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現在進行形の初恋その5

006


「お願いします、舞花のスランプの原因を調査してください!!」


 僕は諸星先輩に依頼内容を伝える。


「詳しい事情を教えてもらえるかしら?」


 僕は諸星先輩に今日起こった出来事や聞いたことをすべて話した。


「なるほどね。はいはい、概ね分かったわ」


「え、本当ですか!?」


「ええ。むしろ、何でこれだけの状況証拠が揃っていながら分からないのかと苦言を呈したいけれど」


 先輩はあからさまにイライラした態度で僕に対して悪態をつく。


「状況証拠?」


「ええ、別に私は安楽椅子探偵というわけではないのだけれど、それでも、こんなの話を聞いただけで、特に推理や捜査なんてする必要もないわ」


「――?」


 僕はいまいち要領を得ない。


「まったく、何でわざわざ依頼を受けてまで後輩の惚気話を聞かなければいけないのかしら」


「惚気話って……。どこをどう聞いたらそうなるんですか?」


『ぷちっ』と明らかに先輩の中で何かが切れた音が聞こえた。


「もう、知らないわよ!!」


 それ以降先輩はムスッとしたまま、何を話しかけても答えてくれず、僕は必死の説得を試みた結果、まともに会話ができる状態になるまでおおよそ一時間ほどを費やした。




「とにかく、依頼は完遂よ。いいわね?」


「……はい」


 有無を言わさない口調でそう告げる先輩に僕は頷くしかなかった。


 正直、舞花のスランプの原因について、僕はまったく目星がついていなかったけれど、目の前にいる諸星先輩の雰囲気はとてもではないけれど、反論できるようなものではなかった。


「本当に鈍感なのね」


 先輩は呆れたように言う。


「――?」


 やはり僕にはよく分からなかった。


「安心しなさい。あなたたちはきちんとお互いに向き合って話ができれば、きっとうまくいくわ。たとえ、それがどんな結末を迎えるとしてもね」


「……そうでしょうか」


「ええ。何か心配なの?」


 先輩はずるい。


 さっきまであんなに不機嫌だったくせに突然こんな風に優しくするから。だから僕もこの先輩に対しては必要以上に心を開いてしまうし、話さなくていいことまでつい話してしまう。


 ――それはまるで、自分でも無意識に閉ざしていた扉の鍵を知らない間に外されていたかのように。


「……不安なんです。舞花とはもう何年も一緒にいるのに。最近の舞花はまるで僕の知らない女の子になってしまったみたいで」


 これは僕にとって嘘偽りない想いだった。


 最近の舞花はとても綺麗で、油断してしまうと、僕は彼女の魅力に飲まれて幼馴染という関係を――家族のように信頼している今の関係を壊してしまいそうになる。


「『知らない女の子』ね。そんなの私からすれば当たり前だと思うのだけれど」


「何が『当たり前』なんですか?」


 僕は尋ねる。


「だってその湊さんって子はどう考えても、もう『女の子』ではないでしょうに。その子はもう立派な大人の『女性』なんじゃないの?」


 先輩にそう言われてハッとなる。


 舞花が変わった、というよりとても綺麗になり、より魅力的になった。それは間違いないのだろう。


「私は職業柄、これでも色々な人たちの人間関係を見てきたわけだけれど、結局どんなに強固な間柄でもその人たちの関係なんて年齢や環境によって変わってくるものよ。


 だから達也君たちも、これまでは今の関係でよかったかもしれないけれど、彼女が『女の子』から大人の『女性』へと変わっていくことで、どうしても今までと同じ関係ではいられなくなってしまうのは当たり前のことだわ」


 悔しいけれど、舞花はとても綺麗な『女性』になった。少なくとも、僕が舞花のことをもうただの幼馴染としては見れなくなってしまうくらいに。


「そもそも、どんなに親しい間柄でもお互いの考えていることをすべて理解しようなんてとても傲慢な考え方じゃない? だって結局は他人同士なんだから究極的には人と人は分かり合えないものよ。


 それでも、ずっと一緒にいたいと思うなら――私たちはお互いのことをきちんと話し合うことで相手のことを理解しようとし続けるしかない。それこそ、一生ね」


 諸星先輩は嗜めるような、でもとてもやさしい口調で僕にそう言った。


「僕に、できるでしょうか?」


 自分でも情けないということは分かっている。分かっているけれど、このとき僕はどうしてもその答えを自分で見つけることができなかった。


 だって、こんなところで簡単に答えが出せてしまうのなら、これまでの舞花との関係が途端にとてもつまらないものになってしまうような気がしたから。


「簡単よ。達也君のやりたいようにやればいいのよ。


 そして、考えて、悩んで、迷って、その上で達也君にとって湊さんがどんな存在なのかを取り繕うことなく、きちんと伝えてあげればいいのよ。


 ――私のときに、達也君がそうしてくれたみたいにね」


「先輩……」


「大丈夫よ。私の名探偵としての直感で分かる。あなたたちはきちんとお互いに向き合って、自分たちの思っていることさえきちんと伝え合うことさえできればきっと上手くいくわ」


 先輩はそう言って僕に微笑む。


 窓から入ってくる夕暮れに照らされたその微笑はあの日砂浜で見たものと瓜二つで、それは僕にとてつもない安心感を与えてくれた。


「先輩、ありがとうございます」


「ええ、行ってきなさい」


 そう言うと、僕は急いで事務所を後にした。


 僕の歩みはとても重く感じたけれど、それでも僕には進む以外の選択肢が見つからなかった。


 ――だって、僕はとても大切な人にどうしても伝えたい想いがあるから。


 僕はもう走ることができない足で、ゆっくりと、しかし確実に歩みを進めて舞花のもとに歩いていった。

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