!」


 そんなランラをタズハが呼び止めた。


「よかったら、みんなでお話ししませんか?」


 ここに来た時みたいに、とタズハは付け加える。


 ランラはどこにでもいる平民の娘なんかではなく、代々王族に仕える名家のご令嬢だった。

 話してくれたことは全部嘘、それを知ってタズハはとてもショックで悲しかった。


 でも、見たもの全てが嘘ではない。

 イノシシ肉を美味しそうに食べる姿、水浴びをしている時の気持ちよさそうな顔、魚が獲れた時の嬉しそうな顔。

 それらはきっとランラの本当の部分で、そういうところを知ったから好きになれた。


 だから、タズハはまた仲良くしたい、お友達になりたいと思ったのだ。

 架空のランラ・テイレーンではなく、ランラ・フォルスタという少女と。


「えっ?」


 ランラは目を瞬き――


「……よろしいのですか?」


 不安そうに尋ねる。

 それにタズハが満面の笑みで答えると、視線はロロネのもとへ。


「わたしもお話ししたいです!」


 ランラは驚きの表情を浮かべ、最後にミスティを見る。

 ミスティはやれやれと首を左右に振った。


「ロロネがそう言うのならいいんじゃない? ……ま、わたしも本当のあなたがどんな人なのか、少しは気になるし」


 ランラは俯くと、目の辺りを手で擦る。

 少しして上げられたその顔には、満面の笑みが浮かんでいた。


「では、ぜひご一緒させてください」


 そうして四人はテーブルにつき。

 王都に着くまでの数時間を楽しく過ごしたのだった。

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― 新着の感想 ―
仮面はあれど、そこから漏れ出た光は本物だった。 役目以上に輝くものはあったんですね。 そしてスラムの娘は残念でした。 もともと試験的に基準に達していなくて、落ちるべくして落ちた感じですね。 申し込み…
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