表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

第1話 結婚できなくなったそうです

「君とは結婚できなくなったんだ」


 エルザ・ミツレイが婚約者からそんな言葉を伝えられたのは、アカデミーの卒業式の後に行われる、お祝いのパーティーでのことだった。


「え、どういう意味?」


 頭が真っ白になりながらもどうにか言葉を絞り出すと、婚約者のデレク・ビアサルは軽くため息をついた。


「婚約を解消してほしいんだ。エルザも、知っているだろう? 僕が、あのローズマリー様の新しい事業のパートナーに選ばれたって」


 ローズマリー・マロリス。

 年頃の貴族ならその名前を聞いた瞬間、一人の女性を思い浮かべるだろう。

 彼女の名声はそれほどまでに高く、誰からも慕われている。

 エルザよりも一つ年上の才女であり、アカデミーではデレクと同じ学年だった。


「でも、約束したじゃない。私がアカデミーを卒業したら、すぐに結婚してくれるって」


 エルザはふんわりとした柔らかい栗毛の下から、白みがかった黄色の瞳で、目の前にいる男の顔色を窺った。


 デレク・ビアサルは一言で表すと美男子だ。

 緑色の長い髪に、褐色の瞳が特徴的で、侯爵家の次男ということもあり、婿候補としても名高い。

 彼はエルザの婚約者であり、同時に幼馴染みの関係でもある。


 二人の間にあるのは恋心や義務による婚約ではなく、どちらかというと長い付き合いからくる友情だ。

 デレクは固有能力がないエルザのことを、それでもいいからとアカデミーを卒業したら結婚しようと約束してくれていた。


 あの頃はまだお互いにアカデミーに入学する前だったけれど、その言葉だけがエルザの目標でもあったのだ。


 今日はエルザのアカデミーの卒業式だ。

 一学年上のデレクは一足先にアカデミーを卒業しているから、今日はエルザの卒業のお祝いに来てくれたのだと思っていた。


 それなのに――。


「本当は僕も君と結婚してあげたかったんだけど、でも無理になったんだ。あのローズマリー様に比べると、エルザはすこし……うーん、言葉を選んであげたいけどさ……見た目は子供っぽいし、嫁にするにはやっぱり物足りないかなって」


 デレクの口から告げられたまさかの言葉に、咄嗟に声が出てこなくなる。


 たしかにエルザは平均よりも身長が低く、十八歳なのにまだ幼い令嬢に間違えられるほど童顔で子供っぽい。

 反対にローズマリーは誰もがうらやむ大人っぽさを持っていて、エルザ自身も憧れている。


(でも、いまのままの私でもいいよって、言ってくれたのに)


 悔しさなのか、悲しさなのかがわからない。

 衝動的な感情が胸の奥から湧き上がってくる。


 そんなエルザの気持ちを知ってか知らずか、デレクはまるで幼い子供に言い聞かせるような口調で続けるのだった。


「どうせ僕たちの婚約は、仮のようなものだろ? 親同士の仲が良くてさ、どうせなら僕たちを婚約させればいいとか、そんなノリだったじゃん」


「…………」


「だから、どちらかに本気の恋の相手ができたら、いつでも婚約解消してもいいってお父様も言っていたし、ちょうどいいかなって」


 エルザとデレクとの婚約は、幼馴染みだったこともあり、軽い気持ちで決まった。


 それでも彼はエルザのことを大切にしてくれていたし、エルザもデレクに密かに想いを募らせていた。

 アカデミーで嫌なことがあっても、入学前にした彼との約束がエルザに安心感を与えてくれていたというのに。


「だからさ、僕と婚約解消して」


 笑顔で告げるデレクの姿に、それまで彼に対して募っていた感情が、スッパリとエルザの中から消えていくようだった。


 エルザは、はっきりとした声で返事をする。


「わかったわ。婚約解消しましょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ