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用済みの名探偵その10

011


「お義兄ちゃんってさ、何で友達は全然できないのに可愛い幼馴染や美人の先輩とはすぐ仲良くなるの?」


 事務所から帰宅し、愛する義妹にただいまの挨拶をした次の瞬間に帰ってきた返答が今のセリフだった。


「えっと、礁湖さん? 何の話でしょうか?」


 僕は一応はぐらかしてみる。


「とぼけないで。お義兄ちゃんがさっきまでずっと美人な先輩の事務所でコーヒーを飲みながら談笑していたことを私はちゃんと知ってるんだから!!」


 礁湖はなぜか不機嫌なまま僕にキレ倒してくる。


「あれ? 礁湖さん? 何で家にいたはずの礁湖さんが僕の行動を把握しているんですかね?」


「……」


「……」


 お互いの間に気まずい空気が流れる。


「さ、最近のグーグ〇マップはお義兄ちゃんの情報を逐一教えてくれるんだよ」


「んなわけあるかぁ!! 礁湖てめぇ『また』勝手に発信機付けて僕のことを監視してやがったな!!」


「お、お義兄ちゃんの位置情報を常に把握しておくのは義妹の務めだもん!!」


「……礁湖、今日という今日は徹底的に家族会議だ。まずはどこに発信機を仕掛けたか教えてもらおうか」


「……イヤだ!!」


 こんな形で完全に平行線をたどりながら僕たち兄妹の家族会議は日が沈むまで続いた。




「悪いけれど、今日のところは帰ってくれないかしら」


 あの後、諸星先輩は僕に対してそう言った。


「分かりました」


 僕は頷いてすぐに鞄を持って事務所をあとにした。


「……ごめんね」


 事務所を出る直前、事務所の中から先輩のか細い声が聞こえた。


 僕は――振り返らなかった。


 事務所から家に帰るまでの間、僕はずっと先輩のことを考えていた。


「いや、違うな」


 実際には先輩のことを考えているようで本当は自分の過去を思い出していた。


『あなたはどうやって過去を乗り越えたの?』


 事務所で先輩が僕に尋ねた言葉を反芻しては過去の自分と比べていた。


「すみません、先輩。僕も本当は乗り越えてなんかいないんです。今でも後悔しているし、今でも――辛いです」


 そんなことを一人、歩きながら口にしていた。


 気がつくと、いつの間にか家の前まで帰ってきていた。


 もちろん答えは出ないままだった。




「で、結局お義兄ちゃんはそのシンパシーを感じる美人な先輩に篭絡されてしまいました、と。つまりそういうことなんだね?」


 先ほど、ようやく家族会議が終了して二人で夕食を食べながら礁湖は明らかに不機嫌そうな顔で僕に話しかける。


「礁湖、お義兄ちゃんの話はちゃんと聞かなくちゃだめだぞ? さっきの話のどこに僕が篭絡されたなんて結論に至るんだよ」


 僕は礁湖に今日起こったことを一通り話した。


 僕たち兄妹にとって、一緒に夕食を食べながらその日に起こった出来事を話し合うのはこれも暗黙のルールとなっていた。


「それで? 結局これからお義兄ちゃんはどうするの?」


「――? どうするとは?」


「だ、か、ら、どうせお義兄ちゃんのことだからその先輩をこのまま放っておけないんでしょ? だからどうするのかって聞いてるの」


 さすがは我が義妹といったところか。


 僕の考えていることなどお見通しだった。


「……何とかしてやりたいとは思うよ。でも、僕にはきっとどうすることもできない」


 実際、諸星先輩がこんな状態になっているのは単純に社会においてニーズがないことが原因なのだ。


 そんな問題を僕みたいな一介の大学生がどうこうできるわけもない。


「でも、それでも何とかしたいんでしょ?」


 礁湖は相変わらず不機嫌そうに僕の方を見て言う。


「……助けたい。あの人は僕と同じような境遇の人だから、図々しいかもしれないけれど、それでも助けてやりたいんだ」


「そう。じゃあ私の方でも何か考えておくから、お義兄ちゃんはもう少しその先輩の話をちゃんと聞いてあげたら?」


「話を聞いてあげるって、そんなことでいいのか?」


「いいに決まっているじゃない。だって他でもないお義兄ちゃんがそうだったもん。


 お義兄ちゃんだって一人で立ち直ったわけじゃないでしょ? 私や、悔しいけど、あの幼馴染のサル娘のおかげで何とか立ち直れたんでしょ? きっとそれは先輩も同じだよ。


 一人ではどうしようもなくなってしまったときだって、周りに自分の味方が誰かいてくれればそれだけで人は救われることもあるの。


 私もそうだったし、お義兄ちゃんだってそうだったようにね。


 だから、今度はお義兄ちゃんがその先輩の味方でいてあげることが、きっと先輩を勇気づけることになるよ」


 そこまで話し終えたところで、礁湖はちょうど夕食をすべて食べ終えた。


 そのころには少し機嫌も直ってきたのか先ほどよりも表情は柔らかくなっていた。


「ありがとな、礁湖」


「気にしないで。何と言っても私はお義兄ちゃんの可愛い可愛い義妹だからね。ちなみにチャームポイントはお義兄ちゃんと血が繋がっていないところだよ」


「確かに、お前は最高の義妹だよ」


「えへへ、知ってる」


 礁湖は僕の大好きなお日様のような笑顔で僕に笑いかける。


「さて、じゃあごちそうさまするか」


「うん」


 そう言って僕たちは手を合わせて


『ごちそうさまでした』


 と、いつものように声をそろえて言った。

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