Episode 11
「まぁ今は使えないスキルだから。とりあえず使えるようになるまでは、予定通りにサポートとか採取とかメインかな!」
『そうなるわね。あ、一度人狼と戦ってみる?』
「……いや、戦えない事はないんだろうけど、武器とかどうするんだい?流石に私も獣相手に素手は無理だって知ってるぜ?」
相手はこちらを殺しに来ている獣。
対して、私はこの世界では言ってしまえば、少し特殊な力を持っているただの人間に過ぎない。
このどうしようもない力の差を埋める場合、どうしても必要になってくるのは武器か策だ。
『大丈夫よ、武器なら【憑依】の影響でサーのが使えるようになってるはずだし……使い方もある程度分かるようにはなってるんじゃないかしら』
「そうなの?サーちゃん」
((確かに、私の武器を取り出してくれれば出来るはず……?いざとなったら私がアシストするし))
「おーけぃ。じゃあ取り出してみよう……ってどこから取り出すんだろう。アーちゃんと同じくここかな」
木で編まれたバスケットの中に手を入れてみる。
すると、見た目以上に底が深く、何か水の中にでも手を入れているような感覚を私の手に伝えてきた。
「これは……所謂アイテムボックスみたいなもの?」
『あー、そういえば説明してなかったわね。そうよ。それぞれのモチーフとなっている収納系の小物。それが基本的にアイテムボックスと同じ役割を持っているの。そこに手を入れた状態で何が欲しいと念じれば……』
目の前で実演してくれるアーちゃんは、バスケットに突っ込んだ手を引き抜く。
すると、その手に持っていたのは、まだまだ新鮮そうな活きた魚だった。
『こうやって、取りたいものを取れるってわけ。マスターのはどうか分からないけれど、私達のアイテムボックスは時間による劣化とかそういうのもないから、もし気になるアイテムとかあったら気軽に呼びなさい』
「了解。……よし、じゃあ取り出してみるか」
突っ込んでいる手をそのままに、頭の中でただ漠然と武器が欲しいとだけ考えてみる。
どんな形状か、どんな種類か。全く知らないものの、何かが手に吸い付いてくる感覚があり。
それを引き上げるようにして、腕を持ち上げた。
「これは……」
『『うわぁ……』』
((……))
――出てきたのは、モーニングスターだった。
何処か赤黒い色をした模様のようなものが付いている、そんな棘のついた鉄球。
確かにダメージも、それこそ攻撃範囲も中々だろう。
しかし、これがここに入っているということはサーちゃんが使っていたということなのだろう。
童女にしか見えない彼女が、使っていた武器。
「……えっと。そうだね、うん。確かに武器が出てきた」
『慣れれば素早い相手にも十分使えるでしょうしいいんじゃないでしょうか』
『確かにね。慣れたら確かに良い武器だわ。えぇ』
((別にいいじゃん……強いじゃんモーニングスター……))
声は私にしか聞こえていないため、他の2人が反応することはない。
そんなに言いたいことがあるならば一度【憑依】を解けばいいと思うのだが……彼女はそれに気が付いているのだろうか。
「とりあえずコレを使っていこうか。……ちなみに、アーちゃんは分かるけど、スーちゃんの武器って何なの?」
『私ですか?これですね』
「あ、短剣なんだ。アーちゃんと同じように遠距離系の武器かと思ってたんだけど」
『私の能力的に、こっちの方がやりやすいんですよ。相手の位置とかも正確にわかりますしね』
「成程ね」
確かに彼女の索敵能力を考えれば、それでもいいのだろう。
もしかしたら隠密……姿を隠す能力にも長けているのかもしれない。アサシンタイプと考えてもよさそうだ。
『私に聞かないのは何でよ』
「いや、聞かなくても基本的に出てくるの銃火器でしょ?」
『失礼な、パイルバンカーだって出てくるわよ』
「使わないから大丈夫」
ある程度、そんな感じのやり取りをしながらもアーちゃんは何処かへと向けて今も銃を撃っている。
今こうして雑談していられるのも彼女が安全を確保してくれているためであるため、いつかは使ってあげようとは思っているものの。
今後しばらくは使わないだろう。