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〈黒〉2

 おそすぎる朝食はシリアルとヨーグルト、先日のあまりもののフルーツサラダ。

 プレーンのシリアルとヨーグルトを混ぜてはちみつをかけながらぼんやりとした目で千夜子はテレビを見ていた。足元ではクロミネがウェットフードを食べ終わっている。

 俳優の何股にもわたる浮気がニュースになっている。


「この人、だれ?」

「最近売れ始めていた俳優だな。たまにドラマに主人公かその次ぐらいの役どころで出てくる」

「ふぅん…」


 聞いた割には興味なさげに返事をしてシリアルを口に運ぶ。その所作は事務的だ。

 クロミネもそれ以上は説明せず、黙って二人でニュースを見ていた。カンザス州に雨はしばらく降らないらしい。

 食べ終えてしまうと千夜子はさっさと食器を片付けた。しばらくサボっていた食器の山を見て少しいやそうな顔をした後に渋々と洗い始める。

 それが終わると洗濯機を回す。30分後に終わることを確認してからコードレスの掃除機を持ち出してリビングにまんべんなくかけ始める。


「おい」

「えへへ」


 途中、クロミネの尻尾を吸おうとして怒られた。お約束のようなものだ。

 ある程度綺麗になると自室に戻り、武器の点検を始める。家事のすべてをほったらかしにしても武器だけはきっちりと管理をしているので不備はない。

 日本刀を鞘から抜いてすがめる。

 わずかに刃こぼれがあることに気づき眉をひそめた。


「ボスー」

「なんだ?」

「刀、そろそろかも」

「見せろ。――ああ、これはそろそろだな。今日はいけそうか」

「ん、だいじょうぶだよ。最悪ナイフあるから」


 鞘の中に刃を収めると、内側にクッションがあるアジャスターケースの中にしまう。仕事道具の入ったボストンバッグを手にしてリビングに置いた。

 ちょうど洗濯機の終了を知らせるメロディが鳴ったので取り出しに行き、室内の洗濯物を干すエリアで服を吊っていく。

 その間、クロミネはだらだらとソファの上でニュースを見ていた。


「おうちのこと、終わりです!」

「ベッドメイキングは?」

「めんどくさいのでパスします!」

「やれ」


 仕方なく荒れたベッドを整えベッドスプレッドをしわのないように広げているとドアチャイムが鳴った。

 千夜子は慌ててドアまで走り、念のために小窓から相手を確認する。

 金髪の、筋肉質で体格のいい女だ。強気な瞳が弧を描いている。

 鍵を開けてドアを開くと千夜子は軽く跳躍して女に抱き着いた。


「アンナ! おひさしぶり!」

「おー、なんだ? 今日のチヨはずいぶん甘えっ子じゃないか」


 アンナと呼ばれた女も千夜子の背中に腕を回し、その場でぐるぐると回る。

 きゃあきゃあと楽しそうに千夜子が悲鳴を上げた。


「グッドイブニング、アンナ。相変わらず柔らかそうな部分がない身体しているな」

「よお、快調だな4WD。アタシのベロは柔らかいがね。試してみるか?」

「冗談じゃない。ゴリラとキスする趣味はないもので」

「アタシも犬とする趣味はないんだ。残念だったな」


 あとから出てきたクロミネと言葉の応酬をかわすとアンナは千夜子をおろす。

 声をかけられずとも分かっているといった風に荷物を取りに行った千夜子の背中を見送りながらアンナはクロミネと目を合わさないまま口を開いた。


「少し痩せたみたいだ。ちゃんと食わせているのかい、クロ」

「当然だ」

「彼女、不眠症は」

「継続している。起床時間にもだいぶバラツキがあるな」

「そうかい」

「最近忙しかったのもあり食欲不振が目立っている。その結果が体重の減少だろう」

「あんたじゃセラピードッグにもならないか」

「これでも毎日マイナスイオンはふりまいているんだがね」

「二酸化炭素の間違いだろう。黙ってりゃ愛らしい犬っていうのに」

「素直に受け取っておく」


 千夜子が戻ってきたのを見て、二人は会話を終わらせる。


「なんの話をしていたの?」

「明日の朝飯の話。チヨ、支度は出来たな?」

「ん!」


 人殺しのための道具を持ち、彼女はにこりと笑った。


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