Episode 7
私がスーちゃんと共にルプス森林で採取してきたアイテムを、アーちゃんが真剣な目で様々な角度から見た後に一言、
『次からは採取をするときは絶対に私を呼んでね?』
と何処か威圧を感じる笑みでそう言った。
何でも、私達が採取してきたアイテムは確かにアイテムとしての体を成してはいるものの、その品質自体は最低も最低。
これを使い何かを作ったとしても、本当に最低限の効果しか発揮できないそうだ。
ちなみに私達が採取してきたアイテムは実に5種類。
・キヤの枝
・キヤの樹肌
・赤キノコ
・何かの薬草
・何かの魔力草
というもので、私の【鑑定】のレベルが低いのかきちんとした名称が表示はされなかった。
『まぁ、【鑑定】のレベルさえ上がれば正式名称は見れるようになるし、私も教えられるよ』
「ちなみに、この中で正式名称のものってあるのかい?」
『キヤの枝と、キヤの樹肌はそうだね。どっちもマスターさんがキヤ自体を先に【鑑定】してたから、付属効果として分かるようになってるんだと思うな』
キヤというのはルプス森林に生えている木の名前だ。
針葉樹と広葉樹を1:1で混ぜたようなまさしくゲーム特有の不思議植物で、私が現在いるファニアという国では比較的広範囲で見られるポピュラーなものらしい。
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キヤの枝 レア:N
品質:最低
効果:キヤの木から採れた枝
水気をまだ含んでいるため加工する場合は乾燥させる必要がある
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キヤの樹肌 レア:N
品質:最低
効果:キヤの木から採れた樹肌
きちんと加工すれば防具に使えるほどに丈夫で硬い素材となる
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効果としてはこんなもので、それぞれがこのままでは使う事が出来ないものとなっていた。
他の3種類に関しては、とりあえず放置でいいらしい。
そもそも私の持っているスキルの中にキノコ類や薬草類を扱えるスキルがないため、まずはそちらを取得しなければ何ともならないからだ。
『マスターさんは加工の仕方とか知ってる?……ゲーム内じゃなく、現実でもいいよ』
「まったくもって知らないね。なんかよく物語の主人公が【木工】とかやってるの見て、面白そうだなぁって思って取得しただけだしね」
『わかったわかったよ、おーけー……じゃあとりあえず今のままじゃどうしようもないから、生産系の作業は後回しにしよ』
「まぁ流石になにも設備もない状態で出来るとは思ってないさ。まずはそれらを貸してくれたり売ってくれたりする店を探さないとだからねぇ」
流石に知識や設備がない状態で、生産系のコンテンツを触れるとは毛ほども思ってはいない。
木工に手を出していた物語の主人公たちも、初めはきちんと道具や設備、知識を揃えた上でやっていたのだから。
全くの初心者の私が、突然彼らと同じ所へ行けるはずもない。
「よし、採取してきたアイテムの詳細も分かったよ。ありがとうねサーちゃん」
『いいよいいよー。あ、薬草とかは【調薬】系の薬に関係するスキルを持ってる人に売るといいかも!』
「NPCもそういうスキルは……って、君たちを見れば持ってるのは確定みたいなものか」
『そうだねー。でもこの品質だと街の人には買い取ってもらえなさそうだから、他の『紡手』さんを探したほうがいいとは思うな』
「それもそうか……オーケー。じゃあルプス森林行くときはサーちゃんに採取の仕方を教わりながら回収しようかな」
時間さえ経てば、そういったスキル関係のレベルが上がりプレイヤー達の作るポーション類に需要が出てくるだろうが、現状……というかまだサービス開始して初日のゲームだ。
時間が経つのを待つよりは、安定した品質で採取できるであろうサーちゃんと共に採取をしてNPC住人達に買い取ってもらっていた方がいいだろう。
【木工】用の設備などを借りる場合、どれくらいのゲーム内通貨が必要になるか分からないため、稼げるのなら出来るだけ稼げる方に行動していった方がいい。
ちなみにゲーム内通貨はゲーム開始時に大体5000程貰えている。
単位としてはGらしい。そのまんま金だ。
「そういえばこのゲームってアイテム流通とかどうなってるんだろう。流通制限とかあるタイプのゲームなのかなコレ」
『これ言っても大丈夫なのかな……あ、大丈夫みたい。うん、マスターさんが言う通りアイテムには流通制限があるよ。NPCが販売できる数が決められてる感じかな?ただ、初日って事でかなり販売数はいつもより多くしてるみたいだけどね~』
「成程ねぇ。……ってことは、売るならもう少し後の方がいいのか。うん、集め時だ」
ひとまずの目標として、将来少なくなっていくであろうNPCのポーションに使う用の薬草を大量に採取しておくというものが出来た。
捕らぬ狸の皮算用、といえば聞こえは悪いが……それでもやらないよりかはマシになるくらいにはお金は稼げるだろう。
その後、サーちゃんと他愛のない話をした後にログアウトし、夕飯を食べ就寝した。
私の『Fantasia Online』における初日プレイはこんなものだった。