コント「ドラレコ」
舞台…警察署
配役…警官 若者 (映像のみ)若者の彼女
若者と警官が並んで話している。二人の頭上にはモニターがあり、ドライブレコーダー(以下、ドラレコ)の映像はここに映し出される。
警官「つまり、あなた方は高速道路であおり運転をされて、その車と衝突して事故が発生したと、こういうことですね?」
若者「(泣き顔で)そうなんですよぉぉ~!本当に怖くて、死ぬかと思いましたよぉ~。早く、犯人を逮捕してくださぁい!」
警官「まぁそうしたいところですが、容疑者が入院中で取り調べができませんので。状況を確認するために、あなた方の車に取り付けられたドライブレコーダーの映像を確認させていただきます。よろしいでしょうか?」
若者「はい、事故の様子がバッチリ映ってるんで、お願いします」
警官「事故が発生したのが15時13分、その3分前から見てみましょう(リモコンを操作する)ピッ」
~~~~~~~~ドラレコの映像①15時10分~15時13分~~~~~~~~
彼女「ねぇ~ん、キスしてよぉ!今じゃないと嫌なの!」
若者「だから今は無理だって」
彼女「そんなこと言わないで…」
(けたたましいクラクションの音)
彼女「何この音…(後ろを見る)あっあの車!私たちをあおってる!」
若者「えっ(ミラーを見る)ウソだろ、まさか!?」
彼女「なんか怒鳴ってる!止まれって」
若者「止まれるわけないだろ!わっそんなに幅寄せするな危な…」
(車が衝突する音)
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警官「これが事故が起きた瞬間の映像で間違いないですね?」
若者「はい…これで分かったでしょ?このドライバーが悪いんです、善良な市民を脅かして!すぐ逮捕してください!」
警官「このドライバーはあおり運転の前科もありますし、まぁ有罪でしょう。ただ1点、気になる事がありますね…」
若者「何ですか?車もドライバーもはっきり映ってるじゃないですか!?これ以上何があるんですか?」
警官「どういう流れで“ねぇ~ん、キスしてよぉ!”になったんですか?」
若者「…は?」
警官「いや、動画の最初で言ってたじゃないですか?もしかして何か(にやける)エッチな事、してました?」
若者「してないです!ってかそれ、捜査に何か関係あるんですか?」
警官「…はい」
若者「ウソでしょ!?何ですか今の間は?」
警官「ちょっとこの前の映像も見たいなぁ」
若者「勝手に見ないでくださいよ!」
警官「一度でいいから乱用してみたかったんだよな、職権」
若者「そんなもん乱用しないでください!」
警官「3分だけ!3分前に戻しましょう(リモコンを操作する)ピッ」
~~~~~~~~ドラレコの映像②15時07分~15時10分~~~~~~~~
彼女「そんなわけないでしょ!薫って誰よ!?」
若者「やめろ!ひっかくな!」
彼女「信じてたのに!」
若者「本当だって!オレが愛してるのは、お前だけだから!」
彼女「…本当?」
若者「あぁ、本当だよ」
彼女「…本当に本当?」
若者「本当に本当だよ」
彼女「…本当に本当に本当?」
若者「いつまで聞くんだよ!」
彼女「じゃあ、キスして」
若者「は?」
彼女「本当に愛してるんだったら、その証拠に、キスしてよ」
若者「いや、運転中だから後で…」
彼女「ねぇ~ん、キスしてよぉ!今じゃないと嫌なの!」
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警官「なんだ、エッチな事してないじゃないですかっ!」
若者「何で軽くキレてるんですか。もう、これでいいでしょ?」
警官「最初の方、ずいぶん修羅場でしたけど、何かあったんですか?」
若者「何もないですよ!捜査に関係ないんだから見ないでください」
警官「いいじゃないですか、減るもんじゃなし」
若者「いかがわしい店みたいに言わないでください!」
警官「気になるなぁ。3分前に戻しましょう(リモコンを操作する)ピッ」
若者「ちょっと!」
~~~~~~~~ドラレコの映像③15時04分~15時07分~~~~~~~~
彼女「(号泣)あーん、あんあん」
若者「悪かったって、よしよしミサたん、いい子いい子」
彼女「…許す」
若者「落ち着いた?はぁ良かった」
彼女「その代わり後でおごってよね」
若者「いいよ。何か欲しいのある?」
彼女「うん、スタバ新作のね、抹茶ティー・ラテ・フラペチーノ」
若者「何だそのイカれたドリンク?お茶だかラテだか分からな…」
(電話の着信音)
若者「うわっ!なんだ電話かよ驚かせやがって」
彼女「出ないでいいの?」
若者「いいよ運転中だから…おい、勝手に見るなよ!」
彼女「ちょっと!この“薫”って誰よ!?」
若者「えっいや、職場の上司だよ」
彼女「ウソよ!上司ならなんで名前で登録してんの!?」
若者「そういう苗字なんだよ」
彼女「そんなわけないでしょ!薫って誰よ!?」
若者「やめろ!ひっかくな!」
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警官「あちゃー、浮気が電話でバレちゃったんだ」
若者「そういうのじゃないですって、職場の上司ですから」
警官「なるほど、上司ね。と、言いつつ実は…?」
若者「元カ、って何言わせようとしてるんですか!?」
警官「ごめんごめん、職業柄、誘導尋問するクセがついちゃってるから」
若者「誘導尋問しないでくださいよ!もう、これで気が済みました?」
警官「最初めっちゃ泣いてたのは、何なんですか?」
若者「だ・か・ら!それ捜査には関係ないでしょって!」
警官「よしよしミサちゅわぁーん、って言ってましたよね」
若者「そんな言い方してねえよ!もう、本当にやめてください!」
警官「やめるって何を?」
若者「どうせまた“3分前に戻しましょう、ピッ”のくだりやるんでしょ!?」
警官「…どうやら、私がどういう人間か理解してもらえたようですね。ピッ」
若者「あぁっ!」
~~~~~~~~ドラレコの映像④15時01分~15時04分~~~~~~~~
若者「いつまでそんなもん出してんだ!早くしまえ!」
彼女「わ、分かった」
若者「ずいぶんハデにやったな」
彼女「だって、あんな急に出るなんて思わなかったんだもん!」
若者「お前がイジりすぎるからいけないんだろ!」
彼女「ひどい!何でそんなこと言うの!慰めてくれたっていいじゃん!」
若者「おい落ち着けって」
彼女「(号泣)あーん、あんあん」
若者「悪かったって、よしよしミサたん、いい子いい子」
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警官「最初の“そんなもん”って、これはエッチなやつでしょ!」
若者「だから!違いますって!」
警官「そのあとのセリフも、明らかにエロいことやってるしな。もう少し前も見るか」
若者「(うろたえて)えっもう少し前って、サービスエリアの映像…も、もうこれ以上見ないでください!」
警官「そのあわてよう、さては相当エロいことしましたね?大胆だなぁ。何したんだろう?3分前に…(リモコンを操作しようとする)」
若者「(警察の手を抑えて)いいかげんにしろよポリ…(ひきつった笑顔)おまわりさん、勘弁してくださいよ~」
警官「…そうですね、やっぱ見るの止めます…とみせかけて、ピッ」
若者「おいっ!」
~~~~~~~~ドラレコの映像⑤14時58分~15時01分~~~~~~~~
彼女「っていうかこれ何?シートの下にあったんだけど」
若者「それ?エアガン。すげぇだろ」
彼女「すっごーい!(窓から銃口を出して構える)バーン!あはは、あいつ逃げてった!ちょーウケる」
若者「よせよ、あんまりイジると…」
(銃声)
若者「何してんだよ!?」
彼女「えっうっ、撃ってない!なんか勝手に弾出た!」
若者「やべぇよ、どっか当たってねぇだろうな…おいあの車!穴開いてんじゃねえかよ!」
彼女「やばっ!あっあのおじさん、怒鳴りながらこっち来てる!あの人の車なんじゃない?」
若者「ヤーさんじゃねえかよ…エアガン貸せ、早く!」
彼女「えっ何で…」
(銃声)
若者「とっとと行くぞ」
彼女「(泣きながら)何撃ったの?まさか、あのおじさん?」
若者「ちげーよ、タイヤをパンクさせたんだよ。これで追ってこれねぇだろ」
彼女「本当に大丈夫?」
若者「心配すんな、今までこれで追ってきたヤツなんかいやしねぇよ」
彼女「ならいいけど…ねぇ、エアガンであんなに穴開くの?変な改造した?」
若者「いいだろ別に。ってか、まだエアガン持ってんのか?」
彼女「うん」
若者「いつまでそんなもん出してんだ!早くしまえ!」
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警官「…あなた、善良な市民が悪者に一方的にやられた、みたいに言ってましたね?」
若者「は、はい」
警官「善良な市民は!違法に改造したエアガン撃ったりしねぇんだよ!」
若者「は、初めてだったんです!許してください」
警官「ウソつけ!“今までこれで追ってきたヤツなんかいやしねぇよ”つっただろ!何度かやってるなお前!もっと詳しい話聞かせてもらおうか!?」
若者「そんな…(リモコンを取って警官に向ける)3分前に…」
警官「戻るわけねぇだろ!」