韻を踏みながらやってきた
駅前、いつものところ。バスのロータリーの花壇のとこ。ここが私のベストスポット。マイスペース。私はウキウキとまるで小学生のように心をときめかせながらラジカセを置いた。
時間はまだ15時。路上ライブするにはまだ少し早い。今日は平日だしね。
といっても、今日はライブ目的じゃない。目的は……あの時代錯誤なラッパーを見つけること。尋常じゃないぐらい、あいつのことを意識してる。あいつは理解不能だけど、なんか、気になるんだ。
路上に座る。地べた。ひんやりと冷たい感覚がお尻から伝わってくる。
夜だと、酔ったサラリーマン風のおじさんが声をかけてくる。ひどいのは、いきなり「いくら?」とかって聞いてきたりする。
値段?おいおい。私は売り物じゃないっての。私が陳列棚に陳列召されてる果物にでも見えたのかなおじさん。
ちょっと、早く来すぎた感がいなめない……。
あーあ。暇だなぁ。
私は、ぼんやりと雲を眺めながらコンビニで買ったコーラを一口飲む。すると……
「おい。久しぶりだな。」
声をかけられてビクリと声の主を探すと……
そこには私が一番会いたくない相手。
中学時代に一度だけ付き合ったことのある田中優一が立っていた……。
「……なんのよう?」
「おいおい。久しぶりだってのになんだよ。その態度。」
「あんた、学校は?」
「お前だって行ってないだろ?ほんと、お前学校ぐらいちゃんと通えよ。ばかになんぞ。」
是非、ほっといてほしい。
「なんか用があるの?」
「別に。見かけたからよ。ちょっと声かけただけだって。」
「じゃあ、私は話すことないから。どっか行って」
「んだよ。冷たいな。いいじゃねぇか。俺、まだお前のこと好きなんだぜ?」
こいつ……許されるなら殺したい。
「どっか行って!」
「でけぇ声出すなよ!なあ、こんなとこだとあれだしよ。ファミレスにでもいかね?」
「いかない」
「お前まだ浮気されたこと怒ってるの?」
いかん。こいつ、殴る。
私がそう決意したときだった。
「ちょっと待てぃ!そっと抱けぃ!」
韻を踏みながら、あいつがやってきた……。