おれのごしゅじんさま
おれのごしゅじんさまは、「あにめ」っていうやつとか「おとめげえむ」っていうやつがだいすき。
いつも、おっきなごほんをひろげて、おれといっしょにそれをよむ。
たくさんの“え”がかいてあったり、ひとがたくさんうつっていたり。
ごしゅじんさまは、しあわせそうなかおをしてそれをよむ。
おれはよくわからないそれをごしゅじんさまがよんでるからよむ。
「しろー。もし、しろが生まれ変わったら、〇〇さまみたいなイケメンになって私を迎えに来てねぇー」
いけめん…?
ねぇねぇごしゅじんさま。
いけめんってなんですか?
「にゃぁーにゃぁー」
「ふふっ。しろ、かわいい」
……おれの“こえ”はごしゅじんさまにとどいているけど、“ことば”はとどいていないみたいで。
いつもいつも、おれのしつもんにごしゅじんさまはこたえてくれない。
「にゃーん」
いつかは、“こえ”だけじゃなくておれの“ことば”も、ごしゅじんさまにとどくのかな。
~~~~2年後~~~~
「しろー、散歩行こー」
ご主人様は、今日も俺を抱いて散歩に出かける。
歩けなくなって、半年が経った。
獣医が言うには、寿命が近いのでは、とのこと。
……ちぇ。
もう少しこの人のところに居たかったのにな。
「にゃぉーん」
「どうしたの、しろ。疲れた?もう帰ろっか?」
違うよ、ご主人様。
まだ疲れてないよ。
俺は、ありがとうって言ったんだよ。
出会ってくれてありがとう、って。
いっぱい遊んでくれてありがとう、って。
~~~~また更に2年後~~~~
しろが亡くなって今日で1年。
真っ白な毛並みに碧の瞳。
とても美人ないい猫だった。
2年前には、既に歩けなくなるぐらい弱ってて、ご飯も殆ど食べられなくなっていたのに、いつも、いつも、私に話しかけてくれた。
「にゃーん」って。
なのに。
ねぇ、しろ。
今あなたはどこにいるの?
天国で私のこと見守ってくれてるのかな。
それとも、もう何処かで生まれ変わってるのかな。
「ねぇ、おねぇさん。きみ、可愛いね。俺たちと遊ばない?」
しろのお墓参りの帰り道。
うるさい連中に絡まれる。
無視して通り過ぎようとしたら、手を掴まれた。
「やめてくださいっ」
「えーーw可愛いおねぇさんのこと、みすみす逃すわけないっしょー」
こういう輩がいるから男って嫌い。
「ほらほら、もうホテルの予約取ってるから、俺らと行きましょーよー」
ますますやばくなってきた。
……そのとき。
「あの、すみませんねぇ、お兄さん方?俺の彼女、どこに連れて行こうとしてるんです?」
灰色がかかった碧の瞳に、真っ白な肌と髪。
「……え?」
気が付いたときには抱きしめられていた。
「ほら、行くよ、俺の可愛い子猫ちゃん。」
そう言われた私は、手を引かれて、私の家まで連れて行かれた。
……私さ、このイケメン君に、家どこかっていうの、教えてないんだけど……。
……この人、ストーカーなのかな……。
ま、イケメン君だから許すけどね⁉
「……ねぇねぇ。君、誰なの?」
気になったことは少しでも早く聞く!
これ、鉄則‼
そのイケメン君は、少し困ったような微笑みで、こう答えた。
「しろ、です。
……佳奈が飼っていた、あの、白猫の、しろ」
「………へ?」
いやいやいや、ちょーっとまてよ?
しろは、去年の今日に亡くなったんだよ⁉
しかも名前‼
なぜに呼び捨てなんだよ⁉
「佳奈、言ってたじゃないですか。“生まれ変わったらイケメンになって、私を迎えに来てね”と」
「……言ったっけ、そんなこと」
「はい。まだ、アニメ好きだった時に」
「あぁ……あのときねぇ……」
そうだ。思い出した……
……なにしてくれてんだよ、過去の私は⁉
長年可愛がっていて、わざわざ私のいった願いを叶えるためだけにイケメンに生まれ変わって、会いに来てくれた、とてもいい元、白猫に。
……なんちゅうこと言ってくれてるんですか⁉⁉
「あの……俺が会いに来たこと、怒ってます?」
しょぼんとした表情でしろは聞いた。
「ううん。怒ってないよ。ただ……」
「ただ?」
「過去の自分に怒りを覚えているだけ」
「……俺にとって佳奈は、ご主人様で………むかつく人でした」
「……なんで?」
「質問しても答えてくれないし、話しかけても全然違う解釈するし。まぁ、そもそも猫語を理解しろっていう方が無理な話だったんですね。
俺、人になって初めてわかりました」
………なんか色々どすどす心に刺さってる気がするけど、気にしないことにしよう、うん。
「猫語、ね……。
あ、最後の散歩のときに“にゃぉーん”って鳴いてたでしょ?あれは、わかってたよ、なんて言ってるのか」
うん、本当は専門家の人とかに聞いて回ったんだけどね。
「……ありがとう、でしょ?」
「うん。……やっと………やっと、声だけじゃなくて、言葉も届いた……ありがとうって言ってたの、わかってもらえてたんだ………よかったぁ…」
そう言ってしろは泣き出した。
とりあえず、泣いてるしろを家に招き入れる。
~~~~5分後~~~~
泣き止んだしろが顔を上げてこう言った。
「佳奈。やっと、俺、貴女に伝えることができる」
慎重な面持ちで、私に言った。
「俺、佳奈のことが………」
The end