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本編

時代は近世、革命時のフランスに酷似した国。


パリ、コンコルド広場の処刑場に、大勢の民衆が集まっている。


処刑場の中央には処刑台があるが、木製ではなく巨大な鉄骨でできており、その上にはギロチンはない。




その上には、一人の美少女が立っている。美しく、高貴な雰囲気の姫君だが、着ているのは飾り気のない白いドレス。髪はすでに短く切られ、後ろ手に縛られている。しかし、臆する様子もなく、民衆を眺めている。


民衆は、処刑台の上の姫に対して罵声を浴びせる。

 「フランスの敵!」「海外と通じたあばずれ!」「民衆の敵!」


制服を着た役人が、巻いてあった書類を広げ、彼女の罪状を述べる。

 役人「……民衆に対する非道なる搾取と、その後の革命政府に対する……」


突然、ズシーンと巨大な足音が響く。それとともに、金属音や、機械の駆動音もする。


処刑台に歩み寄ってきたのは、身長4メートル以上の鋼鉄の巨人、歯車式強化外骨格。


巨人は、鋼鉄の階段を慎重に踏みしめ、処刑台の上に登る。鋼鉄製の処刑台すらきしむほどの重量。


ひざまずいて目を閉じ、神に祈る姫。その背後から、巨大な足音が一歩ずつ、ゆっくりと迫る。


姫はそれに耐えて祈り続けていたが、最後の足音にたまりかねて、恐怖の表情で目を見開く。震える彼女のか細い四肢。




役人の「『正義の剣』を!」という叫びとともに、大きな荷車に載せられた、長さが4メートル以上もある巨大な細身の剣が、数人の男に押されて運ばれてくる。


歯車式強化外骨格が手を伸ばし、その剣をつかむと、機械の駆動音とともに、ゆっくりとそれを振りかざす。光を放つレンズの眼。


剣を構える巨大な鋼鉄の首切り役人の前、小さな姫君の命は風前の灯火、という、冷酷な対比の構図。


姫は最後に「フランスの民衆よ、私は──」と叫ぶ。


しかしその瞬間、巨大な剣によって、姫君の首は切断され、血しぶきと共に宙に舞う。


歓声を上げる民衆。

 「革命万歳!」「共和国万歳!」




場面は変わって、刑場のすぐ外、馬小屋のような、しかし天井の高い建物の中。


そこにも歯車式強化外骨格が一機、膝をついて座っている。操縦席のハッチは開いていて、内部が見える。


その鋼鉄の巨人の前には、軍服姿の一人の男。容姿や体格は貧相で、陰湿そうな顔だが、眼光は知的で鋭い。腰には、飾り気のないひと振りの剣。


窓から、歓声の響いてくる刑場の様子を眺めると、彼はつぶやく。

 ロベスピエール「なっとらん……足音をあれほど響かせるなど! おびえさせてどうする」


顔のアップ、睨みつけるような視線。

(「マクシミリアン・ロベスピエール」とキャプション)

 ロベスピエール「これは共和国の名に基づく法の執行なのだ! 誰であっても、最期の瞬間まで、理性を持つ人間として扱われなければならない!」




刑場のほうから、ラッパの音が響く。ロベスピエールのそばにいた役人が言う。

 「そろそろです」


その声に、ロベスピエールは木製のタラップを踏んで、強化外骨格の胸部まで登る。そこで、腰の剣をすらりと抜き放つ。


その刀身は金属ではなく、ガラスのように透明。


彼は剣を高く掲げ、振り返って、眼下の役人たちに言い放つ。

 ロベスピエール「私が暴君か、それともフランスを愛する一人の自由の従僕か、今から白日の下にさらされよう」


ロベスピエールは、強化外骨格の肩から胸部に足をかけ、背中についているエンジンブロックに近づく。そこには、小さな開口部がある。


彼は剣を眼前に捧げ持ち、その透明な刀身を見つめてから、その開口部に剣を差し込む。


機械音と共に、剣は柄まで開口部に引き込まれる。じっとエンジンブロックを見つめるロベスピエール。その表情に重ねて、ゆっくりとエンジンが起動する音が聞こえはじめ、徐々に回転数を増していく。振動する機体。


ロベスピエールは、機体の胴体内の狭いコクピットに身体を押し込む。


ハッチが閉まり、ロベスピエールの機体の顔が見える。機体が起動し、輝くレンズの眼光。


機械の巨人が、ゆっくりと立ち上がる。役人が、待機場の小屋の扉を開け、陽光が差し込む。




処刑場に、役人の声が響く。

 役人「プレリアール22日法に基づき、ここに、公正なる『決闘』による、至高存在の審判を仰がん!」


鋼鉄の足音を響かせ、ロベスピエール機が広場に出ていくと、そこにはすでに、もう一機の外骨格が立っている。


その機体はまだハッチを開けたままで、内部の操縦者が、顔から胸くらいまで見えている。


ロベスピエールよりずっと若い、筋肉質で健康そうな男。

「シャルル=アンドレ・メルダ」とキャプション。


メルダは不敵な笑みで

 メルダ「逃げもせず来ましたか、ロベスピエール。国王のように海外へ逐電するかと思っていましたよ」


ロベスピエール機の首元の小さなハッチ(搭乗用とは違うもの)が開き、彼の顔だけが見える。

(※ ハッチを閉じているこの状態では、搭乗者は、機体の頭部を操作するためのヘルメットをかぶっている。ヘルメットは、機体の頭部のレンズ眼とつながったペリスコープでもあり、搭乗者の眼の部分は、ハーフミラーになったバイザーで覆われている。対戦相手のメルダも、ハッチ閉鎖後は同様の表現で)

 ロベスピエール「私は一市民として、国民公会の決定に従うだけだ」


機体の大きな顔の下に覗く、ロベスピエールの顔のアップ(両方がシンクロしているように)、怒りを込めた鋭い眼光。

「私は戦わねばならない。共和国を、国民公会を攻撃しようとする『怪物たち』がいる限り」


その言葉に、刑場の広場の外、見物席にいる男たちが顔をしかめる。

(一番手前のあごひげの男に「ジョゼフ・フーシェ」とキャプション)


 メルダ、笑いながら「ロベスピエール派の暗幕が、切り裂かれるときが来ました。そして、陰謀の歴史が明らかとなるのです!」


メルダ機、ばたんとハッチを閉める。機体の顔が見えるようになる。


ロベスピエール機、再び小さなハッチを閉じる。ハッチを閉じながらセリフ。

 「徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力である」




広場の真ん中で対峙する2機。観衆の声が響くが、二つの意見が対立している。

 「暴君に死を! ロベスピエールに死を!」

 「権力の簒奪を許すな! これはダントンやフーシェらの陰謀だ!」




対峙する2機の絵に合わせて、解説のキャプション。

 「歯車式強化外骨格──操縦者の剣技をそのまま拡大し再現する、この機械仕掛けの巨人こそ、絶対王政の時代を……そしてその後の革命を招いた、時代の象徴であった。無敵の威力を持つが非常に高価であるこのロボット兵器を所有できたのは、財力を持つ王だけだったからだ。それゆえ、『貴族は王に武力を提供する対価として、自分の領地の所有権を保証してもらう』という、封建制度の根幹が、崩壊してしまったのである」

 「そしてそれは、血染めの革命と、『英雄の時代』の始まりでもあった」




高まるエンジン音。2機とも、腰に抜き身で装備されていた剣を手に取る。


メルダ機、剣を構えて突撃の構え。

 メルダ「その顎を粉々に打ち砕いて、恐ろしい虚偽を二度と語れなくしてくれよう!」


メルダ機の脚部が変形し、足首のパーツが引き込まれ、代わりにゴムタイヤのついた車輪が出てくる。


回転を始めた車輪がスリップし、砂ぼこりが上がる。車輪による「拍車滑走」を始め、猛スピードで突進するメルダ機。

(車輪の回転の反動を抑えるため、機体の姿勢は前のめりになって、地面すれすれに)




ロベスピエール機、華麗なステップでその突進をかわす。

 ロベスピエール「ふん、最初から『拍車滑走(スパーグライド)』で突撃精神とは、芸のない……」


スキーやスピードスケートのような低い姿勢で、激しく方向を変えながら突撃を繰り返すメルダ機。何度も、相手の脚を狙って斬撃を放つ。


ロベスピエール機は、ぎりぎりでただかわすだけ。

 メルダ「ははは、この機旋技には目がついていくまい!」


機内のロベスピエール、不機嫌そうな、しかし落ち着いた表情。

 ロベスピエール「ふん……」


ロベスピエール機、いきなり大ジャンプ。ふわりと、メルダ機の上空に浮かぶ。

 メルダ「……!」


空中から剣を突き下ろすロベスピエール機。地面に深い穴を穿つ。


無様に転がり、土ぼこりをあげながらやっと回避するメルダ機。


しかし、その無様な横転から、手で地面を叩き、空中高く舞い上がる。そこから、見事に曲芸のように着地する。


ズシーンと重厚な音、メルダ機の内部の駆動系の、ギヤやチェーン、ばね付きのシリンダーが、きしみながら作動する様子。




機内のメルダ、衝撃に耐えながら、顔を上げる。

 メルダ「くっ……!」


その瞬間、すでにメルダ機の直前まで迫っているロベスピエール機。轟音と共に、両機の顔が高速で接近する。

 メルダ「!」


巨大な衝突音と共にぶつかり合う両機。そこから、つばぜり合いの状態になる。

 ロベスピエール(声だけ)「この程度の技で、我々の暗幕とやらを切り裂けるつもりかね?」


ロベスピエール機、高まる駆動音と共に剣を押し込む。

 ロベスピエール(声だけ、機体の顔のアップ)「リヨンの虐殺の裁きを受けよ!」


機内のメルダ、焦りながら、股の前にある四つのシフトレバーをがちゃがちゃと操作する。

 メルダ「馬力で負けている……し、シフトチェンジ!」


メルダ機、ごーっという駆動系の音の変化。つばぜり合いを徐々に押し返していく。


ロベスピエール機、姿勢が反り返り始め、不利な体勢に。


鋼鉄の足が地面にめり込む。


ロベスピエール機内部の駆動系(やはりギヤやスプロケット、ばねやシリンダー)の絵、ギシギシときしみ音を立てる。ギヤなど駆動系が空転するような表現も。


メルダ機の顔アップとセリフ。

 メルダ(声だけ)「この態勢からでは跳躍もできまい! このまま駆動系を圧壊してくれる!」


機内のロベスピエール、冷酷で平静な表情。

 ロベスピエール「……」


ロベスピエール、股の前にある操縦装置をすばやく操作する。それは、メルダが操作した四肢駆動系のトランスミッションではなく、中央にあるレバー。


ロベスピエール機内部にある、「機軸ジャイロ」のフライホイールの絵。

(「機体姿勢安定用機軸ジャイロ」とキャプション)


高速で回転していたホイールを、ディスクブレーキ同様のブレーキパッドが挟み込んで、急停止させる。

(バン!というような激しい音で)


その「機軸ジャイロ」をロックする操作で、ロベスピエール機はフライホイールの角運動量をすべて受け、機体全体が大きく回転する。足元の地面は円形にえぐれるほど。


メルダ機、その一撃で、剣ごと両腕を破壊されて吹き飛ぶ。


技の解説キャプション。

 「機旋技 機軸旋回術(スピンドル・ムーブ) 機体の胴体中央部に内蔵された『機軸ジャイロ』を使って、回転モーメントを生み出し、それを利用してフェイントをかけたり、通常では不可能な動きで攻撃する技術」




倒れたメルダ機、尻もちをついた状態で、ハッチも開いてしまい、機内のメルダの姿が見えている。


ロベスピエール機、鋼鉄の足音を(わざと)大きく立てながら、ゆっくりとメルダに歩み寄る。


流血し、おびえた表情のメルダ。

 メルダ「待ってくれ、俺はフーシェに命令されただけ……」


ロベスピエール機の顔アップ。怒りに光るレンズの眼。

 ロベスピエール(声だけ)「言っただろう、徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力である、と!」


剣を横なぎにするロベスピエール機。メルダの首が宙に舞う。


メルダの首、音を立てて地面に落ちる。




ロベスピエール、機体のハッチを開け、全身を現す。ハッチ開口部に足をかけて、見物していた民衆に対して、手を差し伸べる。やはり冷徹、不機嫌そうな表情のまま。

 ロベスピエール「私は共和国市民としての義務を果たしたか?」


一瞬の静寂。そこから、嵐のような民衆の歓声。

 民衆「然り(ウイ)! 然り(ウイ)! 然り(ウイ)!」




最後のカット、民衆の歓声の中、立ち尽くす鋼鉄の巨人の上、さらに立っているロベスピエールの後ろ姿。表情はうかがえない。


キャプション「この日こそが、この後に続く恐怖政治(テルール)の時代の始まりであった。革命の時代を象徴する鋼鉄の巨人──『歯車式強化外骨格』は、その疲れを知らぬ駆動力によって、数多くの人々の命を奪い続けることとなる」


(終)



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