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用済みの名探偵その17

018


 その翌日、諸星先輩は礁湖が経営するコンサルティング会社とパートナー契約を結んだ。


 つまり、先輩は礁湖の会社から正式に探偵として雇われた形となる。自営業の探偵から雇われの探偵にジョブチェンジしたわけだ。


「世間では何でもかんでもAIに置き換えられると思っている人が多いみたいだけれど、結局AIなんてただの統計の結果でしかないからね。要は多くの人々を対象にしたり、大量のモノやサービスを提供することには適しているけれど、それですべてをカバーできるわけじゃないんだよ。


 その中には必ずお義兄ちゃんみたいに大衆という枠から外れてしまうニッチな生き方をする人たちもいるわけで、そしてそういう人たちはやっぱり人間が対応しなければいけないの。だって、その方が安いからね」


 昨日に続いて僕の作ったイカ墨パスタを頬張りながら、ご機嫌な様子で礁湖は語る。


「つまり、警察や大手探偵事務所なんかが相手にしないようなニッチな顧客たちからくる事件の依頼を諸星先輩はこれから受けていくってことか?」


 さすがに二日連続で同じパスタは勘弁してほしいと願う僕は、せめてもの抵抗でレトルトのミートソースをかけたパスタを食べながら礁湖の言うことに相槌を打つ。


「そういうこと。理解が速くて助かるよ」


 そう言いながら、礁湖はまた大盛りのイカ墨パスタが入った皿にフォークを刺して雑にパスタを丸めていく。


「でも、そんなニッチなところで収益なんて発生するのか?」


 僕は素朴な疑問を口にする。


「分かってないな。お義兄ちゃん」


 礁湖はパスタを食べる手を止めて僕に意地悪な笑みを向ける。


「みんなが目を向けるようなところなんて結局はレッドオーシャン、つまり無駄に競争が激しいわけだよ。今回みたいにまだ誰も手を出していないような業界、いわゆるブルーオーシャンを見つけるかどうかが経営やコンサルティングでは大事になるんだよ」


「へー、そういうもんかね」


「うん、そういうものだよ。それに、今回のケースはすでに事務所もあって初期投資はすべて住んでいる状態だからほとんど探偵を雇う人件費くらいしかかからないしね。安い買い物だよ」


 そこまで話し終えると、礁湖は完全にその件については興味をなくしたのか、一心不乱に残りのパスタを頬張り始めた。


 僕はもうすでに食べ終えてしまったのだけれど、礁湖が食べ終わるまで座って待っていた。


 一緒にごちそうさまと言まで、僕たちの昼食の時間は続くのだ。




「あら、海野杜君。こんにちは。今日はいい天気ね」


 僕が家を出て買い物に行こうとすると、少し歩いたところで、突然現れた諸星先輩に横から声をかけられた。


「え? 諸星先輩!? どうしてここに?」


 驚いて僕は尋ねる。


「海野杜君……あ、それだと礁湖さんと被ってしまうわね。達也君にきちんとお礼を言っておこうと思って」


 先輩は少し頬を赤らめながらも決してそれを見せまいとするクールなしぐさで僕の方に歩いてくる。


「そんな、お礼なんていいです。結局あれだけ大見得を切ったにもかかわらず、ほとんどすべてを礁湖に頼ってしまいましたから。だからお礼なら礁湖に言ってやってください」


「もちろん礁湖さんにもお礼は言ったわ。彼女とはこれからビジネスパートナーになるもの。でも、達也君、あなたにもきちんとお礼を言いたかったの」


「先輩」


「達也君、私に生きる選択肢を、私に好きな道で生きる選択肢を与えてくれてありがとう」


 そして先輩はとても美しい笑顔で僕に向かって、


「私、今とっても幸せよ!」


 そう言ってほほ笑んだ姿はとても希望に満ち溢れていた。


 やっぱり、希望を追う者の姿はこうでなくては、と僕はそう思った。


 僕たちは二人で初夏の日差しの中、歩いていく。


 これから本格的に夏になっていくにつれてより日は高くなっていく。それはまるで僕たちの未来を象徴するようだった。


 僕たちの行く末にはとても眩しい光がさしていて、その先に何が待っているのかは今の僕たちにはまだ見えない。


 眩しい季節が、僕たちの前にはきっと待っている。

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