第10話 渋谷に到着
ビデン村を出発して、二日後。
ユウトは父ヒデオとともに、渋谷にたどり着いていた。
渋谷駅を出た瞬間、彼は立ちすくんだ。
「……っ、すげえ……」
見上げても果てないビル群。
壁一面を覆う魔力パネル。
通りを行き交うのは、普通の人たちだけでなく、武具をまとった冒険者や、魔法使い風の男、精霊獣を連れた少女までいる。
ダンジョン都市――それが、渋谷だった。
巨大なダンジョンビルの出入り口では、冒険者たちが行列を作り、次々とゲートを潜っていく。
ビルの壁面には、派手な宣伝スクリーンが映し出されていた。
《Sランク冒険者、近藤レイジ最新戦闘配信中!》
《迷宮第十六層、記録的突破者現る!》
目まぐるしく流れる情報、空気に漂う魔力の濃度、それに人々のエネルギー――
全てが、これまでの世界とは違った。
(……田舎の小型ダンジョンとは、やっぱ違う……!)
圧倒されながらも、ユウトの心は高鳴った。
「なあ、父ちゃん。すげえな。毎日、こんなとこでダンジョンに入れるのか?」
「おう。ただし……」
ヒデオは腕を組み、厳しい目でユウトを見る。
「ここじゃ“遊び”じゃすまない。ルールを守れ。命を落とすのも、自己責任だ」
――そう、ここは都会。
管理されたダンジョン都市でありながら、事故も、死亡も、日常の一部だった。
ユウトはごくりと息をのんだ。
ヒデオはすぐに新たな職場――渋谷ダンジョン管理局への赴任が決まっており、ユウト自身は、学籍は形だけ村の学校に残したまま、実質自由行動という立場だった。
(学校なんて、俺には関係ない。……ダンジョンに潜る。それだけだ)
だが当然、すぐにダンジョンに入れるわけではない。
渋谷では、一般人のダンジョン立ち入りには厳しい制限がある。
15歳未満は基本的に正式な許可が下りず、例外として「監視付き訓練ゾーン」や「初心者向け仮想ダンジョン」での修練を許されるだけだ。
それでも、ユウトは諦めなかった。
「仮想ダンジョンでいい。俺は、ここで強くなる」
人混みをかき分け、ダンジョンビルに隣接する訓練施設へ向かう。
そこでは、同年代から上は大人まで、様々な“冒険者志望”たちが練習していた。
本物の武器を使い、仮想生成されたモンスターを相手に、本気の戦いを繰り広げる。
一歩間違えれば怪我をする。
だが、ユウトはそんなことに臆さなかった。
むしろ――
(……ここだ。俺が、もっと強くなる場所)
強烈な直感が、胸の奥を震わせた。
星霧の迷宮で育った少年は、今、渋谷の魔力濃度と喧騒の中で、新たな一歩を踏み出す。
――未来の英雄の、まだ誰にも知られていない、渋谷での物語が始まった。