第12話 ユウト、仮想ダンジョンで無双する
装備を揃えてから一週間。
ユウトはダンジョン訓練施設で、毎日のように仮想ダンジョンに潜っていた。
仮想ダンジョンとは、魔力によって作り出された疑似迷宮だ。
実際のモンスターを模したデータ敵が出現し、設定次第でその強さを自在に調整できる。
普通の初心者たちは、強さレベル3~5で練習する。
上級者でも、レベル7を超える設定に挑む者は少ない。
だが、今日のユウトは違った。
「――最大レベルでお願いします」
受付カウンターで、そう告げたとき、担当の女性スタッフは顔をしかめた。
「本当に? レベル10設定よ? 大人でも滅多に申請しないわよ?」
「大丈夫。転移石も持ってきたし」
一応、死亡回避用の転移魔法は義務付けられている。
それでも、事故は起きる。
だが、ユウトは軽く頷き、立ち上がった。
(どれだけ強いんだろう。楽しみだ……!)
心が、わくわくと高鳴る。
星霧の迷宮で鍛え上げた直感が、何も恐れていなかった。
仮想ダンジョンのゲートが開き、空間が歪む。
そこに現れたのは、仮想とは思えないほど精密に作り込まれたモンスターたち――
《黒爪の王狼》、《裂空のリザードマン隊》、《鉄殻騎士ゴーレム》。
どれもレベル10設定。
通常ならパーティーを組んでも苦戦必至の連中だった。
だが、ユウトは。
「――見えた」
狼の初動を読み切り、喉を切り裂く。
リザードマンの隊列のわずかな綻びを見抜き、一撃で中枢を断つ。
ゴーレムの継ぎ目に滑り込み、関節を刈り取る。
剣閃は、すべて最短。
動きに無駄がない。
あっという間に、ダンジョンは静寂に包まれた。
……そして。
「終了……? えっ、終了!?」
監視室で様子を見ていた管理人たちが、絶句した。
通常、レベル10仮想ダンジョンをクリアするには、最低でも30分以上はかかる。
しかもそれは、熟練パーティーでの話だ。
ユウトのクリアタイムは――たったの、7分43秒。
あり得ない。
あり得ない。
「……なんか、モンスターが動いてなかったよな?バグが発生したに違いないよな?」
管理人は勝手にそう結論づけた。
子供一人で最高難度を突破したなど、正直、信じたくなかった。
「この件は、上には報告しない。本人には仮想ダンジョン立ち入り禁止処分だけしておこう……」
それが、管理人たちの選択だった。
こうして、ユウトが起こした“仮想迷宮事件”は、正式な記録にも、都市伝説にも残らず、密かに闇へ葬られたはずだった。
ユウト本人はというと――
「なんで禁止になったんだろ? まあ、いいや。本物のダンジョンに行きたいし」
……と、あっさり気にしなかった。
渋谷の街に、また一つ、ほとんど誰も知らない“小さな伝説”が生まれた瞬間だった。
そう、シズカという動画配信者を含む一部の人間を除いては・・