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『運び屋』と『殺し屋』4

□〇□


「死ぬかと思った」


 ハンドルを握りしめながらレオナルドはげっそりとした様子で言った。

 助手席に座り、膝の上にクロミネを乗せた千夜子は目を瞬かせる。仮面は取り去り、代わりに帽子を深くかぶっていた。


「どうして?」

「どうしてって…。ああいう人の言葉を遮るとか、砕けた口調で話すとか、あんまりしちゃいけないんだからね」

「そっか。気を付けます」

「お願いします」


 ぺこりと意味もなくふたりは頭を下げあった。

 ただ、あの場で保護者(せいぎょ)役のクロミネが黙認していたところを見ると良しとしているのだろう。

 最悪殺し合いになってもいいぐらいは考えていたのかもしれない。『殺し屋』の中には本当に殺ししか考えていない社会不適合者もいるという。社会不適合だからそんな道を選ぶというのもある。


「ともあれ無事に終わったことですし報酬の話もしないといけませんね。ミスタークロミネ」

「まずはこのつまらない道を越えてからだな。この時間だと街につくのは夕飯ぐらいか」


 遠回しに奢りを要求されていることに、レオナルドは苦笑した。

 良好な付き合いを考えれば夕飯代ぐらい安いものだ。


「…そういえば、チヨコの偽名って何からとっているの?」

宝石ジュエリーだよ。ボスがつけてくれた」

「そうなんだ。ダイヤモンドぐらいしか宝石は知らないなぁ…」

「ボスは昔はオブシディアンとか呼ばれていたんだよね」

「ああ。長いし嚙むからって不好評で、今はもっぱらクロミネだな」

「へ、へぇ。なにか偽名に決まりがあるんですか?」


 千夜子が執拗に耳をいじるので頭を振って抵抗の意を示すクロミネは、少し考えるそぶりを見せた。


「裏社会の住民ならちょっとは『殺し屋』について知っておいたほうがいいぞ。仲間から聞いていないのか」

「親父からは少し」

「どこまで」


 レオナルドはちらりとクロミネを見る。

 黒柴は千夜子の膝の上で耳だけを彼のほうに向けていた。


「色の名前がついた『殺し屋』〈色彩〉の組織は五つあると。〈赤〉〈青〉〈黄〉〈紫〉、そして〈黒〉」

「それから?」

「本当は七つあったけれど、ええと、七、八年前の組織戦争で減ってしまったとか」


 どれだけ壮絶なものだったのか、レオナルドには分からない。なにがきっかけだったのかもレオナルドの父親は話さなかった。

 そういえばその時期やたらと物騒なニュースが流れていたぐらいの認識だ。つまるところ、一般人の目に触れるほどのものだったというわけだが。


「それぐらいか」

「そうですね」

「補足としては、千夜子や俺のように色に基づいた宝石を仕事ビジネスに使うことが多いな。おもに幹部あたりが」

「ああ、なるほど」


 言葉が途切れる。

 千夜子は会話には加わらずにただ唇に笑みを乗せたまま黙るだけだ。

 レオナルド的には片手で数えるほどにしか接触していないながらそれなりに気になっている彼女とお話がしたいのだが、タイミングと話題が悪すぎる。おとなしくクロミネと話すしかなかった。


「親父さんは〈黒〉のことを何と評していた?」

「……」

「悪口だな」

「ええ、まあ…」


 レオナルドは歯切れ悪く、肯定した。

 彼の父親は何かあったら〈黒〉を頼れと言っていた割には罵詈雑言が多かった気がする、と軽く回想した。結果的に頼ってしまったが。


「だろうな。散々振り回したから」


 〈黒〉のボスは笑う。

 クロミネと、千夜子(オニキス)

 実質的にはこの二人だけが〈黒〉の『殺し屋』であった。

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