ルナティック令嬢
今回、少し長め。一万字の話となってますので、時間に余裕を持ちお読み下さい。後、「ぼくわるいスライムじゃないよ」的なパロディが多めです。
追記
誤字脱字報告いつもありがとうございます!
気が付くとアタシは昔プレイしていた乙女ゲームの世界にヒロインとして転生していた。
「うっわ、これ絶対にざまぁされる奴じゃん」
乙女ゲームのヒロインなんて何時ざまぁされるか分かったもんじゃない。アタシは、寝ぼけた肉体に活を入れて、頭をフル回転させて現状を確認した。
この世界はアタシが学生の頃にやった乙女ゲーム『ラブ&チョイス』の世界。恋愛ノベルとRPGゲームが程よく混じった良作で、悪役令嬢を倒すハーレムルートも存在する。
ならば、そのハーレムルートを目指そうか?否!それだけは絶対にしちゃならねえ!何故なら、乙女ゲーム転生モノはヒロインがハーレム作るとざまぁされるからだ!アタシはなろう読んでるから詳しいんだよ!
「って事で、ノーマルエンド目指して頑張るぞい!」
平凡人生を進む事を決意したアタシは、物語の舞台となる学園へ歩みだす。今日は入学式。アタシは今、学園に向かってパンを食べながら駆け込んている最中だった。
「うー、遅刻遅刻ー、入学早々遅刻なんて最悪だよー(棒)」
オープニングのヒロインの第一声を義務的に発しながら学園へと向かう。暫くすると、下り階段が見えてきた。確かこれを降りた先に噴水広場があって、その先が校門だったはず。そんな風に昔の記憶を辿りながら早足で前だけを見て歩いていたアタシは、背後から迫る影に気づけなかった。
ドンッ!
階段へと足を踏み出そうとした瞬間、何者かに背中を突き飛ばされる。悪役令嬢に階段から突き飛ばされるイベント?いや、アレが起こるのは終盤だぞ!?誰?何で?答えは出ないままアタシは全裸になり階段を転がり落ちた。
「うう…」
全身打撲で立ち上がる事も出来ないし、助けを呼ぶ事も出来ない。そして、アタシにぶつかったと思われる人物も、全裸で階段を落ちたらしく、アタシのすぐ横に転がっていた。それは、屈強そうな大男だった。アタシの記憶には無い、少なくともメインキャラでは無い彼は一体誰なのか。その考えは、鳴り響くクラクションによりかき消された。
ププー
「は…はうあ!」
世界観を無視した大型トラックが猛スピードで迫り、アタシとアタシを突き飛ばした犯人はトラックに轢かれてバラバラ死体となった。
な、何で転生した先でトラックに轢かれるだよ!
【バッドエンド1・あぶなーい!】
気が付くと、アタシは校門近くの階段の前に立っていた。これって死に戻りってやつ!?
「ちょんわ!」
アタシはトラックに轢かれた時の記憶を思い出し、階段の手前で側転する。すると、屈強な男がアタシのパンツを覗き込みながら階段を全裸になり転がり落ちて行った。
ププー
コンテナに『ベヒんもス』と書かれた大型トラックが男に向かって突撃し、男はバラバラ死体と化した。
「チッ、あっぶねーな!どこ見て歩いてるんだよ!」
トラックから降りてきた運転手がバラバラになった男に文句を言う。アタシはその運転手の顔に見覚えがあった。
「悪役令嬢セシリーさんやん」
トラックを運転していたのは、このゲームの悪役令嬢セシリー・ファローズだった。原作では登場はもっと先、何故ここに?ホワイ?そうか、彼女も転生者だな。悪役令嬢も転生者ってのは、乙女ゲーム転生ではよくある事。ならば、アタシがやるべき行動は一つ!
「おーい、アタシも転生者だ!アタシはハーレムエンドとか作らないから安心してくれーぃ!仲良くしよ!」
階段の上から大声で無害アッピル。悪役令嬢を敵に回さない。これこそがざまぁ回避最適解。そう、アタシは正しい選択をしたはずだった。
「…」
こちらに気付き振り向いたセシリーさんは、つまらなそうな顔をした後、無言でトラックに乗り込み、再度クラクションを鳴らす。
ププー
「は…はうあ!」
なんと、トラックは凄まじい馬力で階段を駆け上り、驚愕し固まるアタシを轢き殺しやがったのだ。
この悪役令嬢、明確に殺意を持ってアタシを殺しに来やがるじゃねーか!
【バッドエンド1・あぶなーい!】
「ちょんわ!からの、とんずらー!」
死に戻ったアタシは、パンチラ側転でモブの突き落としを回避し、噴水広場の惨劇には目もくれず自宅へ猛ダッシュした。悪役令嬢がアタシを物理的に消そうとしてる覚悟ガンギマリだった場合、最早アタシが助かる手段は逃げるしかねえ!
「うおー!」
親の金盗んで隣国まで逃げて、娼婦か修道女になろう。その思いは見えない壁により阻まれた。
ドウドウドウドウ
「ファック!マップ端の見えない壁に阻まれて、これ以上戻れねー!前世でプレイしたゲーム通りだ畜生!」
ププー
「はうあ!」
背後から迫るトラック。だが、三度目ともなるとアタシもいくらか冷静になれた。
「南無三!」
アタシは胸の前で十字を切り、メッカに祈りを捧げた。地面にピツタリと伏せる事により、トラックはアタシの頭上を通過して、見えない壁に激突して動かなくなった。
「しゃあっ!」
アタシが頭を上げてガッツポーズすると、トラックから悪役令嬢が降りてきて、パチパチと拍手しながらニッコニコの笑顔で近づいてきた。
「ブラボーですプレイヤーさん!ルナティックチュートリアルクリアおめでとうございます!ここまでに何回コンティニューしましたか?」
「…は?」
思ってたセリフと違う。この悪役令嬢、アタシを排除しないといけないと思いこんで凶行に及んだんじゃ無いのか?
「おっと、申し遅れました!私、転生者で前世はこのゲームラブチョイの制作総合指揮をしておりました!バルムンク佐藤、聞き覚え無いですか?」
「お、おう。確か、スタッフロールの一番でかい最後の方に出てきた名前だっけ」
「はいっ!それ私です!自分が作ったゲームの悪役令嬢に転生した私は、いずれ来ると思われる転生ヒロインさんが楽しめる様に、この世界を難易度ルナティックにしておいたのです、えっへん!」
ドヤ顔で胸を張るバルムンク佐藤。成歩堂、大体分かってきたわ。
「えー、つまりお前は遊び感覚でアタシを轢き殺したと」
「殺せませんでしたよ!あっ、貴方視点だと殺されてたかもですね!コンティニューした気分はどうでした?」
「ああ…死ぬほど痛かったぞ、この頭パープル糞馬鹿野郎!」
相手が確信犯のアホだと知ったアタシは、アホパープルの胸ぐらを掴み怒鳴り散らす。
「ゲーム感覚で、人を轢き殺すな!」
「プレイヤーさん、これ現実じゃなくてゲームですよ?」
「うるせえ!」
悪役令嬢テンプレと真逆の事をほざく糞パープルの顔面をアタシは全力ビンタした。しかし、腫れ上がったのはアタシの右手の方だった。
「いでぇー!?」
「プレイヤーさん、私ラスボスでこのゲームの難易度ルナティックなんですよ?初期ステの貴方の攻撃が通るはず無いじゃないですか」
「でしょうね!だが、殴らずにはいられへんわコンチクショー!」
アタシは自分の右手が真っ黒になるまで糞パープルをビンタした。そして、アタシの右手が動かなくなった頃、パープルはゆっくりと口を開いた。
「気は済みましたか?ここで私を攻撃し続けても隠しプラグとか無いので、そろそろ入学イベントに行きません?」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、お前、何が目的なんだよ」
「さっき言った通りです。プレイヤーさんはこのゲームがかなり好きだったんですよね?なんせ転生者に選ばれるぐらいですから?」
「まあ、それは」
アタシはラブ&チョイスはかなりハマった方だと思う。全ルートクリアした後もたまに遊んだし、大全集も買ったしノベライズとコミカライズも全種買った。
「そんな貴方の為にっ!私は元制作者として何ができるか?そう、新要素追加です!私が用意したこのルナティックモードでは無数の即死ポイント、原作より厳しいバトルと恋愛、更にまだ見ぬ新要素が盛り沢山!プレイヤーさん!貴方はこのルナティックを通して、再び新鮮な気持ちで乙女ゲ狂う事が」
「要らん、戻せ」
鼻息フンフンして自慢気に語るパープルに対して、アタシの感情は冷え切っていた。
「アタシね、今年32だよ?もう乙女ゲームにときめくとかは卒業してるの。それに、リアルで乙女ゲームの男と結婚するってのも考えられないし。だから、アタシは普通の男と結ばれるか独身でいーから、アンタはアンタで公爵令嬢のお仕事頑張ってよ」
「ええー、嫌ですよ!というか無理なんですよ!この世界書き換えてから分かったのですが、どーやらこれって一回こっきりの使い捨て転生特典チートだったみたいなんですよ」
「なん…だと」
アタシがショックに固まっていると、糞パープルはヘラヘラ笑いながらアタシの手を取る。
「という訳ですので、頑張ってルナティッククリアして下さい!ゆっくり楽しんでいってね!」
「ザッケンナコラー!」
アタシは電気アンマで糞パープルの股間を踏みつけるが、やはりコイツは平然としてやがった。
「プレイヤーさん、ここで私を攻撃してもフラグは立たないって言いましたよね?そろそろ、先へ行くべきです。大丈夫、グッドエンドへ辿り着いたなら幸せになれる事は、ゲーム制作者として保証します!」
「チッ、そうするしかねえか。おい糞パープル、手っ取り早く安全にグッドエンド行く方法は?」
「あははは、言う訳無いじゃないですか!クリアまでネタバレ厳禁です!」
見えない壁に阻まれて他の場所にも行けないし、仕方なくアタシは校門に向かった。
校門の前では、サングラスを掛けた角刈りの大男が仁王立ちでこちらを睨みつけていた。
彼は剣術教師のシュワンツ・ソルトビネガー。このゲームの攻略対象の一人であり、元ネタは勿論シュワルツネッガーだ。
「そこの女止まれ。ここより先は貴族子女が通う学園。生徒ならば学生証をこちらに見せろ。違うのなら引き返せ」
シュワちゃん先生が原作通りのセリフを発したのを聞き、アタシはオープニングイベントの内容を思い出す。
そうそう。確か、ここで学生証を出す時に主人公の名前を入力するんだったわ。
「初めまして、アタシはパメラ・アマクサ!今日からこの学園に通う新入生です!パメラちゃんって呼んでね!」
デフォルト名を高らかに叫び、アタシは胸元から学生証を取り出しシュワちゃん先生に見せつけた。
「…学生証の名前と違う様だが?」
「ふぇ?」
学生証を自分の方に向けて、名前を確認すると、そこには『17時に卵洗剤・キッチンペーパー』と書かれてあった。
「糞パープル!てめーの仕業か!」
「はい!プレイヤーさんの名前変えておきました。ウケると思って!ちなみに、私の名前はセシリー・ファローズ改め、近鉄バ・ファローズです!」
「近鉄ー!」
あまりにふざけ過ぎた名前に笑ってよいか怒ってよいか感情がパニックになっていたアタシは、突然喉元にヒヤリとしたものを感じた。
スパッ
首筋に手を当てると、アタシの頸動脈がパックリと切れて血が大量に噴き出していた。
「シュワちゃん先生…なんで?」
「王族や高位貴族が通う学園に、自分の名前も名乗れぬ奴を入れる訳なかろう」
血に染まった剣を拭きながら彼はそう言った。それがアタシが最後に見た光景だった。
【バッドエンド2・入学失敗】
「学生証を確認する」
シュワちゃん先生の言葉を聞き、アタシは学生証を取り出し、まずはそこに書かれた名前を確認した。
「え、えーっとアタシの名前は、17時に卵洗剤、えーとせんざ…卵洗剤キッチン」
ズバッ
「偽名も満足に言えないとは、出来の悪い偽物だな」
「ち、違う…あ、いやアタシ転生者だから違わないかも…」
【バッドエンド2・入学失敗】
「学生証を出せ」
「アタシの名前は17時に卵洗剤・キッチンペーパー!パメラちやんって呼んでね!」
おし!今回は噛まずに言えた!
「何でその名前であだ名がパメラちやんなんだ?」
「んなもん知らねえよ!」
ザクッ
「」
【バッドエンド2・入学失敗】
「学生証」
「はい学生証」
アタシは自己紹介せずに、学生証をシュワちゃん先生に見せる。ドキドキ。
「キッチンペーパー男爵の娘か。噂には聞いていたが、17時に卵洗剤とは変わった名前だな」
「ソルトビネガー先生には言われたく無いです」
「そうだな、すまなかった。だが、このフルネームでは日常では言いにくいな。君は普段は何と呼ばれている?」
シュワちゃん先生はとんだパワハラ野郎だったが、彼は他国のスパイを入れないという職務に忠実なだけで本当は優しい人だ。大全集268ページにもそう書いてある。そして、彼がこんな事を聞いてくるのは、メタ的な意味もある。ゲームではここで名前を入力すると同時に、あだ名も決めないといけないのだ。
元のゲームならパメラちゃんで良かったのだが、このルナティックな世界では、17時に卵洗剤・キッチンペーパーから連想出来るあだ名にしないとアウトなのは実証済み。
なので、アタシは死に戻り中に考えていたあだ名を彼に伝えた。
「中学ではエグゾって呼ばれてました。エッグ&ソープを縮めてエグゾです」
「エグゾwww」
アタシが文字通り必死こいて考えたあだ名を聞いて、近鉄は腹を抱えて笑っていた。
「自習中は図書館エグゾ、剣道部では竹光エグゾって呼ばれてましたね」
「ファーwww」
「…もういい。試す様な事をしてすまなかった。それと近鉄お嬢様、人の名前を聞いて笑うのはやめなさい」
アタシが昔からエグゾと呼ばれていたってアッピルすると、シュワちゃん先生は謝罪と共に、道を開けてくれた。
「しゃあっ!入学イベント突破ぁ!」
シュワちゃん先生が見えなくなった所さんでガッツポーズすると、近鉄が顔を真っ赤にしながら話し掛けて来た。
「やりましたねプレイヤーさん。いえ、これからはエグゾって呼ばせて…プププッwエwグwゾwってww」
「黙れ近鉄。つーか、何でアンタは先生に偽物扱いされないのよ?」
「私は攻略対象全員と小さい頃から知り合いですからね。この世界ではこの私が当たり前田のクラッカーとなってますので、転生や入れ替わりを疑われる心配はナッシングですよ」
「何それ、ずるいずるい」
「とにかく、入学おめでとうございますエグゾさん!ここから先、追加イベント目白押し!絶対に面白いので期待して下さい!」
「本当?」
嘘だった。
「おい近鉄、ルームメイトの寝言と歯ぎしりと屁がうるさくて体力が回復しないんだけど?」
「ルナティックモードでは一日経てば体力回復するなんて甘えは通用しませんよー?」
【バッドエンド6・こんな顔で死ねますか?】
「学生寮出て安宿に泊まってたら、宿屋のオッサンに夜這いされたぞ近鉄ゥ!」
「あ、それ新イベントです。宿屋の主人に好感度設定しまして、これがマックスになると襲われる様にしておきました」
「アタシはどこで寝ればいーんだよ!?」
【バッドエンド9・見せられないよ!】
近鉄は自分が楽しいと思ったネタを大量にぶち込んてたが、それはアタシにとって苦痛でしか無かった。
「さあ、追加イベの合唱コンクールです!私の出す音波を相殺しないと世界が崩壊しますよ!」
「唐突な音ゲー要素やめろ」
【バッドエンド18・何だこれはどうすればよいのだ】
死にゲーなんてものは、見ている分には楽しいかもしれないが、実際にプレイする側からしたらイライラしか無い。そして、この世界では実際に疲れや痛みとかがきっちりあるから本当に辛い。
「何で二年生になった次の日に一年生に戻ってるんだよ!サザエ時空かよ!」
「はじめましてプレイヤーさん!あ、さては三十回以上コンティニューしましたね?コンティニューし過ぎるとセーブデータが一定確率で消える仕様なんですよ!もう一回遊べるドン!」
【バッドエンド45・おきのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました】
しかし、それでもアタシは前に進み続けた。このゲームのグッドエンド以外の幸せを掴む道は物理的に全部塞がれていたからだ。
ドゥドゥドゥ
「クソっ、やっぱり国外逃亡は無理か。糞パープルめ」
「何をやってるんですかエグゾさん!無駄行動は死に繋がりますよ!さあ、既に三年生進級は絶望的ですが、次に活かす為に頑張って下さい!」
【バッドエンド140・単位不足】
「何で負けたのか明日までに考えといて下さい」
【バッドエンド125・叩いて被ってジャン拳ボッ】
「もしかして、ノーコンティニューでここまできちゃいました?残念!このイベントは最低一回はコンティニューしないとクリア出来ませーん!」
【バッドエンド200・いともたやすく行われるえげつない行為】
「特に理由は無いけどコインが裏だったので、ここで貴方を倒しておきます。次は表が出ると良いですね」
【バッドエンド333・強制エンカウント】
理不尽な死亡、理不尽な逮捕、理不尽な退学。糞パープルめ、お前本当にあの良ゲーを生み出した人と同一人物なのかよと何度も思った。なので聞いてみたら、こんな返答。
「私、生前は売上こそ大事と考えて万人にウケる難易度と無難なストーリーの作品ばかり作ってましたので、ストレス溜まってたんですよねー。なので、転生後は好きに生きると決めました!ナローシュ的テンプレです!」
「テメーのオナ○ーにアタシを巻き込むな!」
ブンッ
「おっと、中々いいパンチを放てる様になってきましたね。ハードモードまでの私なら倒されてましたよ。その調子でがんばれ♡がんばれ♡でも、乙女ゲームのヒロインが○ナニーとか言っちゃだめですよー」
「ギギギ、ぜってえに卒業パーティに辿り着いてぶっ殺してやる」
アタシは近鉄の良い所さんを一つだけ見つけた。それは、こいつが本当にムカつく奴だって事だ。おかげで、何百回バッドエンドを迎えても、モチベーションを保つ事が出来た。
そして、遂にその時が来た。三年生三月の卒業パーティ。なろうの乙女ゲーム名物婚約破棄イベントだ。
「公爵令嬢近鉄!てめーはアタシを階段から突き落とした!よって王太子との婚約破棄だ!」
「エグゾさん、それって貴方の感想ですよね?この学園は平屋だから屋上無いですよ?」
「ああ、知ってるよ!こんなのに意味はねえ!これは単なる宣戦布告だ!」
王太子と宰相の息子と騎士団長の息子を味方にして、近鉄を悪役令嬢として吊るし上げる。その計画は、不可能だとアタシは判断した。一人の好感度上げると他の二人の好感度下がるし、全員に婚約者が居てアタシが寝取る正当性が欠片も無いし、学校は平屋だし、ハーレムエンドで近鉄をボコるのは早々に諦めた。
「アタシはアンタと攻略対象とこのパーティに来ている皇帝とかを全部倒して新たな国を作る、つまり革命ルートだ!あるんだろ、革命ルート?」
「はい、あります!」
待ってましたとばかりに近鉄は目をキラキラさせて、革命ルートの存在を肯定する。
ラブ&チョイスには複数のコミカライズ作品があり、その中にはヒロインがメインキャラ全員しばき倒して王制を打ち崩すオリジナル展開を書いた物も存在した。自分が面白いと思った事を全部詰め込んでみたとほざく近鉄なら、この革命ルートも用意していると予想しアタシはそれに全賭けしたのだった。
「革命ルートがあるのなら、問題無えな!いくぞ近鉄!」
「来なさい、エグゾさん!」
今度こそ、今度こそこのクソゲーをクリアして平和を手に入れちゃる!
「しかしエグゾさん?周囲は全員レベルカンストの敵だらけのこの状況、貴方はどうやって突破するつもりですか?」
「当然、アンタ以外の連中への対策は出来ているさ。ネルトコさーん!いつも泊めてくれてありがとうー!チュ!チュ!チュ!」
アタシはパーティ会場の外へジャンピング投げキッスをして合図を送ると、筋肉ムキムキマッチョマンの変態が衛兵を吹き飛ばしながら会場に乱入して来た。
「紹介しよう!安宿の主人ネルトコさんだ!たった今好感度セックスになった彼はアタシに向かって一直線に夜這いするモンスターと化した!お前以外のキャラはネルトコさんに任せ、アタシ達はタイマンだ!」
「うえっ?何ですかそれはー!」
近鉄は初めて演技でも皮肉でも無い本物の驚きの顔を見せた。そうそう、アタシはお前のそんな顔が見たかったんだよ!
「アンタ以外の敵はネルトコさんを優先して攻撃する!社会的常識を持った彼らはアタシよりも不審な存在であるネルトコさんから処理するのは当然だからな!んで、攻略対象達も夜這いモードのネルトコさんもどちらもアンタが生み出した最強のバッドエンド製造機なら、両者をぶつければその力は拮抗する!」
「そうはならんやろ!」
「なっとるやろがい!いくぞ近鉄!電気アンマー!」
アタシは近鉄をひっくり返し、電気アンマを放つ。
「くっ、アンマ返しー!」
「ならばアンマ返し返しだ!」
アタシと近鉄は交互に電気アンマを繰り出す。別にふざけてはいない。アタシも近鉄もバステ無効全属性軽減の最強装備で身を固めているから、無属性で発動が早くクリティカル率の高い電気アンマが最適解となるのだ。
「ハアハア、エグゾさん、よくぞ私をここまで追い詰めました!ですが、電気アンマ合戦なら最大HPの多い私が有利です!なんせラスボスですから!電気アンマ返し✕100!」
「分かってんだよ、そんな事!でも、こっからアタシが勝つ!電気アンマ返し✕101!」
「強がりは辞めたほうが良いですよ!もう、電気アンマをする力も残ってないじゃないですか!これで終わりです!ファイナル電気アンマ!」
アタシの全身から力が失われるのを見て勝利を確信した近鉄は、ここぞとばかりにフルパワーで電気アンマを発動。だが、ここまで全て狙い通り。電気アンマ合戦でアタシが競り負けるのも、ラストに糞パープルが攻撃全振りのフィニッシュムーブするのも読めていた。
今なら届く。アイツが消耗し慢心した今ならこの技で倒せる。
「なあ近鉄、バトルってさ、やっぱり友情努力勝利が大事だよな?」
「こんな時にどうしました?仲間を作っておくべきだったという泣き言ですか?」
「いや、仲間はもう得ていたさ。かなり前からな。近鉄、これからアタシが放つ技は、仲間から学んだ一発限りの技だ!そして、それはアンタが教えてくれたものだ!」
「ま、まさかっ!?」
意図を察した近鉄の顔が真っ青になる。だが、もう遅い、お前の両手は電気アンマで塞がっている。今から鼻を閉じようとしても間に合わない。
「喰らえーっ!ルームメイト直伝、ルナティック放屁ー!」
ブリュリュブリュブー!!ブブチブブチチブジャジャー!!!ドボボババーン!!
「クッサー!」
電気アンマに全力を注いでいた故に、近鉄は放屁を直撃し倒れた。HPが尽きたのだろう。
「やった…これでエンディングだ…」
アタシも意識が遠のいていく。だが、これでやっと、やっと…。
【グッドエンド22・革命バンザイ】
気が付くと、アタシは見慣れた道の真ん中に立っていた。慌てて制服の前を開き、ブラを確認する。
「Aカップ!一年の頃に戻ってやがる!何だよ、グッドエンド迎えたらオッケーって話だっただろ!」
ププー
「せいっ」
懐かしのクラクションを聞いたアタシはタイミング良くジャンプしてかわし…かわせたはずだった。
「ギャー!」
トラックが思ったより速く、直撃を受けてしまう。そして、トラックの荷台には『ふんもっふ』と書かれている。こ、これはまさか!?
トラックのドアが開き、ドレスの色が微妙に違う近鉄が降りてきたのを見て、アタシは予想が当たった事を知り絶望した。
「ようこそルナティック二週目へ!さあ、より難易度の上がったこの世界で乙女ゲ狂いましょう!」
「うるせえ」
【終わり、いや、彼女達の戦いは終わらない】




