Episode 16
「成程、ヘルプの曖昧な書き方はそういうことだったのか」
「私としては、このヘルプの書き方はずるいというかなんというか……確かに、って感じではあるんだけどねぇ」
口喧嘩から帰ってきたスキニットに対し、ある程度かいつまんで【憑依】システムについて私の知っていることを伝えた。
といっても、サーちゃんのスキルについては教えていないし、ルプス森林に生息しているモンスターやボスの事に関しては何も話していない。
その情報に関しては、もう少し後……この話し合いが終わった後に一緒にルプス森林へと挑むことになったらだろう。
現状で話す意味は薄いし、私以外にもルプス森林を攻略しようと動いている者もいるだろう。
スキニットならば得た情報は掲示板に流すだろうし、今話している【憑依】システムについてもリアルタイムで書き込んでいるようだ。
そんな相手に対し、出せる情報は……まぁ少ない。
不用意に情報を渡したら不特定多数に流される可能性がある相手だ。そういう対応をすれば、私が出す情報も減る、ということはスキニット自身もわかってはいるのだろうが……今は情報の拡散を優先したようだった。
それもまた仕方ないだろう。
【憑依】システムは、これまでの……それこそ他のゲームでいえばテイマーのような戦い方をしていたプレイヤー達に対して、大きな衝撃を与えることになる。
「俺なんかは他のゲームじゃ前衛だからな……これで前で戦えるなら、パーティプレイも役割が組みやすいか……」
「だろうねぇ。私なんかもこれを前提に、少し【契約】する人を探してみようかなって思ってる次第だし」
「成程な。……もしかして、これを使って森林に潜ってるのか?」
「あは、開放されたタイミングは知ってるだろう?あそこまでは自力だよ」
「それはそれで色々無視はできないんだが……」
ある程度書き込みが落ち着いたのか、スキニットがそんなことを言ってくるが私としては首を傾げざるを得ない。
何せ、彼の連れている童話の登場人物であるアナ……バーバ・ヤーガは、伝承上の魔女の代表とも言える存在だ。
やろうと思えば、彼も私と同じように【憑依】せずともある程度までは進むことが出来るだろう。
そんな私の視線に気が付いたのか、彼は苦笑を溢す。
「ここまでで分かってもらってるとは思うが、アナは気分屋でな。他に【契約】してるのは支援よりだから戦闘にゃ向かないんだよ」
「……ふむ、だから自分の準備、というか新しく戦闘用の【契約】が結べるまでは、何も知らない初心者が危ない森に入らないようにNPCの真似事みたいな事をしてたのかい?」
「おいおい、結構容赦ねぇな!まぁその通りなんだが……おーいアナ」
『何』
「すまんかったって。とりあえず【憑依】、試させてくれるか?」
『……ん』
アナはそっぽ向きながら、スキニットへ向けて手を差し出した。
彼はそれを優しく掴み、一言小さく「【憑依】」とだけ呟き、光が弾けた。
次の瞬間、私の前に現れたのは黒いローブを身に纏い、杖を持ったスキニットだった。
アナが被っていた三角帽は無く、私が密かに懸念していた「もしかしたら女装のような姿になるのでは?」という心配も現実のものとはならずに済んでいる。
「これが【憑依】か、成程確かに身体の動かしやすさも変わったな……。あぁ、おう。聞こえてるよアナ」
「あ、アナさんの声はこっちに聞こえてないから、そこで何言ってようがバレないから安心してね。ちなみに私がやったのは支援系の子とだけど、1体くらいなら森林のモンスターを自力で倒せたぜ。アナさんなら……どうだろうなぁ」
私も攻撃役と【憑依】すれば、また変わるのだろうが。
しかしそれをするにはやはり現状では手が足りない。
具体的には、私とアーちゃんが【憑依】システムを使って戦っている間、スーちゃんやサーちゃんを守る者がいないのだ。……あぁ、いや、サーちゃんは守る必要があるのかはさておき。
スーちゃんを守る護衛がいなくなってしまう。
サーちゃんに全て任せておけばいいのでは?とも思ったが、本人曰く『生前ならまだしも、今は存在が支援系に固定されている』という答えを頂いているため、私と【憑依】した状態で索敵などをこなすスーちゃんを守るのが今の鉄板だろうなぁと考えている。
「うん、これはかなり使いやすいな」
「そうかい?伝えた情報が役に立ったみたいで何よりだ。……で、なんだけど。1つお願いをしてもいいかな?」
「お願い?……嫌な予感がするのだが」
「あは、大丈夫さ。君にとっても美味しいお話だよ。……一緒にルプス森林を攻略しないかい?」
本来ならば、私1人で攻略したいと考えていた場所ではあるものの。
現状、足りていないピースが多すぎるのだ。
そしてそれの中のいくつかの代わりとなるのが目の前にいるこの男、スキニットでもある。
「断られたら1人でアタックするだけだからね。今までとそう大差ない」
「……少しだけ待ってくれ、他の奴とも相談する」
「おーけぃおーけぃ。じっくり話してきてくれ」
私の目を避けるためか否か。
スキニットが腰の契約の書に触れた瞬間、一瞬目が眩むほどの光を放ち。
彼自身は意識が飛ばされたのか、その場で固まってしまった。




