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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編百合

望月が綺麗ですね

作者: 風土某

 望月=満月です。


梧桐ごとう さく:赤茶のボブヘア、高校1年生。妖怪や幽霊などの人ならざるものが見える。そのせいで、人付き合いが苦手。


黒鳥くろとり のぞみ:6月という微妙な時期に来た転校生。鴉の羽のように光沢のある黒髪、綺麗系。外見とは違い、人懐っこい。額に大きめの傷がある。


結桜(ゆら):朔の親友。小学校からの腐れ縁。飄々としているが、面倒見はいい方。


※この作品は濃くはないですが百合です。苦手な方はブラウザバックを、むしろバッチコイな方はスクロールを。



『おおきくなったら、またあいにくるね。』



 満月に照らされた黒い羽は、息が止まるほど綺麗だった。



『ありがとう、さくちゃん。』

『○○○ッ!』




――――――――



~♪



 スマホの爆音アラームで目を覚ます。

 懐かしい夢を見た気がする。でも、名前だけがもやがかかったみたいにわからなかった。

 あの頃は、自分が見えているものが人ならざるもの、妖怪や幽霊の類いだと知らなかった。今は見えていたとしても絶対に言わない。



「……だっる」



 いつも通り身支度を整えて、リビングへ向かう。



「おはよ」

「はよ」

「朝ご飯、食パンでいい?」

「ん」



 リビングには7つ上の姉が、朝ご飯を食べていた。

 私は現在、基本姉と二人暮らしだ。姉は大学4年生、今年で卒業だ。

 両親はいるが父は7歳の時に蒸発、母は色んな所を転々としているため滅多に帰ってこない。生活費や学費は十分すぎるほど振り込んでくれるので、特に生活には困っていない。むしろ感謝している。



「ほい、トーストと卵」

「サンキュ」

「んじゃ、もう行くから洗い物お願いね」

「ん、研究室?」

「そう、今日は実験の準備するから早く来いって。あのハゲ、授業の準備くらい一人でしろっつーの!」

「大変だね」

「も~ほんとにね!行ってきます!」

「いってらっしゃ~い」



 朝からせわしないこった。

 それでも、お弁当はちゃんと自分と私の分作っていくあたりすごいと思う。

 

 朝ご飯を食べ終わり、洗い物をする。今日の晩ご飯は何にしようか。

 朝とお昼は基本姉が作るが、夕は早く帰ってきた方が作ることになっている。だいたい私の方が早いので、基本的には夕は私の担当だ。

 帰りにスーパー寄って帰るか。



「いってきます」



 ほぼお弁当と飲み物しか入っていないリュックを背負い、家を出て、鍵をかける。

 いつもの通学路を通る。学校に近づくにつれて、同じ制服を着た人が増えてくる。



「おはよ~」

「はよ」

「いつもながら覇気がないよね~、朔は」

「それ、毎回言ってるけど結桜にもブーメラン」

「なっはっは~、そうだね~」

「何その笑い方」

 


 朝から失礼な挨拶をしてきたのは、小学校からの腐れ縁、もとい親友の結桜。

 結桜だけは私が見えたという話をしても、気味悪がらずにいてくれた。まあ、その時はまだそれが他人には見えないものだって知らなかったしね。

 態度はかなり飄々としているが、いいやつだ。



「おはよ~」

「あ、結桜、朔、おはよ!」

「……はよ」

「そういえば、聞いた?今日転校生が来るんだって」

「へ~、こんな中途半端な時期に?」

「そうなんだよ!」



 結桜がクラスメイトと話し始めたので、私は自分の席に行った。

 別にクラスメイトが嫌いなわけではない。ただ、私が一方的に壁を作っているだけ。我ながら面倒くさい性格だと思う。



「さく~?」

「話終わったの?」

「うん、今日転校生来るんだって~」

「へえ。今、6月だよ?なんで一緒に入学じゃなかったんだろうね」

「ね~。まあ、お家の事情じゃないん?知らんけど」


「席付けー。ホームルーム始めるぞー」



 担任が入ってきたので、話は中断。

 私も前を向く。因みに私の席は窓側の後ろから2番目、結桜が一番後ろだ。



「今日は転校生が来ている。このクラスなら大丈夫だろうが、まあ仲良くしてやってくれ」

「せんせー、なんでこんな微妙な時期なんですかー?」

「そこは本人から聞いてくれや。ただ、無理に聞こうとするなよ?」

「先生が面倒くさいだけなんじゃないですかー?」

「それもある。あとは個人情報とかもあるからなかなか言えんのよ」

「世知辛いっすね」

「大人とはそういうものだ」



 教師が面倒くさいとか普通に言うなよ。

 

 うちの担任は適当だが、皆から好かれている。

 かといって生徒をないがしろにしないし、適度な距離を保って接してくれる。そういう所がウケているのだろう。



「じゃあ、入ってきて自己紹介してくれ」

「はい」



 ガラッ



 ドアを開けて入ってきたのは、大和撫子という言葉がぴったりな女子だった。



 カッカッカッカッ

 カタッ


 黒板に名前を書いているだけなのに、絵になっていた。それくらい雰囲気がある。



「黒鳥望です。親の転勤が遅れて、こんな微妙な時期になってしまいました。これからよろしくお願いします」


「よろしく!」

「てか、めっちゃ美人じゃね!?」

「やばくね!」

「おーい、静かにしろー。特に男子、盛ってんじゃねぇぞー」

「教師がそういうこと言うなよっ!」



 自己紹介が終わった直後、緊張の糸が切れたかのように皆口々に騒ぎ出した。

 そりゃそうだ。入ってきたときに空気が変わった。皆が息を飲んだのがわかった。

 皆、見惚てたんだ、彼女に。



――――――――――――――

 


「すごいねー、黒鳥さん」

「そうだね」

「一気に人気者だよ」

「そうだね」

「……元気ない?」

「それはいつも」

「ちゃんと話聞いてたんだ」


 

 あれから、黒鳥さんはずっと質問攻めだ。

 席は結桜の右後ろだったので、休み時間もずっと人が集まってしゃべっていたのでちょっと鬱陶しかった。



「放課後、俺達が学校案内するよ!」

「ちょっと男子~、そこはあたしらがやるから早くどっか行きなさいよ」

「いいじゃんいいじゃん、な、行こうぜ?」

「えっと……?」

「ほら、黒鳥さん困ってんじゃん。」

「あー、すまん。じゃあさ、黒鳥さんは誰がいい?」



 皆よってたかって、なーにやってんだか。 

 まあ、無理に引っ張っていこうとしないところはこのクラスのいいとこだと思う。

 私には関係ないな、さっさとスーパーよって帰ろ。



「結桜、かえ「さ、梧桐さん!」ろ?」



 え、今の声、黒鳥さん?



「おや、朔をご指名とは、黒鳥さんお目が高い!」

「結桜っ!?」

「ありゃー、梧桐をご指名かー」

「しょうがない、今日は梧桐さんに譲るかー」

「え、ちょ、皆?」

「じゃあ、梧桐、しっかり案内しろよー!」

「また明日ね、黒鳥さん!」



 ええええ~?ってもう皆部活行っちゃったよ!早っ!

 黒鳥さんも何で私を・・・そんなわんこみたいなキラキラお目々で見ないで?お預け食らってる犬みたいで心が痛い。



「ゆ、結桜~」

「あ~、うち今日用事あるから。頑張れ?」

「一緒には行ってくれぬと申すか!?」

「武士か」

「あの~?」

「はぁあい!?」

「ごめんなさい、急に呼んじゃって。迷惑、ですよね?」



 うう~、だからそんなシュンってしないでよ~。こっちが悪いみたいじゃんか~。 



「いや、迷惑じゃないよ?私でよかったら案内するよ」

「本当!?」

「うん、いいよ」

「お~。じゃあ朔、また明日~」

「ん、またね」



 さて、しょうがないちゃっちゃっと案内して帰ろ。



「行こ、黒鳥さん」

「うん!」



 校内を案内しつつ、黒鳥さんの行動をチラチラと見る。

 なんか、最初のイメージと全然違う。

 最初は大和撫子って感じだったのに、話してみると人懐っこいわんこ?みたいな感じだった。今もキョロキョロして、私が先に行こうとすると小走りで追いついてくる。



「んで、ここが図書室。これでよく行くところは全部かな」

「ありがとう、梧桐さん」

「ん。今度から嫌だったら、ちゃんと言いな?」

「え?」

「いや、あの時なんか嫌そうだったから。それに、断ったくらいで嫌いになるようなやつらじゃないから」

「よく、見てるね」

「ん?普通じゃない?」



 あんなに囲まれてて、皆から話しかけられるのは普通に嫌だろう。

 それにあのテンションのまま、放課後も一緒にいられるのは嫌だ。これは私の主観だが、黒鳥さんは人懐っこいけど大勢と長時間わいわいやるのは苦手とみた。


 会話しつつふと顔を見るとうっすらと傷が見えた。



「ここ、傷ついてる?痛くない?」

「ッ!うん、小さい頃にちょっと怪我しちゃって。その時、看病してくれた子のおかげで大事にはならなかったよ」

「そうなんだ。優しい子だね、その子」

「―ッ・・・・・・うん、優しい、ね」



 ほんの一瞬だけ、悲しい顔をしたように見えたのは気のせい?




――――――――――――――――――――



「ごめんね。買い物付き合ってもらって、荷物まで」

「ううん、今日学校案内してもらったし、そのお礼」

「ありがとう。それにしても、同じマンションだとは」



 引っ越してきたのはなんと今日らしい。しかも、普通の生徒より早めの登校だったそうだ。そりゃ、エレベーターで会わないわけだ。




 今日は結構遅くなってしまった。もうすぐ、日が完全に沈みそうだ。


 私が帰宅部なのは2つ理由がある。

 一つは部活が面倒だから。

 もう一つは――――



『オマエ、オレノコト、ミエテルナ?』



――こういう輩に会いやすくなるから。 



「黒鳥さん、ちょっと走ろう」

「え?」

『ニゲルナッ!!』



 黒鳥さんの手を無理矢理引っ張って、走った。

 最近はとんと会わないから油断してた。逢魔が時になると、こいつらは攻撃的になる。

 よりによって、黒鳥さんと一緒にいるところに来るとか!タイミング悪すぎ!



「ハッ…ハッ…ッハァ……!」



 あと少しでエントランス!


 ドズンッ!



『マテ!!』

「げっ!」



 目の前に!こうなったら黒鳥さんだけでも!

 化け物から遠ざけようと、思いっきり腕を振るって手を離した。



「梧桐さんッ!?」



 黒鳥さんの驚いた声。

 目の前には化け物の爪。

 切り裂かれたらいたいんだろうなと、他人事のように考えていた。 





 ガシャンッ!!!



『ガッ!』

「さくちゃんに触るな!」

「・・・・・・え?」


 

 切られてない。

 恐る恐る目を開ける。

 目の前には、黒い大きな翼。そして、吹き飛ばされたであろう化け物の姿。

 あの頃より大分大きいけど、見覚えのあるシルエット。



「・・・の・・・ぞ、み?」

「・・・さくちゃん、やっと会えた」



 額の傷。

 どうして忘れていたんだろう。

 あの子は、私が昔助けた鴉天狗、望だ。



「・・・はっ!黒鳥さんは!?」

「あ~、ちょっと待ってね」



 バサッと黒い羽が舞ったと思うと、その中から出てきたのは黒鳥さんだった。



「え、は、え?」

「アハハ、混乱しちゃうよね。黒鳥望は人に化けてるとき。私は昔さくちゃんに助けてもらった、鴉天狗の望だよ」

「・・・はー」



 まだ混乱してるけど、つまり黒鳥望と私が助けた鴉天狗は同一人物(?)だったわけだ。


 いつの間にか化け物の姿はどこにもいなかった。



「さくちゃんが無事でよかったよ~!」だきっ

「ちょ、望!?」

「優しいのは変わらないけど、もっと自分も大事にしてよ!」

「え、あ、はい、すんません?」



 心配してくれたのはわかったけど、いきなり抱きつかないでほしい!

 む、胸があたっとるんですよ、お嬢さん?

 私の心臓に悪い。




――――――――――――――――



「さくちゃん、おはよー!」だきっ

「お、おはようございます」




「さくちゃん、移動教室だよ!」ぎゅっ

「あ、うん」




「さくちゃーん」すりすり

「…………」




 キーンコーンカーンコーン



「あ、ちょっとお昼買ってくるね」

「いてら~」

「……いてら」



 望があの時の鴉天狗とわかってから、数日がたった。

 翌日からすごく仲良くなっていることを、皆からやいのやいの言われたが、まあいっかと皆納得してくれた。

 うちのクラス、理解度が高すぎやしませんかね?

 でも、まだ慣れないことがある。



「スキンシップウウウウゥゥウウウッ!!!」

「お、おう、どしたん?」



 そう、スキンシップが激しいのだ。

 所構わず抱きついてくるし、手を握ってくるし、しまいには顔にスリスリしてくるし!



「ほんとにもー!」

「うん」

「ねえ、真面目に聞いてる?」

「うん」

「・・・1+1は?」

「うん」

「聞いてないね!?」



 人が真面目に話しているというのに、こいつは!



「てかさ~、真面目に聞いたら惚気にしか聞こえんのよ?」

「のろっ!?」

「お~、顔真っ赤。そんなに好きなん?」

「~~~~ッ!!!」

 


 いや、いやいやいや、そんなことは!? 

 第一、女の子同士だし!?

 


「気にしすぎ~。それだと勘違いされちゃうよ~?」

「うえ!?・・・・・・気にしすぎ、かな?」

「そうだよ~。息をするようにスキンシップする子もいるしね」

「そう、いう、もんかな?」


「ただいま!」だきっ

「うお!?」

「おか~」



 やっやっぱり、過剰だと思う!



「ちょっちょっとトイレ行ってくる!」

「さくちゃん!?」



 毎回ドキドキすんのなんなん!?




――――――――――――――



「はぁ~」



 まだドキドキしてる。

 走ってきたからだけじゃない。望にドキドキしてるんだ。


 あのまま、トイレには行かずに音楽室に来た。

 一人になりたいときは必ずここに来る。ここは別校舎にあるので、滅多に人は来ない。



『そんなに好きなん?』


「~ッ!」



 さっきの結桜の言葉がリフレインする。

 そりゃ嫌いじゃない。好き、だけど、この好きは普通の好きとはなんか違う気がする。

 LikeかLoveか、みたいな感じ。

 望に対する、これはどっち?




「さくちゃん?」

「ッ!」

「本当にいた。結桜ちゃんに聞いたら、ここだろうって」



 今、一番会いたくない人が来た。

 結桜のやつー、何教えてんだ。



「いきなり飛び出していくからびっくりしたよ?」

「……ごめん」

「私、なんかしちゃった?」

「……え?」

「私、やっとさくちゃんに会えたのが嬉しくて、ちょっと舞い上がってたのかも。嫌なことあったら、ちゃんと言ってね?」

「あ……」



 やってしまった。

 今の望は、捨てられた子犬のように儚げだった。

 

 自分がただモヤモヤしていたから、飛び出してしまっただけなのに。それが、望を傷つけてしまった。

 なんだろう、すごく胸が痛い。



「ごめん、嫌じゃないよ。ただ、私が勝手にドキドキして、訳わかんなくなっただけ」

「え?それって……」

「変だって思ってもいいよ。私も変だって思ったもん。でも、望が抱きついてきたときすごくドキドキするし、話しかけてくれるだけで嬉しくなる」

「……ふふっ」


 ドキッ




 あーあ、今自覚した。

 私、望のことが好きだ。LikeかLoveでいったら、多分後者。

 いや、あの時からずっと好きだったんだ。



「変じゃないよ。私も一緒。」

「……え?」

「私は、あの時、さくちゃんに初めて会ったときから大好き。それは今もずっと。さくちゃんは?」

「……うん、私もっ……!」



 (望月)が綺麗ですね。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 この話は、ただいま連載中の逃げ姫と同時期くらいに書こうか悩んでいた話でした。そして今、時間があったのでバーッと勢いで書いてしまった所存です。書くのは、むっちゃ楽しかったです!

 さて、最後がなんか尻切れトンボ感は否めないのは文章力の問題だと思ってください。すみません。そして、もう二人登場人物がいたのですが、話の都合上カットしました。ごめんね、十六夜先輩と望の友人。

 逃げ姫がある程度落ち着いたら、連載のほうも考えていたりなんだったり。そうなったら、もっと百合百合させたり、心情が変わっていく過程とか過去とか掘り下げられたらいいですね。


 長々と最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。皆様、よいなろうライフを!

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