第11話 ユウト、渋谷で装備を整える
渋谷2日目。
まだ渋谷にいるということに実感がわかなかった。
ビル群の谷間、空にまで届きそうな迷宮の塔を背景に、人と車と光がごった返す街。
ビデン村とは何もかもが違った。
ダンジョンに入る者も、そうでない者も、ここでは特別ではない。
誰もが自分の道を歩き、誰もが他人に興味を持たない。
――服が、目立ちすぎる。
ユウトは気づいた。
村で着ていた動きやすいだけの作業服では、いかにも「田舎から出てきた」感が漂ってしまうことに。
加えて、村で使っていた小太刀も、鞘の色が剥げかけ、革の持ち手は擦り切れていた。
それでも、ユウトは別に恥ずかしいとは思わなかった。
ただ、これから先、ここで本気でやるなら、自分自身も変わらなければならないと思ったのだ。
そんな思いを抱えながら、ダンジョン用具専門のモール『ギルドマート渋谷店』へと足を運んだ。
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「うわ……でか……」
入り口からしてすでに別世界だった。
数階建てのビル全部が、武具・防具・魔道具・ポーション類まで、ありとあらゆる「冒険者装備」で埋め尽くされている。
エスカレーターを降りると、目の前に広がるのは最新型の防護服セクション。
軽量で魔素抵抗に優れた『バリアジャケット』、耐刃性のある『クロスアーマー』、耐火コートや隠密仕様の防具まで揃っている。
その隅に、アウトレットコーナーを見つけたユウトは、自然とそちらへ向かった。
今の自分の手持ち(魔石を父に売ってもらった代金100万円)では、高価なものは買えない。
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しばらく悩み、ユウトは黒とグレーを基調とした、機能重視の戦闘服を選んだ。
肩と胸元には薄い防刃プレートが仕込まれており、動きやすさを損なわないデザイン。
さらに、軽量型の新しい小太刀も一本購入した。
無銘だが、鍛冶師の刻印だけが小さく刻まれている渋い一本だ。
これなら、無駄に目立たず、しかし「素人ではない」空気を纏える。
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着替えたユウトは、鏡の前で小さく息をついた。
――これが、渋谷で生きていくための第一歩だ。
服が新しくなったからといって、すぐに強くなるわけではない。
それでも、「戦う覚悟」が見えるかどうかは、外見にも現れるのだと、ユウトはなんとなく知っていた。
小太刀を腰に吊るし、フードを軽く被る。
心の中で、静かに誓う。
(ここでも、俺は勝ち続ける)
新しい装備と、決意を胸に、ユウトは渋谷の街へと歩き出した。