第1話 「間が悪い男、自宅警備員の真価を知る」
完結保証の200話30万字。
2023年10月24日初投稿日に、第2章終了40話ほど連続投稿します。
完結まで毎日投稿です。
今日も仕事が終わり、資材が積み上がっている現場から離れる。
僕の仕事は土木作業員。
オッサンにはキツイ体力仕事だ。
「オツカレッシター! マノワールさん! お水とタオルをどうぞ!」
「オツカレッシター! ニンメイちゃん。いつもありがとう」
僕のマノワールという名前を呼んで、水を渡してくれたこの子は。
うちの会社の事務を担当してくれているニンメイちゃん。
まだとても若いが、有能な女の子だ。
今この町で事務員制服として流行っているメイド服を着た、肩で切り揃えた艶のある黒髪のショートカット。
表情の変化は少ないが、お人形さんのように可愛らしく愛想のいい子だ。
僕が仕事を教えていたこともあり、懐いてくれている。
いつも現場が終われば僕のところに真っ先にきて、何故か世話をしてくれている。
身の回りのことにあまり頓着しない僕が、彼女は優しいから心配なのだろう。
「あの今日、お食事にでも」
「ごめんね。ショワジ親方と飲む先約があるんだ」
「そうでしたか」
「誘ってくれて嬉しかったよ。また今度行こう」
心なしか、しょんぼりしているように見える。
恐らくは飯を集っているのだろう。
それでも慕ってくれている後輩のため、今度また何か美味しいものを食べさせてあげたいな。
そう思いながら待ち合わせ場所に赴く。
「おう来たか。入るぞ」
筋肉質の体格のいい中年。
眼孔の鋭い厳めしい大男である親方に付き添い、飲み屋へ。
そこで慰めを受けるが、しかしアルハラにあう。
「―――――とりあえず飲め。いいかマノワール? 俺がお前を叱るのは、見どころがあるからだ」
人によってはこれ自体がパワハラだともいわれる行動を正当化する、僕の所属する会社の社長。
通称、親方の洗礼と呼ぶ。
これで辞めた若い奴も多い。
第一印象で物事を判断し、自分のやることは全て正しいと思っていて、それを疑うことはない。
パワハラという新しい概念を受け入れられない、有体に言えば頑固者のオッサンだ。
だが人情は厚く慕われている、面倒見はいい昔気質の人なのだ。
今でも新人が入って来る理由でもある。
「俺が若い頃は、もっとキツかった。誰もまともに教えちゃあくれないし、荒くればっかで喧嘩でくたばった奴もいる。いいか。苦しいときでも負けちゃならねぇ。ここが頑張り時だぞ」
「そんな時代の中を生き抜いて、会社を大きくしてきた親方を尊敬してます」
「おうおう! お前には期待しているマノワール。その根性は俺の若い頃を思い出す! ガハハハ!!!」
何百回も同じ話ばかり。
だが今となっては、どうすれば機嫌がよくなるのかを把握できた。
若い奴らは飲み会には来ないと、いつも愚痴っている親方。
事務作業を担当している僕なら、負担が少ないと思い込んでいつも飲みに誘っているのだ。
それに僕くらいの年の同僚で、独身なのは僕だけだしね。
「もうこんな時間か。ここは俺が持ってやる。明日からも元気出せよ」
「ハイ。ありがとうございます。今日はごちそうさまでした」
家に帰ると……はぁ。頭が痛い。
この年になると飲み会キツいんだよ。
栄養ドリンク飲むか。
次の日の朝、僕は体の節々が痛いのを抑えて、家を出た。
深酒のせいで調子が悪いけれど、今日も頑張らないといけない。
疲れていても、元気に挨拶をする。
社会人として相応しい態度で、仕事に臨まねば。
「おはようございます!」
「よぉ無能おっさん!」
この猫のような顔をした男は、若手の中でも有望株だ。
彼のような良スキルを使える同僚にバカにされ、虐げられても我慢する毎日。
僕の勤めるショワジ組は、居心地の悪い人材の見本市みたいな企業なのである。
この業界は体力勝負。
どれだけデスクワークが出来ようが、この職場は評価してはくれない。
「俺はスキルレベルも育てて、昨日には資格も取ったぜ! 努力ってのはこうやんだよ! この職業、土木作業員があるから余裕だったがなぁ! 職業の差ってやつが、でちまったなぁ!」
「本当にすごいよ。君の言う通りだと思う」
自分も事務で必要なので簿記の資格などを取っているが、こんなものは他の人でも取れるし。
何よりこの業界で必要なスキルじゃない。
一応はいろんな技師としての資格はあるが、それも他の人が代用できるものだ。
現場では評価されないスキルばかりしか、育てられていないのが現状なのだ。
―――――――――――――――――――――――――
【マノワール・オッサツイホ】
職業:自宅警備員
Lv :12
HP :110/122
MP :75/75
攻撃力:34(×0.4) 実数値85
防御力:91(×0.9) 実数値101
魔法力:26(×0.4) 実数値65
素早さ:29(×0.4) 実数値73
スキル
数学lv34
科学lv37
社会学lv24
礼法lv26
芸術lv17
舞踏lv15
製作lv35
建築lv22
―――――――――――――――――――――――――
ゴミのようなステータスを見れば一目瞭然だ。
肉体労働者であるのに、この無残な数値。
筋肉も見せ筋だ。子ども並みの数値だ。
この見るも無残な、自宅警備員のステータス補正。
一般成人人間男性であれば平均値100のステータス値。
成人してすぐの女性でも、平均的にレベルは10はある。
スキルだけは死に物狂いであげていたが、努力に見合ったものかと言われれば否だ。
肉体労働者はステータスの高さが、スキル取得にものをいう。
体力がなければ仕事はできないし、習熟度も大いに上げられるのだ。
経験しないと覚えられないのが、現場仕事。
人力が一番な土木工事では、僕はずっと輝けないだろう。
デスクワークに転職もこの年じゃできないし。
そんな社会的信用が必須な仕事は、訳あって根無し草な無戸籍者の僕にはできない。
ゴミステの人間は、一生スキルレベルも上げられないのが定めなのだ。
そしてステータスが就職の際にも大きく響く。
生まれながらに土木作業員の職業を得ている人間には、スキルの取得速度でも差がつくばかり。
ゴミステのような将来性のない人間は、どこも雇ってくれないのだ。
「結果は見えてるが、せいぜい頑張んな! 無駄な努力お疲れ様ヒッヒヒヒィーーー!!!」
「はは……」
マヌケなリアクションを受けつつ背中を叩かれ、担当区に赴く。
しょうもないガヤは置いておき、今日も頑張るか。
自分にできるペースで着実にこなしていこう。
「昨日の酒が抜けてないけど、頑張らなくちゃ」
ようやく午後になる。
土石を運んでいた時に、ある変化が起こった。
スキルを得た時は、天啓のようなものが降りるのだ。
何かスキルレベルが上がったのかと、ステータスを確認する。
そこには待ち焦がれていた、ある文字が。
「なんだ? これは土魔法!?」
土木作業をして苦節20年あまり。
ついに土魔法を獲得。
感動のあまり涙が出てきた。
土に慣れ親しんできた僕も、その証を手に入れたのだ。
「ついに……努力が報われたんだ!!!」
努力で手に入れた能力に、全力で喜びを言葉で表現する。
史上最悪の職業とまで言われた自分でも、少しくらいは人生をひっくり返せるんだ。
若い頃強敵にあと一歩のところで敗北した僕を救ってくれたお姉さんが、為せば成るってよく言っていたし!
これで将来設計も少しはマシになった。
土魔法によって、出来ることは多いからだ。
「アース! ふぅ。こんなものか」
ブロック大の土塊が生まれた。
こんなものか。
でも鍛え上げていけば、いずれ……!
そう思って次々と生み出してゆく。
今までは使い道のなかったMPなのだから、これくらいはいいだろう。
「使い切ったか。これが今の僕の限界。でもやっとできた」
寝袋くらいにしかならない、身を縮めてようやく入れるかというくらいのサイズの小屋。
だが今の自分は無性に感動し、愚にもつかない行動を始めてしまう。
「これが一国一城の主としての始まり、なんてな…………ん?」
何故か体に力が張り始める。
何かおかしい。
ステータスを確認するか。
―――――――――――――――――――――――――
【マノワール・オッサツイホ】
職業:自宅警備員
Lv :12
HP :74/122
MP :25/75
攻撃力:256(×3) 実数値85
防御力:304(×3) 実数値101
魔法力:190(×3) 実数値65
素早さ:218(×3) 実数値73
スキル
数学lv34
科学lv37
社会学lv24
礼法lv26
芸術lv17
舞踏lv15
製作lv35
建築lv30
土魔法lv1
―――――――――――――――――――――――――
試しに小屋を作って入ってみたら、その中ではステータス大幅アップになっている!
例えば戦士の職業でも、筋力などが1.3倍になるくらいなのに!
まるで破格の職業だ。
只のデメリット職業じゃなかったのか。
今まではオンボロ賃貸住宅で下宿していて、わからなかった事実だった。
「これが僕のステータスなのか!? 試しに……うわっ!? これを僕が!?」
腕を伸ばして地面を殴った。
大きなものが落ちたような地響きが巻き起こり、砂煙が舞い上がる。
常人の数倍のステータスだからな。
「おいっ! 今の地震大丈夫だったか!」
「ああ! この通り埋もれてしまったけど」
「ちっ! お前か。どんくさい野郎だ。トロくても動けるなら負傷者がいるか確認しに行けよ!」
こんなことで騙せたとは。
いつも舐められていたという事だな。
しかし資材が崩れてしまった。
地震が滅多に起きないこの国で自然災害と思われてしまったが、好都合だ。
冒険者の上澄みがやるようなことを僕がやれるとは、思わないだろうから。
しかし思いもよらない発見だ。
自宅警備員の真価、こんなものだったとは。
「これなら……やれるはずだ!」
完結保証の200話30万字。
2023年10月24日初投稿日に、第2章終了40話ほど連続投稿します。
完結まで毎日投稿です。
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