背負う覚悟_▼
NPCのザインさん(普段はPC【http://lhrpg.com/lhz/sheets/026271.html】)
Fさんの夢追い中毒共の冒険【http://ncode.syosetu.com/n2875ci/】より、夢見る弩砲騎士さん【http://lhrpg.com/lhz/sheets/002164.html】をお借りしています。
『ああ ああ 主様』
耳から離れない、少女の声がこだまする。
忘れることの出来ない声が。
背負う覚悟_▼
晴れない気分のまま、街の外へ向かって歩いて行くと、何やら賑やかな声と戦闘音が耳に届く。
訓練でもしてるのかと思えばやはりそうだった。
あの外見で、アキバで知らぬ者はいないだろう、守護戦士の夢見る弩砲騎士さんと、他にも数人…有名どころのメンバーが対人戦を行っている。また対人戦で腕の磨き合いでもしているのかと思って見ていれば、何時ものパーティ戦ではなさそうだったので、また新しいルールでも作ったのかと興味本位で声を掛けにいったら。見学だけのつもりがあれよあれよと言う間に、弩砲さんと戦うことになってしまった。
いるだけ職、TVのび太…などとまで揶揄される付与術師が、タイマンで守護戦士と、ねぇ…いや、策がない訳じゃないけれど。全く知らない相手が最初より、このあいだの模擬戦でビルド傾向が分かっている弩砲さんとだからまだマシだろう。
メニューを開き、装備の変更と、呪文の編成を攻撃寄りにしてショートカットへ登録し直していく。
……守れなかった。助けられなかった。その後悔は、今も僕を…僕だけじゃない。
あの時のメンバーの心を蝕んでいた。
みんなをあのクエストに半ば騙すような形で誘ったのは僕だ。パーティの皆や、その話を持ってきた円卓、それにザインさんが悪い訳ではない。彼に責任を押し付けて逃れることは出来ないし、したくない。
これは僕の意地で、我儘で、他の人からみたら、つまらないプライドなんだろうけれど。
守るためには。
僕はもっと、強くならなきゃいけない。
…変更を終えてメニューを閉じ、視線を上げる。
準備がお互い終わり、フィールドで向かい合えば、勝負開始の合図だ。
「怯えなくて良い。勝負は簡単につくさ。俺が死ぬか、エミールさんが死ぬか…それだけだからな」
弩砲さんがそう言い、ガコン!とバリスタを構える。守護戦士の《バトルマスター》だ。
「…ま、勝負は勝つか負けるか…しかないからね」
声が、身体が震えないように注意を払い、杖を向けて挑戦的に笑みを浮かべてみせる。
1対1だ、余計なことを考えずに。
努めて、いつものように、振る舞うように。
勝負の結果は、数歩及ばず。
弩砲さんの《オンスロート》を避けられず、残りのHPを全部削られて、地面に倒れ込む。
薄れる意識の中、最後に聞こえたのは
対戦していた弩砲さんの声でも
観戦していた冒険者達の声でもなく
『ああ ああ 主様』
皮肉にも、再び脳内にリフレインした
助けられなかった少女の声だった。
==========
「最初、エミールさんはこう来たが、ここで《インフィニティフォース》を切ったのは早かったな。」
回復して貰って落ち着いたところで。
弩砲さんが、初めて1on1に挑むからということでさっきの試合の問題点を幾つか挙げてくれる。僕が地面に先の試合を書いたものに、弩砲さんが座り込んで木の棒で注釈を加えていく。
「あー、そうだね…最初からじゃなくてもよかったかな…」
「それとここで《ヴォイドスペル》分の魔力を余力として残さなかっただろう。エミールさんらしくないミスだな」
「うん、そこは失敗したってその後で気がついたんだけど……普段自分ではやらないことすると頭の切り替えがら上手くいかないね」
「何度かやれば慣れるさ。」
弩砲さんは注釈を書き終えると、がろん。と木の枝を転がした。
「で?エミールさんは何を迷っているんだ?」
「…接近のタイミングと切り札を切るタイミング、かなぁ……さっきは避けられたけれど、今度は……」
「ワザとはぐらかしているのか、それとも自覚がないのか、どちらなんだ?」
話を途中で遮られてしまった。声が少し低くなって怒っているようにも聞こえたため振り返ると、弩砲さんも此方を見ていたため、僕は深く息を吐いて頭を掻く。
「迷い自体はもうないよ。」
そう、あのこと自体は、もうどうにもならないことは分かっている。
「ただ、自分の力量不足を思い知った、だけなんだ」
ふ、と。自然と笑みが零れた。
「本当に、それだけ。」
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「……?」
その微笑みに、何処か危ういものを感じ、彼を注視する。
「だから、僕はもっと強くなりたい。」
立ち上がってそう呟くと、エミールは振り返る。
「さて…そういうわけなので弩砲さん。リベンジマッチを挑ませてもらいますよ!」
振り返ったエミールの表情からその危うさは消えていたため、気のせいだったのかと、夢見る弩砲騎士も立ち上がった。
「いつでも大歓迎だ…!」
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特技と装備をもう一度組み直し、作戦を練り直す。
「(大丈夫。本気でやりあっても、冒険者は死なない、から……)」
先の試合の教訓は頭に叩き込んだ。あとは、自分の作戦の流れに弩砲さんを乗せることが出来るかどうかだ。
果たして、その結果は。
「これで……!!」
ここ一番で渾身の魔力を込めた魔法も耐えて、立ち上がる弩砲さんに、流石に背筋をぞくりとさせながらも
「《ブレイン…バイス》ッ!!」
もう一度、残りの魔力を全部つぎ込んで魔法を放つ。これで、弩砲さんが倒れなければ…。
しかし、そこで、
「俺が落ちるか…まぁ良い。戦うなら負けることもある」
光となって散っていく弩砲さんを見て、近くに寄っていく。
「……っ…はぁ…はぁっ…弩砲さん…流石、守護戦士ですね……ありがとうございました。今回は僕の勝ち、ですよ」
弩砲さんが光になって消えてしまうと、エミールはその場に崩れるように、仰向けに倒れこむ。
仰向けになって見上げた、晴れた空が、とても眩しくて。荒い息のままで腕を目の上に乗せて、視界を覆う。
『ああ ああ 主様』
少女の声が、リフレインする。
魅了されていたにしろ、本当に好意を持っていたにしろ…僕達が彼女に気付けなかった、その代償。
「……もっと、もっと。…強くならないと…。これ以上…目の前で、あんなこと……させてたまるか……」
命は、一つだけ。代わりはない。
身を以て、改めて教えてくれた彼女に報うならば
これ以上犠牲を出さぬよう。…そのためにならば。
体を起こしたエミールの蒼の目に宿るのは決意と
──覚悟だった。
2015/01/05
2015/02/03 加筆修正