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幼少期、精進す③

 声のした方を振り返ると、そこにいたのは同い年くらいの女の子だった。真っ赤な髪を頭の両側で縛ったツインテールで、ドレスも赤い。ドレスには所々に宝石が散りばめられ、眩しいくらいにキラキラと光っている。まるでバラのような少女だった。十年もすれば、母さんにも劣らぬ美人となるだろう。


 彼女はドレスの裾をつまむと、優雅に頭を下げる。


「お初にお目にかかります、シリウス=クローバル様。本日はお誕生日おめでとうございます。またクローバル家の栄華のお噂はかねがね伺っております。貴家の繁栄の一端を本日こうして拝見することが出来ましたこと、真に嬉しく存じますわ」


 僕は彼女のの口上を聞きながら、半ば呆気にとられていた。僕は前世で17歳だったので現在合計22年生きているわけだが、叡智に確認したところ彼女は正真正銘の六歳らしい。その年にしてこれだけしっかりしているのは英才教育の賜物だろうか。やはり貴族社会はいろいろ大変なようだ。


 すると彼女は一瞬首を傾げたが、すぐに納得したように口を開いた。


「自己紹介もせずにいきなり申し訳ありません。私は――」


「いえ、存じ上げておりますよ」


 というか、さっき叡智から教えてもらった。向こうはこちらを知ってるのにこちらが知らないのは失礼かと思ったので、彼女の情報を聞き出したのだ。


 そして先ほどの彼女の口上を参考に、僕も彼女を褒めちぎってみる。


「イリス=ハートフル様。父と友好の深いハートフル子爵のご息女で在らせられる貴方様の美貌は日々の世間話の中でもよく耳にするほどでございます。ご本人のお姿をこの目で拝見でき、本日はこの先の人生でも指折りの誕生日になったと自負しております」


 ……とこんな感じでいいのかな? 確認だけど、イリスさんが美人って噂はちゃんとあるんだよね?


――回答。肯定です。加えて言えばハートフル家は代々美形の家系で、それ故に優秀な血を好むクローバル家と関わりが深いのも事実です。ハートフル家の息女のうちから貴方の結婚相手が選ばれる可能性も高いです。


 へ、へぇ……。そうなんだ。それはあまり聞きたくなかったかな。まあ、そりゃそうだよね。貴族は基本政略結婚だよね。両親が19で結婚したとか言ってたからなんで家を追い出されてる時に結婚出来たんだって思ったけど結婚だけは親が決めた人としっかりやってたんだろうね。


 まあ、イリスさんみたいな美人な人と結婚できるなら男としては文句はないんだろうけどさ。


――回答。部分的に肯定です。


 いや別に今のは疑問でもなんでもなかったんだけど……。



――確かにイリス=ハートフルは、ハートフル家の歴史の中でも指折りの容姿を持つと言われています。ですが――


 叡智の話を聞きながらイリスさんの様子を確認する。彼女は眉毛と口元をヒクヒクさせて、なんだか微妙な表情をしていた。


――ですが、イリス=ハートフルは一度心を許すとかなり我儘になるようで、それが現ハートフル家当主の悩みの種でもあります。今の表情も、褒められたために調子に乗って高圧的な態度をとるのを抑えているのでしょう。


 なるほど、それも聞きたくなかった。まあでもちょっと安心したよ。子供は我儘なくらいが丁度良いからさ。雪子だって成長してからは僕に気を使っていたけど、幼いころはよく反抗されてたし。まあそれも含めてかわいい妹だったわけだけどさ。


 そんなことを考えていると、父さんが僕のもとへやってきた。


「お父様、挨拶お疲れ様でした。パーティーも皆様楽しんでおられます」


「うむ」


 父さんは短く返事をして頷く。とそこで、イリスさんの存在に気付いたようだった。


「レッドの娘と一緒にいたのか。これからも何かと縁もあるだろう。仲良くするといい」


 ちなみにレッドというのはイリスさんの父親の名前だ。代々の家のつながりだけでなくレッドさんと父さんは馬が合ったようで、よく家に呼びあっては飲み明かしていた。


 イリスさんは父さんにも先ほどと同じようにぺこりと頭を下げていた。


「ではシリウス、行くぞ」


 父さんにつられて挨拶回りへと向かう。父さんが派閥のトップなだけにほとんどの貴族の方々が向こうから挨拶しに来ていたが、それでも全員に顔を見せるためいろいろ動き回ったりした。

 僕は基本父さんの横でニコニコしているだけだったのだが、たまに話しかけられると叡智の力を駆使してそつなく挨拶を終えたのだった。


◇◆◇


 挨拶を終えたのでもう引っ込んでもいいかと思っていたのだが、一応は僕が主役なので出来るだけ残っているようにと言われてしまった。よって僕は特にすることもなく、まだ残っていた料理をつまんだりしている。冷めているがどれも前世の僕では食べられなかった料理だ。ついお腹にはいるだけ詰め込んでしまう。


 同時に魔力制御の練習もしていた。今の段階まで来ると後は息をするに無意識に出来るまでの反復なので、空いた時間とかに体内の魔力を動かす癖をつけているのだ。


 そんなことをしていると再びイリスさんがやってきた。彼女が言うにはもう少しお話がしたいとのことだったが、家同士の間柄こういうことも必要だと親に言われたのかもしれない。

 少しの世間話のうち、彼女は夜風に当たりたいと言い始めた。僕もそろそろ人の熱気に充てられていたので、その申しでを受け入れることにした。


 夜空には大きな満月と星々が輝いていて、夜だというのに外は明るかった。あまりの美しい光景に息を飲んだが、イリスさんにとってはそれほど珍しくないのか気にせず先を歩いていく。


 表情は常に笑顔で機嫌は良さそうだし話も話題が尽きないので、仲良くなる作戦は成功かななどと彼女についていきながら考えていたのだが、気付けば人気のない屋敷の裏手に回っていた。


「イリス様、そろそろ戻りませんか。大人の目が無いと危ないですし」


「あら、クローバル家始まって以来の天才ともあろうお方がずいぶんの腑抜けたこと言うのね」


 そこにいた彼女はもはや別人だった。


「えっと……イリス様?」


「貴方も随分と優秀みたいだけど、私の方が上よ。貴方、私と勝負しなさい」

 

 

 

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