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ぼく個人の感想でしかないけれど。あるかどうかも分からない物を、ちょっと気の遠くなる時間、集中力を切らさずに調べられるって言うのは才能だと思う。
「あー、なんか、もう、いいかな。流石に。」
まだ半分ほどだけど、棚と棚の隙間、それこそ床との間とか。そういった場所を確認しながら時間も分からず作業を続ける。そうしていると、なんかもう、体がやけに疲れる。
確かにこう、しゃがんだりは繰り返しているけど。なんか、その疲れ以上に体重く感じる。
「気分転換、しに行こうか。結局誰かに手伝ってもらわなきゃ無理だし。」
とりあえず行動の方針をそう決めて、倉庫から出る。
「あー、まだこんなのが他にもあったらどうしようかな。」
流石に通路の先が見えないなんてことは無い。でも、まだ半分ほどしか来ていない。ここと同じ部屋、それがある可能性は十分にある。
「もう1個あったら、流石に中だけ覗いて、それでおしまいかな。」
戻った通路からは、相変わらず嫌なにおいが漂っている。原因はなんだか分からない。それに前回の時には、そんな物はなかったはずだ。そう思いながらも進めば、やっぱりさっきまで感じていた体の重さも無くなる。
「それにしても、これだけ広いと合流も大変そうだよね。皆色々と探して回りながらになるだろうし。」
一応、話に出はしたけど、今回もそれぞれ同じ場所かどうか、それも分からない。
もし違うなら、まぁ僕は運が良かったって言う事になる。それこそまた戻った時に、皆が前と同じ場所だったか確認してみればいい。あの赤褐色の瓶にしても、僕は分からないけど鏡音さんなら多分わかるだろうし。
「あー、やっぱり、ここも同じか。」
そして、少し進んで、別の扉を開ければ、そこにはさっきまでと同じ光景が広がっている。
「勘弁してよ、本当に。6人しかいないのにこれは無理でしょ。」
正直手分けをしたところで、この箱の中身を全部確認する、それが現実的とも思えない。毎回毎回カードのある場所と、かかれている内容が変わるなら、それを毎回やらなきゃいけないわけでもあるし。
なんていうか、クリアできそうもないクソゲーとしか思えない。
そんな感想と共に扉を閉めてまた通路を進む。
そして、同じ倉庫がもう一部屋。うん、なんていうか見るだけで疲れる。其処も同じように中だけで確認したら、直ぐに扉を閉めて移動する。そして突き当りには、反対側で見た様なプレートがかけられている。ここもやっぱり、左右に分かれているけど。
「エントランスと、トレーニングルーム、ね。」
どうにもこの施設がそもそもどんな場所なのか分からない。ただ、まぁ。
「行くならエントランスかな。間違いなく、出入り口はあるだろうし。」
そう、そこにはここの外に繋がる何かがあるはず。勿論、これがそう言ったゲームなら、脱出できないようになっているだろうけど。
それならそれで、どんな仕掛けがあって、邪魔があって、それを把握するだけでもいい。いい加減今みたいにただ何もわからないまま動き回る、それだと飽き飽きしてくる。
さっき殺された、その事を忘れそうになってくるくらいに。
「流石に、目的は共有したし、今回は無いだろうけど。」
それにしたって、出合頭にいきなりなんていうのは、正直どうかと思う。夢乃さんにしても、他のプレイヤーを殺す、それだけが目的みたいなことを言っていた。一応、話した時には理性的だった。ゲームが始まる前に何があったのか、それは僕自身の事も分からないけど、今は流石に落ち着いているだろう。
一応前回は反対の突き当りにあったからと、足元に注意しながら進む。まぁ、そんな都合がいいことは無く、たどり着いた扉を開けようとするんだけど。
「え、あれ。」
なんというか、足が前に進まない。そして、脳裏にはっきりとちらつく。
これを空ければ前と同じように、いきなり訳も分からないままに吹き飛ばされて、また、と。
さっきまで、忘れていた、そんな事を考えたけど、そうじゃない。忘れていたいだけだ。死ぬまで殴られる、そのことを。そこまではっきりと意識すると、僕がそうしたいと思うよりも先に、体が勝手にうずくまって、せりあがってくるものをそのままそこに吐き出す。
そりゃ、怖いさ。当たり前だろう。だって、今もまだ耳の奥には残っている。そうされた時の音が。正直訳が分からなかったし、色々と感覚がマヒしていたみたいで、痛みなんて感じはしなかったけど。それでも、覚えている。だから、あの男が隣に座っていると、喉がひきつって声が出なかった。
「まぁ、でも。行かなきゃね。」
そうして暫く、それこそどれくらいの時間かは分からないけど、震える体を押さえていれば、ようやく少し落ち着いてくる。そうして、立ち上がって、ちっとも前に行こうとしない足を無理に引き摺って。
扉の前に立てば、それが空く。しばらく目をつぶってしまって、先に何があるかは直ぐにはわからなかったけど。でも、暫くそうしていても何もなかった。
「流石に、ああして皆で話したんだから、まぁ、またってことは無いか。」
そう、自分に言い聞かせて目を開ける。其処は、修学旅行でいつか行った、ホテルのロビー。それを広くしたような場所だった。ただ、これまでと違って、明りがない。これまでの明るさに慣れたせいか、先が良く見通せない。
「こんな暗い中で、探し物なんてできるかな。」




