「だいたい、まいかい、いつも同じメンバーと再会」
どんがらがっしゃーん!
とても小気味のいい音がする。私の渾身のタックルが彼を襲い、見事なまで吹っ飛んだ。こう見えても私は今までタックルなんてことはもちろん暴力的なことなんてしたことなかった。
なんでこんなことしちゃったんだろう。全然わかんない……でも一つだけいえることがあるんだ。こんなこともされても彼は全く怒ってないってこと。わかるんだ。だって、真顔で立ち上がってるもん。
目が合う。本当なら謝らないといけないかもしれない。でも、私は直感していた。彼は尋常じゃないってこと。だったら、こっちも尋常じゃダメ。
認めたくはないけど、
私は、
彼に恋してるのかもしれない。
私は、アカペラで。音も何もなく。ただ、声をあげた。それは、神様がくれた歌声。
「空から何かが落ちてきた あんたとの出会いはまるでアレサ・フランクリンの歌声を聞いた時のよう 引き込まれた 落ちていった ただのディーバ扱いならやめて? 二人の共通はソウルミュージック 文系な私と体育会系なあなた」
ああ、自分でも何を言ってるのかわかんない。めちゃくちゃ。でも、気持ちいい。彼は、サングラスをしているから何を思っているか読めない。
引いてる?助けてくれたのに。私は、バカなことをしている?
彼は、そっと、ポケットからマイクを取り出した。どこにも繋がってないマイクロフォン。それは、ゴールデンマイク。スピーカーに繋がってないのに。私にはわかっていた。きっと、これは心に直接響き渡る58だと。
「俺はRAPしかできないB−BOY そんな俺の偽善行為 なんとなく助けただけの女から振るわれる猛威 さながらソウルシスター少尉 やばさは脅威 甘さは糖衣 まるで強引な歌声から強靭なドーピング 効果が感じられるお買い得商品 俺はDO−z 時代の寵児 お前となら飲むのも悪くねぇNIGGAいブラックコーヒー」
がむしゃらで、強引で、ダサくて、そして最高なライミング。HIPHOPも、R&Bも関係ないや。今、ここにあるのは、ビッチ丸出しディーバと頭振る馬鹿ホーミー。
私は、なんでだろう。理由はわからないけど泣いていた。助けられたから?違う。きっと、こいつが底抜けの馬鹿だからだ。
DO−zは自販機に歩いていくとコーヒーを二本買って一本を私に投げてきた。私はそれを受け取るとその場であけて飲み干した。
「ごちそうさま」
「こちらこそ」
あ、普通に喋った。普通に喋れるんだ。私が少し驚いて彼を見ていると、彼はその視線に気付いたんだろう。ズレてないサングラスをかけなおし。マイクを握ってこう歌った。
「お前のフロウはまあまあだ 芽生えてきたぜ様々な 気持ちがな」
そう言って彼は私にマイクを投げてきた。
ゴールデンマイクを。
「やる。明日の晩。またここで。」
そういうと彼は立ち去っていった。駅のほうに。なんだかんだ、電車で帰るんだ。ちっともかっこよくない。でも、かっこいい。
私は、また明日ここに来るのかな。
馬鹿な自分への質問。質問するまでもない。きっと、来るのだろう。このマイクとコーヒーを持って。