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現在進行形の初恋その4

005


「やっぱりここか」


 大学のグラウンドを後にして舞花を探し始めた僕だったけど、結論から言えばすぐに見つけることができた。


「……達也」


 ここは駅から十分ほど歩いたところにある公園で、僕たちが小学生の頃、学校が終わってから陸上の練習が始まるまで二人でよく遊んだ場所だった。


 と言っても、時代の流れなのか古い遊具は撤去されており、あの頃と変わらずある遊具は今舞花が乗っているブランコくらいだった。


 僕たちは何か悩んだり辛いことがあったりするといつもここに来ていた。


「隣、いいか?」


「……うん」


 僕は舞花の乗っていない右側のブランコに乗る。


 舞花が左で僕が右、昔遊んでいた時と変わらない、僕たちにとっての暗黙のルールだった。


 しかし、ここまで来ても僕はまだ迷っていた。舞花に何を話せばいいのか決めかねていた。


 結局、何も言うことができない僕はただ舞花の隣に座っていることしかできなかった。


「何も聞かないのね?」


 舞花が言う。


「舞花が話したくないことなら、僕は聞かないよ」


 ――嘘だった。


 本当は舞花のことが、舞花が何を考えているのかが気になって仕方がなかったけれど、それについて僕が問いただしてしまうと、僕たちの関係がもう修復不可能なまでに傷ついてしまうような気がしてしまったから。


 だから結局、僕は舞花に尋ねる勇気が出なかった。


「無理しなくていいよ。どうせ知ってるんでしょ? 私が最近練習に行ってないってこと」


「……ああ」


 それだけしか答えられない自分のことが僕はとても情けないと思った。


 分からない。分からないけれど、今朝のことといい、舞花は何か覚悟を決めているように感じた。覚悟を決めた上で、それでもその先できっと舞花は何かに迷っているのだろう。


 臆病な僕はそこまで考えたところでようやく


「何で練習にいかなくなったんだ?」


 と、舞花に尋ねることができた。


「うーん、最近ね、走っていても面白くないんだ」


 ポツリと、いつもの舞花からは想像できないくらい小さなボリュームで話し始めた。


「面白くない?」


「そう、面白くないの。何で私走ってるんだろうって、最近はいつも悩んでるの」


 舞花はそのまま話し続ける。まるで、何でもないことを話しているみたいに。


「もちろんそんな風に走ってタイムが伸びるわけもないし、それで案の定スランプに突入って感じ。笑っちゃうよね」


「……」


「私って、何で走ってるんだろうね? 何のために頑張ってるんだろうね? もうわからなくなっちゃった」


 舞花はポツリポツリと言葉を吐き出す。


 その姿は昔と同じようにブランコに揺られたよく知っている少女であるはずなのに、今朝と同じくまるで知らない人を見ているようだった。


「ごめんね。わざわざ探しに来てくれて悪いんだけど、しばらく一人にさせて」


「……分かった」


 そう言って僕はブランコを降りて公園を後にした。




 そこからはどの道を歩いていたのか自分でもよく分からないままふらふらと浮浪者さながらな足取りで歩いていた。


 ――ずっと舞花のことを考えていた。


 けれども、それもさっき公園で見た、まるで別人になってしまったかのような舞花の姿を思い出すと、よくわからなくなってしまった。


 そして、気が付くと僕は駅からほど近いところにあるビルの一室の前で足を止めていた。


 入り口のドアの前には『諸星探偵事務所』と大きく書かれてあり、そのドアを僕は強く三回ノックした。


「どうぞ」


 声がしてから、僕はドアを開けて中に入った。


「達也君いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思っていたわ」


 この探偵事務所の主、諸星美空は中央にあるソファーに座ったまま、僕の方を見て言った。


「さて、それじゃあ依頼内容を聞きましょうか」

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