Episode 1
『――おっと!顔のスキャンが終わったようです!この先に進む前にアバタークリエイトの方を進めてしまいましょう!』
時計ウサギが突然そんなことを言い出し、新たに何やらウィンドウらしきものを出現させた。
そこにはリアルの私の顔が幾らかデフォルメした状態で映し出されており、それを元に様々な数値を弄り回していくようだ。
「これって、君にこうしたいって言えばその通りに弄ってもらえたりするかい?何分細かい調整は苦手でね」
『もちろん可能ですよ!なんでも言ってくださいませ!』
「じゃあ――」
胸を張って答えた時計ウサギに対し、私は要望を伝えていく。
髪の色を朱殷……赤銅よりも若干色の濃い暗めの朱色に、長さは腰まで。
顔の造形自体はほぼ変えず、現実の私が目を瞑ってVR機器を付けている関係上スキャンできなかった眼は、群青色にしてもらった。
他に、スキャン時に生じた各パーツの細かいずれだったりを直し、満足のいくものにしていった。
「うん、こんなものかな。これくらいで大丈夫?」
『そうですね……あぁ、はい!大丈夫だそうです!では次に、途中になっていたキャラクタークリエイトへと戻りましょう!【契約】の決定の次は、細かいスキルの取得になります!』
「ん?【契約】以外にスキルシステムが存在するのかい?」
『はい!これから選んでいただくのは言わば汎用スキル……誰もが取得さえすれば使えるスキルとなります。それに対し、先ほど選んでいただいた【契約】側は専門スキル、とでもいえばいいでしょうか!誰もが使えるわけではなくそれを選んだ人のみが使えるスキル、と覚えていただければ!』
汎用スキルに専門スキル。
中々に覚えるのが大変そうではあるものの、しっかり理解すれば面白そうだとは感じるものだ。
「ちなみに、取得さえすれば……って言ったけれど、ゲーム内で汎用スキルを取得できる機会ってのはあるのかい?」
『それはもう!ゲーム内での貴女様の行動だったり、ゲーム内の住人との交流だったり、クエストミッションでの報酬だったりと、様々な機会で覚えることは可能です!』
「オーケーオーケー。じゃあ今取得できる汎用スキルを見せてもらえる?」
『了解しました!』
そう言って元気よく彼女が取り出したのは、先ほどアバタークリエイトに使っていたウィンドウとはまた別のウィンドウ。
そこには箇条書きで複数のテキストが表示されていた。
……ふむ、こっちもカテゴリ分けされてるのね。結構な数あるし……迷う。
ご丁寧にこちらにも検索ボックスがあるようで、単語さえ入力すれば該当するスキルが表示されるようになっているようだ。
『汎用スキルはクリエイト時点で5つまでしか取得できませんので、ご注意を!』
「りょうかーい。じゃあそうだねぇ……」
……まぁ、こういうときに取るスキルってのは大体皆一緒だよねぇ。
私は検索ボックスに『鑑定』と入力し検索する。
するとやはり存在したのか、名前そのままの【鑑定】スキルが引っ掛かってくれたため、それをまず選択する。
ここに表示されるということは、どこかで取得できるのだろうが……つまりはゲームスタート時に選択しなければ自力で取得できるまでは【鑑定】無しでスタートする事になっていたのだろう。
そんな状況を思い浮かべ、異世界転生系や転移系の作品の主人公達が挙って鑑定だなんだと言っているのが少しだけ分かった気がした。
私だって、知らない土地に何の名称も分からないまま放り出されたくはない。
「あとはー……うーん、フィーリングでいくかぁ。あ、時計ウサギさんはなんかオススメあったりする?」
『私ですか!私のオススメは便利系の【時刻表示】ですかね!』
「ごめん、そりゃそうだよねぇ」
聞いた相手が悪かった。
ちなみに詳細を聞けば、【時刻表示】はその名の通り、視界の隅に現在の時刻をゲーム内、現実含め表示してくれる汎用スキルだそう。
一応、メニュー画面を開けば時刻自体は見れるのだが……まぁ、時計ウサギというキャラクター的にはオススメなのだろう。
兎にも角にも、あと4つパパッと決めてしまうことにする。
「よし、決めた。これで問題ないかな?」
『確認します!……【鑑定】、【索敵】、【木工】、【器用強化】、【視力強化】の5つですね!問題ありません!では最後に、ゲーム内で貴女様が名乗る名前を決めましょう!』
「あぁ、キャラネームのことすっかり忘れてたよ……とと、これで大丈夫?」
私が入力したキャラクターネームを確認した時計ウサギは露骨に怪訝そうな顔をした。
最近のAIはここまで感情を表に出せるのだなぁ、と暢気に思っていれば。
『可能ですが……よろしいのですか?』
「あぁ、大丈夫。というか、これ以外に思い付かなくてねぇ」
『分かりました……では!』
私の返答を聞き、何処か諦めたように吹っ切れた顔をした時計ウサギが指を弾く。
すると、私の作成したアバターが適用されたのか視界の隅に朱殷色の髪が映り込んできた。
『ようこそ、童話達の世界ファンタジアへ!世界は貴女様を……赤ずきん様を歓迎致しましょう!』
時計ウサギが満面の笑みでそう言った瞬間に、周囲の景色が光に包まれていく。
その強烈な光に思わず目を瞑り……次に目を開けた瞬間、私の視界に映ったのは人、人、人。
中世風の街並みが広がりつつも、妖精のように小さい人型の何かが飛んでいたり、小人のような者らが駆けまわっているその光景は、ここが現実ではなくゲーム内なのだと感じさせた。
<童話国家 ファニア 城下町 ニルス>
視界の隅にフェードインした文字は、恐らく今私が居る街の名前なのだろう。
ふと、自身の姿を見てみれば、どこか村娘のような簡素な布の服と動きやすさを重視しているのか、ハーフパンツを身に着けていた。
それに加え、腰からは大判の本がベルトから釣り下がる形で装備されていた。
「……いいね、来たね。ファンタジア!」
小さく、されどはっきりと。
私は笑いつつも呟いた。