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妖精ふぁんたじー  作者: 不明中のありかさん
第一章 異世界の少女
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第二十七話:第十一試合

 第十一試合、第十二試合と無事に終わり、ようやく第十三試合が訪れた。

 26番ミズキ・ミヤモト選手。

 係員の言葉を聞き、ミズキは静かに待機室から出る。


「ミズキ君、頑張って!」


 決闘場までの短い通路の途中、メイフィールドの激励が届く。

 瑞希は止まらず、振り返らずただまっすぐに歩いて決闘場へと向かう。立ち止まると、緊張ですくむ足が歩みを止めてしまいそうだから。


「………………っ」


 通路を出たとたん、降り注ぐ日の光と大きな歓声。思わず目を細めた瑞希は、兜の隙間から真正面に自分の対戦相手がいることを知る。

 冒険者風の、大男。大斧を使っていそうなその人物は、しかし大剣を持った如何にも冒険者と言った風貌だった。


「(やば、めちゃくちゃ怖いぞ)」


 ジロリと睨み付けてくる視線に、瑞希は思わず逃げ出しそうになる。緊張がさらに高まり、周りの音がガンガンと耳に響く。


――――ミズキ


 一瞬、綺麗な少女の声が自分を呼んだ気がした。

 思わず辺りを見回す。だが、すぐにその少女を見つけることは叶わない。


「俺は眼中にすらねぇってことか………」


 あ、ヤバ。瑞希は反射的にそう思った。

 見ると、何やらご立腹な冒険者さん。どうやら先ほどの瑞希の様子を勘違いしたらしく、今にも剣を抜き出し襲い掛かってきそうな様子だった。

 思わずひきつった苦笑いが浮かび慌てて表情を繕う。兜を被っているおかげか、相手に表情をみられることはなかったようだ。


『本選一日目も終盤にかかりました! ですが観客の皆さん、どうか最後まで彼らの勇姿を見ていただきたい。では、恒例の選手紹介だぁ!』


 ほっとため息を吐いた瞬間、耳に届く女性実況者の声とどっと沸く観客の歓声。一体どんな紹介をされるのか、別の緊張感が瑞希を苛める。


『25番ブリントン選手! 冒険者ランクAの大剣使い! 彼の豪腕が振るう大剣は、あらゆる障害を凪ぎ払う! ……らしいよ?』


 おい、いいのかよそんなんで! と瑞希は内心叫んだ。

 最初得意げな様子だった冒険者ブリントンが、最後の一言であからさまに不機嫌な表情となっている。

 しかも何故か怒りの矛先がこちらに向いており、瑞希は心底帰りたい気分になった。


『対して26番ミズキ選手! 不思議な名前の彼は経歴も不思議な、天才若手騎士だ!』


 何やらこちらにも勘違いされているようだが、悪い気分はしない為黙って聞き入れてみる。


『若干16歳でありながらつい先日王室騎士の仲間入りを果たした超超天才若手騎士! 剣の腕も立てば女の相手も超一流! 食堂で美人美少女に囲まれていたという話は、私が実際にこの目で見たから確かだぞっ! 私、お食事に誘われちゃったらどうしよう!』

「俺はたらしかよっ!」


 きゃー! と黄色い声を上げる女性実況者。思わず叫んだ瑞希の突っ込みも、男性観客のブーイングと女性観客の大きな声援で書き消されてしまう。

 冒険者の苛立ちもMAXとなったようで、

「おい審判まだか!」などと怒鳴っている。


『でも、私年上が好みだからごめんなさいね。あ、でも何故か悩む私がいる』

「悩まなくていいから。俺の印象を無理やり変にしないでください!」


 次いでに瑞希の苛立ちもMAXとなる。


「剣を失うか、降参を宣言すれば敗北となります」

「説明なんてどうでもいい! さっさと始めやがれ!」


 審判に向かって怒鳴り込む冒険者。大男とあって迫力が凄く、瑞希は早速帰りたい気分となる。


「では、両選手。各々の判断で決闘を開始してください」


 そう告げ、審判は安全な場所まで引き下がる。それと同時に冒険者がニヤリと口を歪め、早速大剣を振りかぶって襲い掛かってくる。


「くたばれ色男!」

「――っ!」


 まだ剣を抜いて居なかった瑞希は慌てて剣を抜き、ギリギリで冒険者の大剣を受け止める。

 一瞬安心しかけたが、それを付け狙うかのように冒険者が蹴りを繰り出してきた。瑞希は大剣を弾いてから何とかそれをかわし、相手から距離を取る。


「逃がすかよ!」


 だが、すぐに距離を詰めた冒険者が横合いから大剣を振って凪ぎ払おうとしてくる。

 それが、一瞬だけユリアのスパルタ特訓と重なった。

 瑞希はそれを剣で受け止めると、それを弾くように体制を崩させそこに上から切り伏せるように反撃した。

 しかし、相手は中々の腕前だ。冒険者はすぐに距離を取ってそれをかわす。


「はっ、大したことねぇな天才クン?」

「そう言われてもねぇ。俺初心者だし」

「なら、ここで無様に這いつくばれ!」


 また突っ込んでくる冒険者。今度は縦に大剣を降り下ろしてくる。瑞希はそれを剣で逸らしながら横に避けると、その隙を突いて剣をまっすぐに振り下ろす。


「――――っ!」


 そして、それが当たる直前で瑞希は慌てて距離を取った。

 カウンターが来たからではない。

―――相手に攻撃するのを戸惑ってしまったのだ。


「てめえ………なめてんのか」


 冒険者は瑞希が手加減して遊んでいるように取ったのだろう。表情を歪め、今まで以上の怒りをのせて瑞希を睨み付けた。


「ざけんじゃねぇ!」

「くっ……!」


 冒険者が大剣を横から振りかぶる。瑞希は後ろに下がってこれをかわし、距離を取ろうとする。が、冒険者はそれを許さず距離を詰め正面から重い蹴りを瑞希に入れた。


「がっ!」


 鎧を着ているとは言え、ダメージはしっかりと通る。強い衝撃に後ろに弾き飛ばされた瑞希は2〜3メートル先で仰向けに倒れる。

 冒険者の攻撃は止まらない。倒れた瑞希に向かって、冒険者は容赦なく剣を振り下ろす。

 勝利を確信したのか、その表情は歪んだ笑みを浮かべていた。


――――ミズキ!


 再び、彼女の声が聞こえた気がした。

 途端に周りの歓声が遠くなる。振り下ろされる大剣の動きが緩やかになり、狭まっていた視界が一瞬で広がる。思考が鮮明化し、緊張が一気に薄れて行く。

 思い出すのは、騎士の誓い。守るべき少女の姿。


「こんな所で負けられるかよ!」


 不可視の魔力が、彼の身体を覆う。


――――魔力付加。


 見えない魔力に包まれた彼の身体能力は、無意識故に限定的だが飛躍的に向上する。

 瑞希は迫りくる大剣の横腹を思い切り蹴って横へと逸らす。あり得ない対処法だからこそ、虚を突くことができ冒険者に隙が生じる。

 瑞希は蹴った体制から腕を使ってアクロバティックな動きで立ち上がると、そのまま振りかぶった剣を縦に振り下ろす。

 経験からか、間一髪で冒険者はそれを避けると瑞希から距離を取って大剣を構え直した。

 瑞希は息を軽く吐いて肩の力を抜く。魔力付加はもう切れているが、今の彼ならそれなしでも十分だった。


「この、ガキ………」


 瑞希は何も言わない。ただ、兜の奥でにんまりと笑った。

 僅かに空いた隙間からその笑みを捉えたのだろう。冒険者は怒りで身体を震わせると、それに任せ縦に剣を振りかぶる。


 瑞希がユリアに教わったのは、何も剣の振り方だけではない。

 いかに自分のペースで、余裕を持って戦うか。がむしゃらに攻撃するのではない。防御は本能に任せても、攻撃は冷静に行わなければならない。

 余裕を取り戻した瑞希には、十分に攻撃の機会がある。相手が怒りに身を任せているなら、尚更。

 冷静さを欠いた者が、敗北するのだ。

 今の彼には、ユリアのスパルタの成果のおかげではっきりと太刀筋が見える。


「甘い!」


 イメージは、いつしか大剣でぶちのめされた時の動き。

 紙一重で、完璧なタイミングで縦に振り下ろされる大剣をかわした瑞希はがら空きになった横腹に向かって思い切り剣を凪ぎ払う。

 今度こそ、瑞希の剣は止まることはなかった。

 彼の剣はそのまま冒険者の横腹に吸い込まれ、鈍い衝撃と共に大柄な冒険者の身体を弾き飛ばす。

 盛大にぶっ飛んだ冒険者はゴロゴロ転がり、やがてピクリとも動かなくなった。


「勝者、ミズキ選手!」


 どっと歓声が沸き上がる。遠くなっていた歓声がうるさいぐらいに響き、瑞希は思わず嬉しくなった。

 ちらりと倒した冒険者を見やる。一瞬殺してしまったかと思ったが、ピクピク動いているのを見て安心し瑞希は颯爽と決闘場を去る。

 ………否。心臓バクバクで震えそうでそれを見られるのが恥ずかしいから足早に立ち去った。

 何しろ初めての試合なのだ。訓練と違い、相手が本気でかかってくるのだ。

 瑞希は自分みたいな素人がよくあんなリーチも力も上の人間に勝てたなぁ、とブルブル震えながら思った。


「ミズキ君」

「うおっ!」


 待機室に戻るなりいきなりメイフィールドに声をかけられた瑞希は大げさに驚いてみせた。

 メイフィールドはどことなくからかう雰囲気で言う。


「二回戦進出おめでとう」

「お、おう。ありがとよ」

「でも」


 こつん、とメイフィールドが瑞希の腹に拳を突き立てる。


「油断してると僕と準決勝で会えないよ?」


 兜の奥からクスクスと笑い声が漏れる。


「ちゃんと勝ち進んでくれないと、僕は困るなぁ」

「いやね、こうして勝てたのは運がよかっただけでして。頼むからあんまり期待してプレッシャーかけないで」

「運も実力の内さ。素人だって言うなら、尚更冷静にならないと勝てないよ?」

「わかってるなら勘弁してくれ」


 肩を竦めると、メイフィールドも同じように肩を竦めた。


「まあ、俺も負けられない意地があるからな。言われなくても、俺は絶対に勝ち進んでみせるよ」

「うんうん。その調子だ」


 コロコロとメイフィールドは笑い声をあげる。

 瑞希も釣られるように笑い、少しの間待機室は笑い声が響いていた。













 王族が利用する高級旅館は、武競祭が終わりまで王室と騎士の貸し切りとなっている。そこで約束通り腹一杯フィオナにご馳走してもらった瑞希は少々膨れた腹を引っ込ませようと街に繰り出していた。

 時刻はもう既に10時頃を過ぎている。瑞希は携帯の電源を切ってポケットに突っ込むと、前の世界と違ってよく見える星空を見上げた。


「あーミーズキくぅん」


 背後から突然投げ掛けられたなめまかしい声を聞き、瑞希は思わずぎょっと肩を跳ねさせた。その声に振り変える前に、彼の背中に誰かが持たれてくる。

 首に絡まる二本の腕。背中に当たる柔らかい二つの物体。

 そして、鼻腔をくすぐる―――――酒の匂い。


「酒臭っ!」

「んふふ〜。こんな時間にどうしたのかな〜?」


 ぎゅーっと抱きついてくる声の主。これで酒臭さがなかったら、とってもいい気分となっていただろう。今でも十分あれだが。


「ちょっと、ユリアさん離れてください!」

「いいじゃん〜んふ、ほらほら〜」

「離れてください!」

「もう、つれないわねぇ。そんなんじゃ女の子に逃げられるぞ〜」

「それは嫌ですけど酒呑んだ人に絡まれるのはもっと嫌ですっ」

「何を言う。お酒は偉大よ。落ちない人もころっと落とせちゃうもん。事後承諾〜〜」


 更に持たれてくる美人騎士。男としてどうしても反応してしまいそうになるが、なんとか自分を抑え無理やりユリアを引き剥がす。


「と言ってもまだ私は処女なんだけどね」

「何こんなとこでカミングアウトしてんですか。ってか何やってんですか」

「息抜きよ息抜き。久しぶりにお酒呑んだら、ちょっと酔っちゃったみたいで」

「ちょっとなんてもんじゃないでしょ……あー、ほら、あそこにベンチありますからそこで休みましょう」

「おろろ、まるで彼氏みたいなこと言うねぇ」

「ハイハイ、彼氏じゃなくて残念ですね」


 ニマニマと笑うユリアに肩を貸しベンチへと向かう。

 ベンチに腰かけるとユリアは夜空を見上げたまま動かなくなった。

 眠ってしまったわけではなく、ただ黙って夜空を見上げているのだ。


「ミズキ君」

「何ですか?」

「勝手に武競祭に登録させちゃってごめんなさいね」

「今さらですよ。どっちかと言うと、感謝してる方ですし」

「そっか。……うん、実を言うとね。さっきお酒呑んだのはそのことをいつ話そうか悩んでたの」

「一体何考えてんだよ、ふざけんなよ、って最初は思ってましたけどね」

「おおぅ、遠慮なく言うね。んじゃ、そんな正直なミズキ君にアドバイス」


 ユリアは瑞希の鼻頭に人差し指を当てる。

 そして、不敵な笑みで言う。瑞希は目を見開いて、そして真剣な表情でユリアのアドバイスを受けた。

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