表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精ふぁんたじー  作者: 不明中のありかさん
第一章 異世界の少女
16/40

第十五話:蒼翼の騎士達

ちょっと文章に自信ないです。自信ないのはいつもですけど

 正午。

 日の光が最も強くなるこの時間帯、王都オルグレンはそれとは違う光で照らし出されていた。

 突如王都上空を覆うように現れた巨大な蒼い光で出来た六つの翼は、まるで蝶が鱗粉を散らすかのように王都を光の粒子で溢れさせていた。

 お昼時ということもあり、最も気が緩んでいたと言ってもいいこの時に現れたそれは十分人々を混乱に陥れる事ができただろう。しかし、実際にパニックを起こしたのはほんの少数であり、ほとんどの人々はその不思議な光景に目を奪われていた。まるで神が降臨したかのようなその神秘的な光景に、人々は酷く感嘆したのだ。

 淡く、儚いその美しさは王都の人々を魅了していった。そして、魅了された者たちは皆一様に身体的、精神的な疲労から解放された。王都に溢れたその光は、人々に癒しを与えると共に人々の心を掴んでいった。

 それは比喩でもなんでもなく、神の加護そのものと言ってもいいかもしれない。

 神秘の光が王都に降り注ぐなか、二人の王女を乗せた馬車と護衛についた騎士たちは突如現れた光の翼の発生源に向かっていた。発生源に近づくにつれ、その先が宮廷であることに気づいた一同は皆一様に表情を青くさせている。その中でも第二王女のフィオナは緊張で表情を強張らせながらもしかとその神秘の翼を見つめていた。


「……メル」


 妹はこの国を恨んでいるのだろう。正確には自分達王族であるのだろうが、復讐を考えているのならばこの国を狙うのは必然と言っていい。あの翼が一体どういう結果をもたらすのかわからないが、この国を破滅へと追いやるようなことになるのだったら最愛の妹に剣を向けなければならなくなる。妹の手を汚させるわけにはならない。そうなってしまっては、最愛の妹を失ったと同じこととなるのだ。

 フィオナは向かい側に座る姉のフローラへと目を向けた。それまでどこか上の空のようだった姉だったが、フィオナの視線に気が付くとしっかりと頷いて見せた。



 王女たちを乗せた馬車は程なくして宮廷に到着した。ひしゃげるように粉砕された門を見て二人は息を飲んだが、すぐに我を取り戻すと馬車を飛び出し、護衛の騎士が位置につくのを待たずに門をくぐった。本来こういう場で冷静さを発揮するフローラもかなり焦っていたのか、先に馬車を飛び出したフィオナの半歩後ろをついて行く形で宮廷敷地内へ入っていく。

 王女たちの護衛に回されたエイルマーは軽く舌打ちをすると数人の騎士に王女たちの後を追わせ、一人連絡係として城へと向かわせた。


「メル!」


 フィオナの悲鳴にも似た声を聞きつけたエイルマーは検問前で支給された盾を手にもつと急いで敷地内へと足を踏み入れた。

 彼がその先で目にしたのは、やはり検問で見かけたあの白髪紅眼の少女。背中から巨大な六つの翼と検問とは異なる服装という違いはあったが、間違いなくあのエルフの少女だった。

 少女は広々とした広場の中心で横たわっている青年の頭を膝に乗せる形で自分たちを迎え入れていた。こちらの存在に気づいていないのか、それとも敢えて無視しているのか。少女はこちらを見る素振りを全く見せず、膝元で眠る青年の頭をただゆっくりと撫で続けていた。

 そんな少女を見てフィオナはどうするべきか迷っていた。何かを伝えようにも何を言えばいいのかわからないのだ。そんな彼女の代弁するかのように、隣にいたフローラが一歩前に出て口を開こうとした。


「きゃっ!?」


 しかし、一歩足を前に踏み出した瞬間辺りに溢れていた光の粒子がフローラの身体を包み込んで彼女を宙へと舞い上がらせた。少女はそれでも彼女たちに目を向けようとしなかった。

 フローラは表情を青くさせた。精霊術士でもある彼女は、周囲の精霊を介して力の流れを見ることができる。その能力で捉えた力の流れと、精霊と繋がることで強化されている勘が彼女自身の『最後』を捉えてしまったのだろう。

 それを見たエイルマーは盾を真正面に構えると迷わず少女へと肉薄する。呆然としていたフィオナが我に返り、エイルマーを止めようと口を開きかけたがそれよりも早く事は済んだ。

 バチン、という何かが弾けたような音が聞こえてきた刹那、彼が持っていた盾は粉々に砕け、かなりの速度で宮廷をぐるりと囲む石壁へと叩きつけられた。幸い彼がそれで死ぬことはなかったが、遠目からでも虫の息になっているのは明らかだった。

 いち早く犠牲になった彼が引き金となったのだろう。フィオナたちの側に付いていた騎士たちは剣を抜くと、たちまち距離を詰め一斉に踊りかかろうとする。が、彼らの剣が届くより大分先に一瞬光が瞬くとエイルマーと同じように全員吹き飛ばされた。ある者は地面に叩きつけられ、ある者は建造物に叩きつけられ、全員が無傷でいられることはなかった。

 それは明らかに自分達を敵だと認識した上での行動だった。フィオナは強く拳を握ると、恐らく次に来るだろうと思われる攻撃に備えようとした。

 しかし、来るはずだった攻撃はいつまで経ってもくることはなかった。


「………あ」


 少女の間の抜けたような声。少女は膝元で横たわっていた青年に視線を落として軽く目を瞠っていた。

 不思議に思ったフィオナが少女の視線を辿ってみると、丁度眠っていたであろう青年が身動ぎするところだった。いや、それだけではない。青年は少女の頭を優しく寄せると――――
















 城内はうるさいぐらいの喧騒に包まれていた。当然だ。正体不明の光の翼が王都全体に妙な光を降り注いでいるのだから。

 所々怒号が聞こえる城内を見回しながら、ユリアは王室騎士団団長に連れられどこかへ向かって歩いていた。どこへ向かっているのかは聞かされていないが、君にしか頼めないと頭を下げられた彼女は渋々訳を聞かないまま前を行く団長のあとに着いていた。


「なんか、すごいことになってますね」


 ただ黙々と歩き続けるだけでは非常に気まずい。そう考えたユリアはとりあえずそう話しかけてみるが、返ってくるのは生返事ばかり。王室騎士団長と少々仲のある彼女は、彼が今何か考え事をしているのはわかっていた為無理に返事を返してもらおうなどとは考えない。

 そうしてしばらく歩き続け、気が付くと度々城に訪れたことがあった彼女でも知らない区域へと足を踏み入れていた。さすがにどこへ連れて行く気なのか聞きたくなった彼女であったが、彼女の疑問はすぐ解決することになる。


「ここは……?」


 気が付いたら一つの大部屋の前まで着ていた。城の奥の奥。もうこれ以上先のないというところにある部屋に、彼女と団長を辿りついた。

 団長は一度ユリアを一瞥すると、意味深な笑みを浮かべてゆっくりとその扉を開いた。

 その扉の先は、一見普通の部屋であった。普通、といってもそれは身分の高い者を基準に当てられたものであり、ユリアにとってはとても豪華な作りの部屋に見えただろう。実際、その部屋に住んでいたものは身分の高い者であったし、それに相応しい部屋であった。

 ユリアはなんとなく『まさか団長……』などと少々相応しくない考えが頭に浮かんだ。団長も団長で少々白い目で見つめてくるユリアの考えていることがわかっているらしく、なんとも気まずげに笑っている。

 団長は開け放った扉を一度閉めると、今度はテラスへと続いている大窓へと歩み寄った。そして、大窓を一気に開けると扉の前で立ち尽くしているユリアへと振り返った。そして、開け放たれた大窓の傍らで静かに膝を着く。


「だ、団長……? 何やってるんです?」


 いきなりの事に戸惑いを感じたユリアは団長に向かってそう尋ねるが、彼は意味深な笑みを浮かべるだけで答えようとしない。いや、ちらりとテラスの方へ目線だけ向けてどうするべきかは答えてくれた。

 ユリアは恐る恐る団長が膝をつく大窓へと歩み寄っていく。徐々に見えてきたテラスの向こう側には、広大な森のような庭が広がっているのが窺い知れた。このテラスから見える光景に何か意味があるのだろうか、と疑問を抱きつつユリアはテラスへとゆっくりと足を踏み入れ―――


「おおおおおおお!!!!」


 突如湧き上がってきた歓声に思わず身を竦めてしまった。おっかなびっくりといった様子で彼女はテラスから下を見下ろす。広大な森を思わせるその庭の手前側、そこにある大きな広場にあろうことか数百人はいるであろう騎士たちがそこに集まっていた。いや、騎士だけではない。中には魔術士や精霊術士も大勢見えた。そのみんなが、それぞれ熱い歓声を上げてこちらを見上げていたのだ。


「え……? は、え……?」


 流石の彼女も目の前の光景を素直に受け止めることが出来なかったらしい。彼女はかつての自分の二つ名を呼びながらどんどん熱くなっていく彼らを見てただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 そんな彼女を現実へと呼び戻したのが、いつの間にか隣にやってきていた王室騎士団団長であるアーマッドであった。


「これを君に」


 そう言って差し出されたのは、立派な紋様が施された一枚のマントと立派な鞘に収められた一本の剣であった。見ると、それと同じ蒼色の4つの翼を持った女神が描かれたマントをアーマッドも身につけている。広場にいる者達もみな、それと同じマントを身に着けていた。ただ、ユリアに差し出されたそのマントには白銀の翼が追加されている。

 ユリアは困惑したようにアーマッドを見上げた。そこにあったのは、凛々しいと言えるほどいい笑顔だ。それを見て、やはりまだ首を傾げるようなユリアにアーマッドは真剣な表情となって真正面から見つめた。


「これから、私たちはこの国に反乱を起こす」


 突然出てきた言葉に、ユリアは唖然となった。王室騎士団のトップである彼が、反乱などと口にしたのだ。これに驚かない人間はまずいないだろう。王室騎士団というのはこの国、すなわち王に絶対の忠誠を誓ったはずの者達が務めるものでその精神の元で働いている彼らは絶対に王に刃向かうようなことなど考えないのだ。

 しかし、アーマッドはそんな彼女の考えを見通しているかのように不敵に笑うと凛とした声で語る。


「仮にも王室騎士団団長である私がそのような言葉を口にするなど絶対にあり得ないだろう。確かにこの国の王には忠誠を誓っている。命じられればどのような者にでも剣を向け、例え死んでも盾になる。だが、絶対的な忠誠を誓わねばならないほどの支配者でもないのだ。君はそんなバカなことを言う私に剣を向けれるか?」


 突然の問いかけに、ユリアは首を横に振るしかできない。実力さも当然のことながら、彼女はアーマッドを尊敬しているのだ。例え戯れであっても彼は絶対に剣を向けない。

 アーマッドは一旦笑みを打ち消し真剣な表情となると何か思いを馳せるような目で言葉を続ける。


「数年前の私が、今ここで君の立場に立っているのならば迷わず剣を抜いていただろう。だが、その数年の間に私は気が付いたのだ。絶対的な忠誠を誓うべき者がいるという事に。……当時の私は、その者がとてつもない大罪を犯したからこの部屋に幽閉されているのだと聞かされた。その者の監視を命じられた私は、一体どんな者なのか勝手に想像しながらこの部屋についたのだが……その想像はあっさりと打ち砕かれることになった。見た目だけではない、内面的にもそうだった。まだ幼かった彼女は、その幼さに見合わず非常に聡明で、私はそんな彼女に一時騙されているのではないかと疑問に思ったことがあったが、それすらも見抜いてたはずの彼女は疑いを向けている私に純粋な信頼を向けていたのだ。それに気が付いた私は一体どれだけ自分を恥じたことか……しかし、彼女はそんな私に笑みを向けてその恥を諭してくれたのだ。その時から、私はまだ幼かった彼女の騎士であろうと誓ったのだ」


 どこか遠い目をしている彼は、当時を思い返しているのだろう。ユリアはそんな彼に何と言葉をかけたらいいのかわからず、ただ彼の言葉を黙って聞いていた。

 もちろん、それだけが絶対的な忠誠を誓うことになったわけではないのだろう。それだけなら、この国の王にも言えることが出来る。だが、それがきっかけとなったのだろうということはユリアにもわかった。


「理不尽な死を約束された彼女は、それを知っていて尚純粋に生を育んでいたのだ。私はその儚い姿を見ていられず、彼女を連れ出そうと考えたことがある。だが、それにいち早く気が付いた彼女は私のそんな気持ちに喜んではくれなかった。それを行った後の私の未来を案じて涙を流したのだぞ? そんな彼女が、馬鹿げた伝承でみすみす命を散らせるその様を黙って見ていられるわけがないだろう」


 次第に言葉に怒りを含み始めた彼はそこで一度深呼吸をすると、固い決意が表れている瞳で真っ直ぐにユリアを見つめる。


「ここにいるものたちは皆、彼女を守りたいという一心で集まっている。そのほとんどが実際に彼女を見たわけではないが、信用たる人物ばかりだ。私たちが胸に刻んだ誓いは唯一つ。『彼女の騎士であること』それだけだ。絶対の忠誠を誓い、彼女の為ならば命に代えてでも守りきる。いや、それだけではだめだ。彼女に涙を流させないため、全員で生きて彼女に仕える。もし、この場に彼女がいたらこれから私たちが行おうとすることに涙を流したかもしれない。だが、それ以上涙を流させないためにも、私たちは絶対にこの反乱を成功させなければならない」

「ですが……たったこれだけでは……」

「わかっているさ。だが、必要以上に血を流させないためにもこの人数までしか動かせないのだ。私たちはただ反乱を起こすのではない。彼女が堂々と生きていられるようにこの国を少し変えるだけなのだ」


 とても強い意志を感じるその言葉に、ユリアは何も言う事ができなかった。いや、反論する気などさらさらない。彼女は彼らの固い決意を理解すると、一度広場に集まったものたちへと目を向けた。彼らはみな、アーマッドと同じ瞳をしていた。

 ユリアは一度深く息を吐くと、改めてアーマッドへと振り返った。

 ここまで固い決意を自分に向けるということは、彼は自分に力を貸して欲しいということなのだろう。もちろん、彼の話に出てくる人物の人となりを思い浮かべればすぐにでも力になりたいと思えるのだが、それ故に赤の他人同然であるだろう自分が彼らに加わっていいのかと思ってしまうのだ。

 だが、彼女のそんな思いも結局は杞憂に終わることになる。


「ユリア。かつて、『白銀の女神』と呼ばれていた君の力を借りたい。私たちの仕える、メルヴィア様の騎士の一人となってほしい」


 彼の口から出た人物名に、ユリアは思わず目を見開いた。だが、それは本当に一瞬のことですぐに真剣な表情となると力強く頷いてみせた。

 アーマッドはほっとしたように息を吐くと、改めてマントと剣をユリアへと差し出す。今度は迷うことなく受け取った彼女は、すばやくそれを身につけるとゆっくりと広場に集まった騎士たちへと振り向く。

 たちまち湧き上がる歓声。かつての呼び名がところどころで上がる彼らは、どんどん熱く力強くなっていく。あまりの白熱さに、ユリアは思わずしり込みして苦笑を浮かべた。


「ここ、一応お城ですよね。ばれるんじゃないですか?」

「何。城内部はほとんどが皆私たちと同じ志を持った者たちだ。それはともかく、先ほどは力を貸して欲しいなんて言ったが、実際には私たちが君に力を預けることになる」


 どこか意味深な言葉を吐くアーマッドに、ユリアは首を傾げた。


「これから彼女を泣かせてしまう私が、彼らのリーダーになることなどできない。だから、この騎士団の団長は君となるんだ」


 彼の言葉に、ユリアは思いっきり目を見開いた。もうずっと驚かされっぱなしな気がするのだが、今この場に置いて一番の驚愕であったと彼女は思う。

 しかし、彼女は不敵に笑うとこくこくと頷いた。傭兵団に入っていた彼女は、一つの部隊を指揮していたこともあるのだ。

 その瞬間から、彼女はかつて『白銀の女神』と呼ばれていた当時の彼女へと戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ