第6話 「主人公追放後に崩壊する職場」
「親方ぁ~なんか客が来たんすけど、怒って帰っちまいました。なんだったんでしょうね?」
「何だそれは? 名前は? 何を言っていた?」
「わかんねっす。マノワールを出せの一点張りで、マジ腹立ちました」
「おいおい……連絡先くらいは聞いておけよ……」
会社を訪ねてきて怒ったという人物が誰だったのかもわからず、途方に暮れるショワジ親方。
報告はくだらない事だけで、腕組みして瞠目するしかなかった。
いやな予感はしていたが、どうしようもない。
そして次々と問題が起こる。
彼らは事務所に缶詰め状態で、対応に追われることになった。
「どの書類だよマノワールの野郎!? 部品足りねぇじゃねーか!?」
「工程管理表も禄に作ってねぇし!? マジで使えねぇな!」
血走った目で口々にマノワールを罵る、元同僚たち。
彼がいなくなって、まったく仕事が回らないようだ。
そこに壮年の男がやってきた。
若い職人は揃って立ち上がり、頭を下げ始める。
「なんですかこの騒ぎは?」
「ジュクレンコさん! オツカレッシター!」
「オツカレッシター。それで何です? なんで皆仕事もしないで、ここにいるんですか? まさかサボっているので?」
「いえ! 実は―――――」
これまでの経緯を説明する、
ジュクレンコという地位が高いように見える男は、黙って報告を聞いていたが。
話が進む度に眉を顰め始め、ショワジ親方に詰め寄る。
「親方。何ですかマノワールさんをクビにするって。しかも私に相談もせず?」
「ジュクレンコ。アイツは筋を通さなかった。長く勤めてくれたが、当然の始末だ」
「始末もなにも、そもそも筋じゃないでしょう? マノワールさんがいなければ裏方仕事まわらないじゃないですか。誰がこれを担当するので? 私は無理ですよ。大きい山いくつも抱えているんです」
「ジュクレンコ。会社が辛い時だ。ここは我慢をして、任された仕事を黙々とやるべきだ」
その言葉が勘気に触れたようだ。
役員の男は声を荒げ始めて、文句を言い始める。
「ただでさえ熟練工が居なくて仕事が回ってないから、こっちは休み返上で勤め上げているんですよ!? 私に何も言わずに勝手に人事を決めるのは、筋が通らないんじゃないんですか!?」
「俺の言う事が聞けねぇかジュクレンコ! 役員のお前がそんなんでどうする!」
「聞くわけないでしょう! 筋を通してないのは貴方なんですから! 大体親方が気に食わない人を次々にクビにするから、私みたいな若造が役員になって、仕事抱えているんですよ! 殺す気ですか! だから何もわからない、若い奴らしかいないんでしょうが!」
会社役員と社長の言い争いに、誰もが固まる。
こんな状況なのに、さらに社内対立が生じ始めているのだから。
完全上意下達の業界で、若造が口を挟むことなどできない。
「文句あるなら、お前も辞めろ! ここはそういう場所だ!」
「あ~もう呆れました。私も会社辞めるんで。そもそもマノワールさんがいなければ、この会社は終わりですよ。それでは失礼します」
「おいジュクレンコ!」
引き留めの言葉も虚しく、彼は辞めろと言う言葉に従って会社を後にした。
気まずすぎる沈黙。
「どうすんだよ……ジュクレンコさんいなければ、もうヤバいんじゃねぇのか……」
「知らねぇよ……」
ひそひそと隠れ話をしながら動揺する若手社員たち。
ショワジ親方は呆然と腕を伸ばして佇んでいた。
だがいつも通りのことだと意識を再起動させて、彼は普段通りの仕事に戻ろうとする。
「大丈夫なはずだ。俺がここまで育て上げた、層が厚い会社だ。少しくらい抜けても、びくともしねぇ。そのはずだ。そのはずなんだ……」
彼は太い眉の間に、濃く皴を寄せて。
まるで自己暗示するように呟く。
これが更なる崩壊の始まりだったことから、目を逸らして。
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