第十六話:彼女の変化
だいぶ間が開いてしまいました。申し訳ないです。夏休みに入りましたので、大分執筆が進むと思います。次の更新は早めだと思いますので、飽きずに読みに来てくだされば幸いです〜
※7/23更新 後半大幅変更。もうかれこれ別の展開とこれと元を4、5回入れ替え繰り返してます。場合によっては戻すかもしれないけど………後の展開が決まっている分悩みどころ
※※ やっぱり戻してみた。後の後を考えてみるとこっちの方があってるみたい
ヤバイ、と思った時彼の意識はもう既に深い闇へと落ちていた。落ちていたが、どうやら完全に意識を失っていたわけでもなかったらしく真っ暗闇の空間の中で一人割りと必死に考え事をしていた。
何を口にしても聞こえない、どこを見渡しても何も見えないという状況下、受けた傷が傷だけに彼はもしかして死んだのかと内心ハラハラとしていたのだが、どことなく身体が温かいものに包まれているという感覚は合った為にただぼんやりとだが意識を失っているだけだということは理解できた。
人間不思議なものだとその時彼は関心していたのだが、それどころじゃないということもあって必死に意識を取り戻す手段を考える。
夢の中にいるのかどうかを確かめる常套手段、頬をつねるというのをやろうとしたものの、身体の感覚らしい感覚がまともに無かった為にそれを行うことができなかった。なら、意識をはっきり持てばいいと色々と力んでみたものの、こうしてハッキリと何かが思考できる時点でそれが実るわけもなく虚しい結果に終わった。
どうすんだよちくしょーと声に出してみたくても、口と言う感覚がないために喋ることもできない。しかし、そういう思考ははっきりとできるために口に出して喋るよりとってもうるさいという不思議な体験だった。
そんな何もない空間でどうやって現実に戻ろうと考えあぐねいていたところで、ふと彼は背後に人の気配を感じた。背後がどの方向なのかもおぼろげだった彼だが、とりあえず本来なら存在しないはずの気配に意識を向けてみる。すると、まるで身体の向きを変えるかの如く右側から一人の人影が視界に入り込んできた。
「………?」
開口一番、自分が最も口にしたかった素朴な質問をその人影は先手必勝と言う感じで問うてくれたようだった。実際には何も音が聞こえないこの状況下、ちゃんとあるらしい視覚でその人影が口を動かしながら首をかしげたのを見ただけであるが。
そして、何となく声を掛けようとした彼は突然タックルをかましてきたその人影に盛大に驚き慄いた。なんと、タックルをかましてきたその人影は先ほどまで身近にいたメルヴィアであったのだ。
それを理解して瞬間、突然彼の耳に音が入り込んだ。いや、それは音だけではない。失われていた方向感覚、平衡感覚、地に足をつく感触。ありとあらゆる現実味のある五感を突然取り戻すことができたのだ。しかし、それは現実味があるだけであって本当に五感すべてがあるわけではない。
いわば、夢の中にいるときのような、そんな不思議などこかふわふわとした感覚だ。
「んー、うぅぅ!」
気が付くと、メルヴィアが顔を真っ赤にしてうんうんと言いながら自分を引っ張っているところだった。彼はそんな彼女に和みながら腕を引っ張る彼女の後をついていく。
気が付けば、真っ暗闇だったはずの空間はガラリと風景が様変わりしていた。真っ暗なのは変わりないが、それは夜という時間帯の森の中、という場景であるだけで完全な暗闇というわけではなかった。
木々の隙間から差し込んでくる月の光がやけに明るく感じながらも、彼は既視感を感じていた。なんとなく、自分はこの光景をどこかで見たことがあるような気がしたのだ。
はて、どこだったかと首を傾げながらもメルヴィアに引っ張られていく中、どうやら目的地にたどり着いたらしい彼女は唐突に強く引っ張っていた腕から手を離した。
とてとてとて、と可愛らしく走っていく音が耳に入る。思考の海から帰還し、彼女の方に目を向けると案の定小走りでその小さな背が遠ざかっていくのが見えた。
そんな彼女の向こう側、人型でありながら人外っぽい感じのお方が数人暖かな笑みを浮かべてこちらを見ているところだった。ある者は立派な翼を持ち、ある者は立派な耳や尻尾を持ち、所謂ファンタジーな人類がメルヴィアの駆ける先で待ち受けているところだった。
「おや、どうしたんだいアリス」
そんなファンタジーなお方たちの一人が、開口一番聞き覚えのない名前をメルヴィアへ向けて言った。『アリス』と呼ばれたメルヴィアは嬉しそうに微笑むと、翼を持ったファンタジーなお人を見上げて今にも飛び跳ねそうな勢いで言う。しかし、どういうわけか彼には彼女が嬉しそうに語るその言葉を、いや声を聞き取ることが出来なかった。
「そうかい。それはよかった」
翼を持ったファンタジーなお人は温かな笑みを『アリス』に向けると、優しく頭を二、三撫でた。
そこで彼は初めておかしな点に気が付いた。翼を持ったファンタジーなお人は自分とそう大して背丈はかわらない。が、その側にいるメルヴィアがどういうわけかかなり小さいのだ。いや、幼すぎると言っていい。10歳らしいメルヴィアは見た目8歳ぐらいだったのだが、今の彼女はそれよりも2、3歳更に幼く見えるのだ。ただでさえ小さかった彼女がかなり幼いとそれはもう本当の幼女にしか見えなくなり、彼はそれはそれで微妙な心境になった。
そんな幼いメルヴィアをじーっと見ていると、向こうはこちらの視線に気が付いたらしくこちらと目線を合わせると何やらモジモジと身体をくねらせ始めた。一瞬何事かと怪訝に思った彼だが、彼女の表情が若干紅く染まっているのに気が付きやっと恥ずかしがっているのだと気が付いた。
彼の中でさらに違和感が募る。彼女お得意の演技、かと最初彼は思ったのだが、最初はもじもじ、しかし次第にそわそわとこちらを窺うように見てくる彼女を見てるとまるで彼女が彼女ではないように見えて仕方がない。白髪紅眼、そして特徴的な尖った耳という紛れもないメルヴィアの容姿そのものであるのだが、そんな『メルヴィア』が振舞う仕草は本当に幼い少女そのものなのだ。彼の知っているメルヴィアはもっと大人っぽい感じがあった。
「いいよ。いっておいで、アリス」
それを温かく見つめていたファンタジーなお人は何がいいのか知らないがそんな事を穏やかに言うと、そっと『アリス』の小さな背中を押した。
『アリス』は最初戸惑ったように足を止めたが、一気に表情を破顔させると本当に嬉しそうな様子で彼に飛びついた。若干よろめきながらもしっかりと彼女を受け止めた彼は、何やら嬉しそうに話しかけてくる彼女の声を聞き取ることが出来ずに困った表情を浮かべた。
しかし、彼女はそれを別の意味で捉えてしまったのだろう。嬉しそうだった表情から一点、今にも泣きそうな顔をすると恐る恐るといった感じで彼を上目遣いで見やった。
かはっ、と思わぬインパクトの強さに彼は全身に力が篭りかけた。今までと違う彼女のその愛くるしさと新鮮さに思わず心が揺さぶられたのだ。今ならロリコンの気持ちがわかる、などと本当にダメな思考が彼の中で展開される。
「違うよアリス。彼は君の声が聞き取れないんだ」
それを聞いた『アリス』がじわりと瞳に涙を溜めた。本当に悲しそうな表情をする彼女に、彼は思わずむっとした様子でファンタジーなお人に目を向けた。しかし、そのファンタジーなお人は相変わらずの笑みで続きを言う。
「大丈夫だよアリス。彼は君の温もりを感じることができる」
それをどういう意味でいったかわからない。しかし、『アリス』はたちまち笑顔を取り戻すと感極まった様子で彼に口付けをした。
思わぬ展開に、彼の目が大きく見開かれる。当たり前だ。いきなりキスなどされれば誰だってこうなるだろう。あまりにも非現実的な事態に、彼は思考の大半を凍結させてしまう。
そして、それを見計らったかのように『アリス』がどこか艶やかな瞳で彼を見つめ始めた。その艶のある雰囲気に、『メルヴィア』を思い出した彼は唐突に思考がぼやけ始めるのを感じた。
強い既視感が襲い掛かって来たが、鈍くなった思考はある一点にしか向けられておらずどうすることもできない。眠気が襲いくるような感覚を覚えながらも、彼は目の前の少女の顎を優しく取ると―――――
「ぐえっ」
突然聞こえてきた妙な声に、フィオナとフローラは怪訝な表情を浮かべた。浮かべたところで彼女たちの妹が立ち上がるのを見た。
最愛の妹――メルヴィアはどういうわけか顔を真っ赤にして先ほどまで抱いていた青年を睨みつけていた。妹の突然の変化に驚いた彼女たちであったが、それよりも妹の瞳が普段と同じ輝きを取り戻していることに驚いていた。
「ぐ、お……は、腹が……」
何やらお腹を押さえて悶絶している青年は、メルヴィアが睨みつけているように見下ろしていることに気が付くと表情を強張らせた。
「……一応聞こう。俺、メルに何した?」
「口付けされそうになった」
いつしかと同じようなやり取りに、青年――瑞希は頭を抱えて悶絶した。腹の次は頭と忙しい彼であったが、ふと違和感に気が付くとぺたぺたと自分の身体を触り始めた。
彼は確かに致命傷を負ったはずだった。彼自身、自分が負った傷が即死級のものであることを自覚していたのだが、なぜそれほどの大怪我を負ったはずの自分が無傷でいるのか激しく疑問を抱いた。しかし、それがすぐに彼女のお陰であるという事を悟った瑞希は慌てたようにメルヴィアに振り返り、そこで呆気に取られたように目を見開いた。
「………メル?」
彼の視界に飛び込んだのは蒼い光で出来た六つの翼。一度見ているため別に驚くほどのものではないかもしれないが、その大きさが異常なのだ。
天高く聳え立つ光の翼は、広大な空全体を埋め尽くすかのように巨大だ。実際、王都上空を覆っているそれは瑞希に強烈過ぎる印象を与えただろう。
あまりの光景に言葉を失っていた彼だが、ふと聞こえてきた小さな笑い声に彼は我を取り戻した。そちらに目を向けると、メルヴィアが困ったような、それでいて安心したような笑みを浮かべているところだった。
「もう……ミズキってば早起きさんだね」
そう言って彼女は歩み寄り、半身だけ起き上がっている彼の頭を静かに胸元に抱き寄せる。どういう意味だ、と問いかけかけた彼はしっかりと抱きしめてくる彼女の腕が若干震えていることに気が付いた。僅かに顔を上げて表情を覗き見ると、瞳にいっぱいの涙を溜めているのがわかった。
「少し早いけど、ちゃんと起きてくれてよかった……」
「あ、ああ……すまん」
「私を置いていくなんて絶対に許さないから」
まるで恋人が言うそれに、瑞希は思わず苦笑を浮かべてしまう。メルヴィアにその気がないというのは理解しているのだが、色々と勘違いしてしまいそうだった。
瑞希は今にも泣き出してしまいそうなメルヴィアの背中に手を回すと、子供をあやすかのように背中をぽんぽんと叩いた。それで彼女も調子を取り戻してきたのだろう。メルヴィアは瞳に浮かんだ涙を指で払うと嬉しそうな笑みを浮かべて瑞希の頭に顔を埋めた。
そのまま静かに時間が流れる……と思われたが、今この場にはもう二人いることを忘れてはならない。
その内の一人、フィオナは経緯はどうあれ自分の知っている妹に戻ったことに安堵のため息を吐くと、ふつふつと湧き上がってきた嫉妬心に駆られ少々低い声を出してしまう。
「メルに気安く触らないで」
「あらあら……仲がよろしいのね」
それを聞いたフローラが宙に浮いたままぽやっとした口調で言う。
瑞希はそんな二人の声を聞くと我に返ったようで、未だに頭を強く抱きしめるメルヴィアを半分以上意識しながら彼女たちへと目を向けた。
第一印象は美人だった。二人共に見事な金髪の持ち主で、片方はおっとり穏やかな顔立ちで巻き毛のフローラ。もう片方は意志の強そうな瞳を持ち、遠目から見てもサラサラで真っ直ぐな髪のフィオナ。おっとりとさせたのがフローラで気を強くさせたのがフィオナと言った風に、二人共にメルヴィアに似ているところがあった。
成長するとこの二人のうちどちらかになるのか、と瑞希は思ったが何となくイメージが合わず何やら睨みつけてくるフィオナの目線ともあってすぐに考えるのを止めた。
「と、とりあえずメル。一旦離れて」
「いやよ」
余りの即答ぶりに、一瞬空白が生まれる。
「嫌って……あれ、多分メルの姉さんと思うんだけど、あの人の目が……」
「何よ。私じゃなくてフィー姉さまを選ぶの?」
「いや、そうじゃなくて」
「酷いよ……あの時抱いてくれたのは本心じゃなかったの?」
メルヴィアがそう言った途端に場の空気が鋭くなったのを、瑞希は確実に捉えた。普段ならここでふざけはじめた彼女に一言二言口にするのだが、フィオナの文字通り射抜く視線に半分金縛りにあっているのだ。
「あら……あらあら」
しかも、先程まで朗らかな笑みを浮かべていたフローラが笑顔のまま凄い威圧感を発しているではないか。瑞希は額にうっすらと汗を浮かべて、美人の笑顔は恐ろしいんだなと現実逃避をする。
「ふふっ……まあ冗談はここまでにして……」
メルヴィアは何処と無くなめまかしいため息を一つ吐くと、ようやく姉たちへと目を向けた。すると、フローラを包んでいた光が徐々に霧散し、フローラはゆっくりと地面に足をつける。
「あうっ」
が、足腰に力が入らないのかがくりと腰から崩れるとぺたんと地面に座り込んだ。それを見て思わず頬を緩ませかけた瑞希だが、視界の端でフィオナが未だに睨み付けているのが見えて表情を保つのに必死になった。
メルヴィアがそんな姉を一瞥すると、またもや光の粒子が彼女の身体を包み始めた。先程のこともあり一瞬表情を強張らせたフローラであったが、不思議そうに首を傾げるとどこかさっぱりした様子で何ともなかったかのように立ち上がった。
「ありがとう、メル」
二、三目をぱちくりさせて自分の身体をあらかた確認し終えたフローラはメルヴィアに向き直って笑みを浮かべた。すると、どういう訳かメルヴィアはキョロキョロと視線を彷徨わせ始めた。
まず、笑みを向けてきた姉に。その隣で瑞希を睨みつけているもう一人の姉に。少し欠けている建造物に、何かが激突した跡のある石壁に。背後の『半壊』になっている宮廷に、そして最後に辺りに散らばっている気絶した騎士たちに。
一通り辺りを見回し、ひしゃげた門でぼーっと座り込んでいる若い女性魔術士を見やったあと、メルヴィアは今も展開されている六つの翼を見上げると、
「………や、やっちゃったぜ」
どこか焦りを感じさせる声色で顔を両手で覆った。
あー、とかうー、とか唸りながら身悶えている姿は巨大な翼を背中から生やしているということもあってただならぬ何かを感じ取ってしまう。案の定、妹の突然変異に目を見開いたフィオナは慌てて彼女のもとへ駆け寄ると、頭を抱えた拍子に地面に倒れた瑞希を蹴り飛ばしてメルヴィアの肩を掴んだ。フローラもフローラで何か割と凄い表情になってメルヴィアのもとへ駆け寄っていた。
「メル! どうしたの!?」
見事に重なる二人の声に、ぴくりとメルヴィアが動きを止めた。数秒、ずっと顔を隠して俯いていたメルヴィアはゆっくりと顔を上げると目と鼻の先で怖いと言える表情をしている姉たちを交互に見やる。
彼女の表情は、若干赤い。心なしか瞳も潤んでいて間近でそれを見たフィオナは不謹慎ながらも思わず胸をときめかせてしまう。
「………私、おかしくなってました」
耳まで真っ赤にしてそう言う妹を、姉たちは一体どういう意味で捉えたのか。二人はどちらともなくメルヴィアに抱きつくと、フローラは頭を掻き抱いて、フィオナは胸に顔を埋めて泣き始めた。静かに涙を流すフローラと声を上げてなくフィオナは二人とも、妹の身を案じての行動なのだがそれほど心配されているメルヴィアはというと視点を瑞希に固定させたままなぜか顔を真っ赤にさせていた。
フィオナの割りと強烈な蹴りを食らった瑞希は痛みで視界が滲むのを感じながらも、二人の美女に抱かれている美少女という至福の光景に若干表情をだらしなくさせていた。
しばらく後、少し離れたところで騎士や魔術士の人たちがフローラたちと何か話をしている中、メルヴィアは凄惨な光景になっている広場をぼんやり眺めながら、先程までの自分を思い返していた。
徐々に冷たくなっていく瑞希に漠然とした虚脱感を感じた彼女は、気がつけば彼を抱えて長い廊下を歩いていた。どこか夢心地に似た感覚の中、一体自分はどうしたのかという疑問さえ抱かないまま、彼女はただただ歩いていたのだ。
ただ、何をしたのかはっきり覚えていない代わりに何を思っていたのかは覚えていた。
どこか思考が纏まっていない彼女であったが、先程ようやく正気を取り戻した彼女は真っ先にその点を思い出して身悶えていたのだ。
その時に彼女が思っていた事は、当然瑞希の事だ。それも、彼の身を案じるとはまた違う方向で。
真っ先に浮かんだのが『触れて欲しい』という気持ちだ。それは短時間で異常なまでに膨らみ、最終的には大人の境界線に踏み入れるまで大きなものとなっていた。尚も留まる事をしなかったそれは、『愛して欲しい』という気持ちへと擦り代わり、最後には『彼のために』という思いに囚われて一瞬のうちにこの国を根本的に変える計画を練り上げていた。
その第一段階が、あの六つの光の翼。王都に住まう民全員を魅了させるというのがその時の目的だ。
最終的に彼をこの国の王にさせるという算段だった。それは、『国を滅ぼせるなら、その力で国を変えて、彼のために作ったこの国を彼にプレゼントする』という恐ろしい考えから出来上がった。
当初、彼を元の世界に返すという目的を切り捨て、とてつもなく強くなった独占欲と自分をずっと愛して欲しいという気持ちのあまり、彼が自分の側から離れようとしないような環境を作り上げようとしていたのだ。
他人に植え付けられた感情ならまだしも、自分で膨らませた感情は目を背けることができない。異常な状況下とは言え、どうすることもできないぐらいに膨らんだ感情は素直に認めるしかないのだ。
メルヴィアは重々しくため息を吐くと、ポツリと呟く。
「なんという……ヤンデレ」
そんな呟きに隣に腰掛けていた瑞希がぴくりと反応を示した。メルヴィアはそんな彼をじっと見つめ始める。
「もしもの時は私をお嫁さんに貰って下さい」
そして、自分でも本気なのか冗談なのかわからない言葉を口にした。
一瞬目を見開いた彼は、何でもない様子で、しかし気まずげに目を逸らすと軽い調子で言う。
「……。お前、某動画の兄貴と同じ人間だったのか?」
「残念。至ってノーマルでした。その証拠に、フィー姉さまをちょっと口説いたことあります。今すごく後悔してるけど」
「き、究極の姉妹愛……」
メルヴィアはにっこりと笑みを浮かべた。