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What this game for  作者: 五味
Tutorial
4/11

「あれ、ここは。」


さっきまで、きっと意識を失うまで。自分の記憶があった風景とは全く違う、そんな場所に僕はいた。

周りの人にしても同じようで、回りを見たり、瞬きを繰り返したりとそんな事をしている。


「さっきまでのは。」

「どこだよ、ここは。」

「叫ばないで貰えますか。」

「あれ、終わらないんだ。」

「一体、何が。」


僕にしてもそうだけど、誰も彼もが思い思いに行動している。叫ぶように、怒鳴り散らすように、なんだか見覚えのあるランニングウェアを着た男性。

誰も彼もが、一人を除いて。自分の思い付きを口にして、互いの話なんて聞いていない。そして、それにいら立ったのだろう。

一番大きな声で喚き散らしていたその男が、机を、気が付けば囲むように座っていた机を叩く。

直前、ぼんやりとした視界で見た。恐らく、僕を散々に殴り、潰したそれが振るわれることに、思わず体が固まる。

口から出ていた、意味のない疑問が止まる。

他の人たちにしても、めんどくさそうに、迷惑そうにしながらも。一度それぞれに喋るのを止めた。


「おい、誰がこんな事をした。さっさと帰らせろよ。」

「話、聞いてなかったの。誰も分かってないようだったでしょ。それと、一々大声を出さないで貰えるかしら。そんな事しなくても十分聞こえるもの。それも分からないというなら、そこらの野生動物のように振舞えばいいけれど。」


がなるように言った男性にそう返すのは、最初に一言呟いて、それからただ何も口にしなかった女性だ。

白衣を着た女性。見るからに大人と、そう感じる女性が、ただめんどくさそうにそう話す。


「ふざけんなよ。何をすましてんだ。お前が俺をこんな訳の分からない場所に連れてきたってのかよ。」

「人の話を聞いていたのかしら。聞いてないなら自分の話だけ聞け、そのおかしな理屈に気づけそうだもの。きっと聞いてないんでしょうね。暫くそこらで深呼吸でもしていなさい。」


男の、見るからに鍛えていると割る相手に、まったくひるむことも無く。そうとだけ言い返して、また何か考え事に戻ったのだろう。女性は何もしゃべらない。


「くそが。おい、お前らは。」

「あの、うるさいんで、もう少し静かに喋って貰えます。大人の男性がみっともないですよ。」


そうして、もう一人。見るからに制服と、そうわかる服を着ている少女が次に応える。僕は相変わらず、その男が喋るたびに体がすくんでしまうのだけど、他はそうでもないらしい。

僕に起こったような、この男性にいきなり、いつかも分からないうちに襲われて。そんなことは無かったのだろうか。


「ああ。」

「嫌ですね。そんな無駄に騒いで。学校で習いませんでした。話し合いの時どうするか。」

「おい、あんまなめたこと言ってんじゃねーぞ。」

「さっき私に無残に切り殺されたくせに、あなたこそ何を言ってるんですか。」


そうして、今更ながらに気が付いたけど。そういって制服姿の少女が刀を鞘から抜く。どうやら、僕だけじゃないらしい。だというのに、なんでこの人たちは、こんな当たり前にしているのか。

今も、自分のすぐそば。思い返せば、それこそ自分の体から。湿った音。何か硬いものが砕ける音。そういった物が耳の奥にこびりついているというのに。


「で、私も気が付かないうちに、撃たれてゲームオーバーになりましたけど。」


男性が、ようやく落ち着き。席から離れ、それなりに広い部屋の中。壁にもたれかかって座ったところで、少女がそう口にする。

あそこ迄無茶苦茶な。気が付いた時にはどうにもできなかった。そんな相手を実に気軽に切り殺した、そう言っておきながら、彼女にしてもやはり何かあったらしい。


「そちらは、私ですね。ちょうどいいところにいましたので。その後、あちらの白衣の女性も。」

「って言う事は、おねーさんが勝ったんですか。」

「いいえ。その後移動している時に、衝撃を受けたと思ったら、ここに。」

「とういう事は、なんかそっちのさえない、怯えてるおにーさんですか。」


あっちの男性相手にしてもそうだけど、なんだかすごく遠慮のない子だ。

聞かれたから喋ろうと、そう思ったけど、何か上手く言葉が出ずにつっかえてせき込んでしまう。


「あれ、大丈夫ですか。」

「あら。何か、あったのでしょうか。先ほどからあちらの粗暴な男に怯えていたようですし。」

「じゃ、そっちは落ち着くまで待って、おじさんとおねーさんは。」

「さっきそっちの奇妙な格好の子が言っていたでしょう。撃たれたらしいわよ、私。」

「ええ、ちょうどいいところに、頭を出されましたので。」


ただただ怖い。この人たちが。なぜそうもあっさりと、至極簡単に自分が死んだ、それを笑って話せるのか。

今こうしている、それは僕だって分かってる。さっきまでのは、僕がそう思っていたように、あの子がそう言っているようにゲームだと。たとえそうだったとしても、死んだんだ、僕は。

たしかに、最初にきっと体の正面、そこを殴られて吹き飛んで。その後は、転がる僕の顔を無造作に、何度も殴られて。

なんで、この人たちは、ここまで普通なんだろう。正直、ああして威嚇されるのは怖い。でも、まだ理解ができる。自分を切り殺した相手が、今も笑顔を浮かべて話しているんだから。

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アルファポリス
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