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Episode 10


『ま、マスターさん?』

「ほら、ごちゃごちゃ言ってても仕方ないだろう?ならやっちゃおうぜ。はい、【憑依】!」

『あっ、こらッ――』


スーちゃんに教わった通りに【憑依】と口に出して言ってみれば。

瞬間、目の前で光が弾けた。

否、サーちゃんが光の粒子へと変わったのだ。


まるで契約の書から呼び出すときの巻き戻しのように、光と化したサーちゃんはある1方向へと向かって飛んでいく。

私の胸の中心だ。

恐らく、この世界における魂と呼ばれるものは胸の中心に存在するのだろう。

そこへと光は入っていき、ドクン……と一度大きく脈動したかと思えば、今度は私の身体全体が発光し始めた。


それと同時、着ている服や持っている物が少しずつ変化していくのが分かった。

例えば、まだ防具を作ってくれるNPCやプレイヤーを探していないため、そのままになっていた布の服。

これの上から、何か頭巾のようなものが被され。次いでに何か新しく自分の意思で動かせる何かが頭から生えてきていた。


それと同時、布のハーフパンツはロングスカートへと変わり。

何やら腰の下の方から頭と同じように何かが生えてきているのが分かった。


手ぶらだった手には、木で編まれたバスケットが装備され。

そこで変化が終了したのか、身体の発光は止まった。


<【憑依】が完了しました>

<【憑依】中、『赤ずきん』の所持スキルが使用可能となります>

<【森の中の歩き方】、【不慮の(アンラッキー・)幸運(リフレイン)】、【■■■■】が一時スキルに追加されました>

<【■■■■】は現在使用条件を満たしていないため、使用する事が出来ません>


<<全プレイヤーに対してアナウンスです。【憑依】システムが開放されました。詳しくはヘルプ、もしくは各自【契約】している登場人物たちから話を聞いてみましょう>>


何やら色々とログやアナウンスが流れているがそんなことはどうでもいい。


『成程、そうなるのね……』

『可愛らしいですね』

「な……」


私の姿を見て、アーちゃんとスーちゃんが何やら言っているが今はそれどころではない。

何せ、私の頭と腰辺りから生えてきたそれの正体に気が付いてしまったからだ。


「なんで赤ずきんが【憑依】したら狼耳としっぽが生えてくるんだい!?」

『そりゃあサーがそういう子だからよ』

『ですねぇ。あの子の物語的にそうなってもおかしくないですし』


『赤ずきん』という作品は、様々な展開・シチュエーションがあるものの、多くの場合食べられてしまった赤ずきんとおばあさんが狩人などによって、狼の腹の中から救い出される展開となることが多い。

……これ運営側の悪ふざけだろう絶対!

恐らく、その展開を知っている運営がそのままでは面白くないと思ったのだろう。


帝王切開で取り出される子の如く。

腹の中から取り出された赤ずきんを、それに見立て狼の因子がその身に宿ってしまった不幸な女の子と仕立て上げた。

成程、確かにアーちゃんの言う通り問題はないだろう。

何せ、人狼の力が部分的に使えるのかもしれないのだから。


「……何か、申し開きはあるかい?サーちゃん」

((い、いやー……きちんと言ってなかったのは悪かったなぁーって思うし私も言うの忘れてたなぁーって思ってみたりしてるから赦してほしいかなぁーって……))

「あは。赦すに決まってるじゃあないか……でもこの耳としっぽ、なんかよくわからないけど外れないんだよねぇ……」

((そっ、そっかぁー……あっ、スーちゃんなら何か知ってるかも!))


頭の中に直接響いてくるサーちゃんの声と会話しながら、解決策を求めるべくスーちゃんの方へと視線を向ける。

すると、彼女は顔を横へと振った。


『いや、耳としっぽ(それら)をどうにかする方法なんて知りませんよ。幻術を使えるような人や、そういう偽装に長けた人なら兎も角、私赤頭巾なんで』

「そうだよねぇ……はぁ、仕方ない。慣れるまでは頑張ってみようか」


実際の話、嫌というわけではない。

ただ単に人に見られたくはないだけだ。


単純に今の私は他の人から見れば、赤ずきんのコスプレをしつつ、何故か狼モチーフの耳としっぽまでつけている浮かれポンチでしかない。

しかも周囲には2人の、これまた赤ずきんのような恰好をした少女達。

コスプレ集団か、本気で童話の赤ずきんのどちらかだと思われるだろう。


「所で、1つ使えないスキルがあるみたいなんだけど……あー、サーちゃんはいいや。他の2人何か知ってるかい?」

『使えないスキル?【憑依】した時にサーのスキルが使えるようになったのよね?』

「そうそう。【森の中の歩き方】って奴と、【不慮の幸運】ってのは使えるんだけど、もう1つが使えないみたいでさ。そもそも名前も黒塗りになってて読めないし」

『あぁ、成程。それはその狼耳やしっぽにも関係するスキルですね』

((ちょっとスーちゃん!?))


何やら慌てた声が頭の中で響くものの、周囲には聞こえていないためスーちゃんに話の続きを促した。


『私も詳しい話は知りませんよ?ただ、まぁ。……ほら、言ったじゃないですか。私達ってもう死んでるって。なんで死んだかをお話していませんよね?』

「そうだね」

『まぁ死因っていうのもアレなんですが、多くの……それこそ物語中に死んでいない登場人物たちは、基本的にこの世界で元々暮らしていました。その後、何らかの要因によって死亡し今に至ります』

「それはなんとなくわかってる。スーちゃんは物語中に死んじゃってるから、そこには含まれてないんだよね?」


私がそういうと、少し苦笑いのように顔を歪ませながら彼女は応えた。


『そうですね。……で、登場人物たちの大多数の大まかな死因は戦死になりますね』

「戦死……あぁ」


私はその言葉を聞いて、周囲を見渡した。

物語の悪役が支配する領域。所謂ダンジョンだろう。

そこが今もこうして残っているのに、彼女たちがこうやって霊になっている理由。考えれば単純なものだ。


「君達は、負けたんだね」

『そうなります。悪役たちの支配する領域へと攻め込み、そして負け。死んで各地へバラバラとなって、今へと至ります。その中で永遠に戻ってこれなくなった者もいれば、戦闘に強いトラウマを抱いてしまった者もいます』

「そっか。じゃあサーちゃんはその後者の――『そんな中、1人の少女は伝説に残るほどの戦果をあげています』――は?」


私の言葉を遮るようにして、スーちゃんは語りだす。

その目は何処か、哀愁に満ちているように見えた。


『彼女は、敵を千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、ついには1つの領域を支配していた悪役を討ち倒し、そこには国が興されました。それが今の童話国家ファニア。ファニアの城には今も彼女の銅像が設置されていると風のうわさで聞きました』

「……まさか」

『そんな彼女は、小さな、まだ童女と言っても過言ではないくらいの年齢の子供だったそうです。村娘のような恰好で、血を浴びないためなのか何なのか、頭から肩くらいまでの頭巾を被り。笑顔で敵を打倒してくる姿は、敵に、そして味方にも畏れられていました……』

「……」

『彼女の名前は、赤ずきん。童話『赤ずきん』の主人公にして、この世界における最強最悪の登場人物です』


本当なのだろうか、とそう思い多少ぎこちない動きでアーちゃんの方へと顔を向ければ、うんうんと首を縦に振って頷いていた。


((……))


サーちゃんが何も言わないのも怖いが、何より私はそんな話があったのにも関わらず、今まで知らずにそのまま暢気に森の中を一緒に歩いていたこと自体がもうかなりの恐怖体験だった。


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